↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブドウ畑から始まる異世界スローライフ ~社畜で過労死、スキルは無いけど、しあわせに暮らしてます~  作者: lacol
第三部 秋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/85

第66話 お触書

 翌朝、地下に下りた。


 樽に耳を当てると、ぷつぷつと聞こえる。日ごとに音は減っているが、まだ、発酵が続いていた。


 発酵が終わると、澱を落ち着かせなければならない。


 ――運び出せるようになるには、あと十日ほどかかるだろう。


 運び出す前に、荷馬車を用意しなければならない。


 フェリルに餌を与えて、朝食を済ませると、荷馬車を手配するために僕は街に向かった。


   ◇


 街の職人ギルドで荷馬車を借りたいと相談すると、受付の人が奥へ入っていった。しばらくして、バーナードさんが現れる。


「ハルさん。奥へ」


 通されたのは、いつもの応接間だった。


 ワインを寝かすところが見つかったので、そこに運ぶ荷馬車を貸してほしいと伝えた。場所は秘密にしたいと話すと、


「わかった。うちのを一台、貸そう」


 ということになった。


 受付がお茶を持ってきて、立ち去ると、バーナードさんが神妙な顔でたずねた。


「敗戦のこと、聞いたかい?」


「街の広場で聞きました」


 バーナードさんは、椅子に深く座り直した。


「これから、どうなると思う? ハルさんの意見を聞きたい」


「はい……。こちらのことはわかりませんが、僕がいたところでは、負けたほうが賠償金を払うか、もしくは領土を一部、あけ渡すか……」


「そうか……」


「あと、裁判で負けたほうの国の上層部が責任を負わされます」


 学校で習った二つの大戦を思い出し、そう答えた。


「いっしょだな」


「でも、攻め込んだほうが負けた場合、多くは引き上げて終わります」


 これが最も多かったと思う。


「もし、攻められた国に戦力が残っていれば?」


「賠償金や領土の交渉がうまくいかなければ、攻めてくるでしょうね」


「そういうことだな」


 と、しばらくバーナードさんは黙った。


 鉱山のトロッコの電動化も相談しようと思っていたが、それどころではない。


 まして、鉱山の地下を借りることを秘密にしたいので、今、話すことではないと思う。


「荷馬車は、明日にでも用意しておくよ」


 と、バーナードさんは言ってくれた。


 ギルドを出て、広場にやってくると、また人が集まっていた。


 昨日とは、別の貼り紙が貼ってあった。


 人垣のうしろから、背伸びをして読んだ。


『以下の者に敗戦の責めを問う』という書き出しのお触書だった。


 次の行から、人の名前が並んでいた。その筆頭に知っている名前があった。


『サー・ヴィルフリート・ファルケンハイト』


 ――ヴィリーさん……


 人の名前が連なった後に、以下の文言が続く。


『名を挙げられた者の血縁は、同じく罪を問う。


 かくまった者も、同じ罪とする。』


 リーゼさんは、ヴィリーさんのことを大叔父様と呼んでいた。血縁者だ。


 僕は急いでその場を離れた。


 街の門をくぐると、顔なじみの衛兵が立っていた。かならず、あいさつをしてくれるのに、今日は目が合うと、何も言わずに目をそらした。


 僕は、村への道を急ぐ。いつもは見えるまわりの風景が目に入らない。


   ◇


 リーゼさんの家は静まり返っていた。


 窓の外側の戸まで閉まっていて、物音もしない。まるで、何年も住人のいない家のようにひっそりとしていた。


 呼び鈴を鳴らす。


 返事はない。


 もう一度、鳴らした。


 ドアが、少し開いた。


「……ハルさん」


 リーゼさんが、隙間からのぞいている。


「広場で貼り紙を見て……」


「知ってるわ」


 弱々しいリーゼさんの声だった。


「さっき、街から人が来て、教えてくれたの。どうぞ、中に入って」


 ドアが開く。


 居間には小さなランプが一つだけ灯っていて、アイラさんを囲むように、村の人たちが十人ほど座っている。


「ハルさんかい?」


 アイラさんが、顔を上げた。


 見渡すと、リーゼさんのお父さんが見えない。


「お父さんは?」


 と、リーゼさんにたずねると、


「奥で寝ているわ。知らせを聞いて、倒れたの……」


 アイラさんが付け加える。


「あの人、ああ見えて、体が弱かったの。だから、昔、ヴィルフリート様にあこがれて騎士になりたかったのに、なれなくて、悔やんでいたわ」


「ごめんなさいね、ハルさん。こんなときに」


 僕に謝った。


 これからどうするか、ある程度、決まっていた。


 母娘二人だけでも国を出る。それしかない、というところまで話は進んでいた。


 村のひとりが、


「行くなら、北の港町だ。そこから船に乗れば。港町に誰か信用できるものはいないか?」


 カーマインさんの顔が浮かんだ。


「知っている商人がいます。信用できると思います」


「じゃあ、ハルさん。その知り合いに手紙を書いてくれないか」


「わかりました」


 と、僕は引き受けた。


「ハルさん。すまないね」


 アイラさんに謝られる。


「いえ、これぐらい」


 また、ひとりの村の人が疑問を投げかけ、話は続く。


「で、港町までどうするかだ……」


「あそこまで、どうやって行く? 街道は、じきに見張りが立つかもしれない」


「昼間は目立つから動けない。動くとしたら夜だけだ。そうなると荷馬車で一週間ぐらいかかるな」


「誰が港まで送る?」


 と、一人が言うと、もう一人が、


「いや、だめだ。異国に女性を二人だけにするのはいけない。誰かが最後まで付き添うべきだ」


 そう言うと、みんな、黙った。アイラさんがすまなさそうに口にする。


「みなさん、これ以上、ご迷惑をかけることはできません。二人で異国に参ります。皆様の恩は一生、忘れません。ありがとうございます」


 沈黙が続いた。


 リーゼさんとアイラさんを安全な場所に連れていきたい。


 でも、そうなると、仕込んだばかりのワインをあきらめるしかない。


 ブドウ畑、地下室での作業が思い出される。


 リーゼさんの不安な顔が目に入った。


「僕が二人を連れていきます」


「だめよ。ハルさんにはブドウ畑があるじゃない」


「異国で、また一から始めればいいだけだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。