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ブドウ畑から始まる異世界スローライフ ~社畜で過労死、スキルは無いけど、しあわせに暮らしてます~  作者: lacol
第三部 秋

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第75話 エミルとマルコ

 苗は、テオさんの荷馬車で屋敷まで運んでもらった。


 テオさんに手伝ってもらい、二人で九十七本の苗木を荷台から下ろした。


 日も暮れかかっていたので、


「夕食、食べて帰ってください。用意しますので、ちょっと、待ってもらえます?」


「いや、フロリアンと約束があるので帰るわ」


 そう言うと、荷馬車に乗り込み、


「あー。疲れた」


 テオさんがこぼす。


「すいません。手伝ってもらって」


「いや、いいんだよ。ほんとうに気にしなくても。見返りなんて期待していないから。見返りなんて」


 二回目の見返りの言葉が少し強めに聞こえた。


 ――見返りはミゼットでということだな。


「考えておきます」


 テオさんはニコッと微笑んで、また、と言って帰って行った。


 ブドウ畑の横に、隙間なく並べられた苗を見て、気が遠くなる。


 ――これだけの苗、どうやって一人で植えるんだ。


 じっとしていても、始まらない。まずは、苗の状態を確認した。


 一本一本の苗はポットに植えられていて、土もいいぐあいにぬれている。


 実家のブドウ畑でも、木が枯れたところに、新しく苗を買ってきて植えたときのことを思い出す。


 ――そうだ、日が暮れる前にやることがあった。


 僕は、急いで家に駆けこみ、ヴィリーさんから受け取った土地の権利書を探した。


 見つけると、ブドウ畑に戻っては、その地図と見比べる。


 権利書の地図の方が広かった。ブドウ畑の先の土地もヴィリーさんのものだった。


 雑草が生えわたり、ところどころ、大小の石が転がっている。


 多分、今のブドウ畑の土地を掘り起こしたときに出てきた石を、そこに捨てたのだろう。


 ――石捨て場を耕せば、なんとか九十七本の苗を植えることはできるだろう。


 驚いたことに、家の前の草原もヴィリーさんの土地だった。


 でも、そこは、ベランダからの眺めもいいし、見慣れた景色になってしまったので、そのままにしたい。


 これから、耕す土地を眺め、気を引きしめた。


 ――明日から、やるか。


   ◇


 それから、二、三日、あれた土地で石を運び、地面を耕した。時々、近所の人たちに手伝ってもらったが、終わらない。


 力仕事が続く。


 地下室の樽も、そろそろ鉱山に運ばなければいけない。


 そんな、ある日の昼過ぎ、家の前に若い男が二人、立っていた。


 僕は、新しい土地を耕している手を止め、二人に大きな声で呼びかける。


「何か、ご用ですか」


「ここは、ハルさんのお宅でしょうか?」


「ええ、そうです」


「ハルさんは、どちらでしょうか?」


「私ですが」


 僕は、二人に近づいていく。


 すると、一人の男の顔が目を見開き、みるみる顔が青白くなっていく。


「大丈夫ですか?」


 僕が声をかけると、その若い男は、気を失い、倒れた。


 二人で、気絶した若い男を客間に運び、ベッドに寝かせた。


 男の枕元で、僕は、


「あとで、医者を呼んでこよう」


「ありがとうございます。まさか、ハルさんに会うなり、倒れるなんて……」


「それで、君たちは、僕に何の用ですか?」


「あ、申し遅れました。私はマルコといいます。もう一人はエミルです。首都から来ました。ヴィルフリート様から手紙を預かっています」


 ――ヴィルフリート様!


 僕は一封の手紙を渡された。


 開封すると、契約書や権利書でみた、流れるような達筆の字が並んでいた。


『夏以来だな。


 ワインはどうだ。うまくいっているか?


 君のことだから、大丈夫だろう。


 ところで、悪いが、二人をよこすので、ワインのことを教えてやってほしい。


 もちろん、こき使ってもかまわないから。


        ヴィルフリート』


 そういうことか、と理解はしたが、ヴィリーさんが無事でいたことが、何よりだった。


 キースさんから、聞いていたものの、手紙であらためて実感する。


 その夜、医者を呼んで、エミルさんを見てもらった。幸い、なんともなく、ただの疲れだろうということだった。


 エミルさんにはしばらく、休んでもらい、マルコさんには、申し訳ないが、次の日から手伝ってもらった。


 なにせ、作業は山積みなのだから。


 マルコさんは、愚痴もいわずに、むしろ、興味を持って、楽しそうに働いてくれた。


 ただ、通りを若い女性が通ると、仕事の合間でも、声をかけるのが、すこし気になる。


 数日して起きてきたエミルさんは、寡黙に、手をやすめることなく仕事をこなしていく。


 二人がいてくれて、大いに助かった。だが、エミルさんに関しては、どこか、よそよそしい。僕に目を合わすことがない。


 マルコさんがいうには、首都からここまでの道中は、明るく、二人は気が合ったそうだ。


 エミルさんの様子が変わったのは、ここに来てからのことらしい。


 二人が加わると赤ワイン用の苗を植える土地はあっという間に耕された。苗は、葉や枝などの特徴ごとに分けて植えていく。


 夜になれば、ブルーノさんから、ミゼットを借りてきて、藁を敷き詰め、そこにワインの樽をのせ、固定する。


 鉱山に運ぶのは、すでに発酵が終わり、一週間ほど経って、落ち着いた樽だった。


 ミゼットには三人で乗って、夜の道を鉱山に向かった。


 ミゼットは、まだ秘密で人目につかないほうがいいし、なにより、速いので、道を歩く人があぶない。


 マルコさんは、ミゼットに揺られながら、


「すげえ!」


「速え!」


 同じ言葉を何度も繰り返し叫んだ。


 エミルさんのほうは、ミゼットの握れるところを握って、黙って、揺れに耐えていた。


 鉱山につくと、ドルグさんに、この二人は誰だときかれる。


「マルコさんと、エミルさんです。ワイン作りを手伝ってもらってます。ここのことは、誰にもしゃべらないと約束しています」


 僕が言い終えると、マルコさんが、


「はい、口が裂ける前までは誰にもいいません。それに、私はハルさんの弟子です」


 と胸を張っていった。


 マルコさんはお調子者で、エミルさんは、よくわからなかった。


 それでも、二人は、真面目に働いてくれた。


 鉱山には、魔法石で動くトロッコが一つあった。


 それがあったおかげで、鉱山の入り口から石灰の洞まで一度に多くを運べ、力もいらない。


 それでも、ドルグさんは、


「便利で、楽になったのはいいが、ブルーノのやつ、もう少し早く作ってくれりゃあいいのに」


 どうやら、国からの無理な注文は収まって、今は平常運転だそうだ。

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