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ブドウ畑から始まる異世界スローライフ ~社畜で過労死、スキルは無いけど、しあわせに暮らしてます~  作者: lacol
第三部 秋

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第65話 貼り紙

 外に出ると、まだ太陽の光がまぶしかった。


 坑口まで見送ってくれたドルグさんと別れると、行きと同じ荷馬車のそばに、行きと同じドワーフさんが待っていてくれた。


「家まで、送ってやるよ」


「いいんですか?」


 帰りは一人で歩いて帰るのを覚悟していた。行きに鉱山に着いたとき、距離を知って、今日中には帰れないなとあきらめていた。


「ああ」


 と、短い返事が返ってくる。


「助かります。でも、それじゃあ、あなたの帰りが遅くなってしまうので、街までお願いします」


「わかった」


 あいかわらず、そっけない。


 道中、口数の少ないドワーフさんがめずらしく話しかけてきた。


「あのよ。あの洞窟のワインより、おいしいワインが作れるのか?」


「正直、わかりません」


「え!」


「でも、あれよりおいしいワインを飲んだことはあります」


「本当かい! どこでだい?」


 初めて、僕の話に食いついてきた。


「むかしに住んでいたところです」


「そうか……」


 残念そうにする。


「そのワインの作り方は教わっていて、今、それをもとに作っています。だから、きっと、おいしいワインが飲めると信じてやってます」


「そうか、じゃあ、楽しみにしているよ」


 そういって、初めて笑顔を僕に見せた。


   ◇


 日が沈みかけたころ、街に着くと、僕は荷馬車を降りた。


「ありがとうございます」


 と、僕がお礼を言うと、


「俺の名はロルフ。また、鉱山に来るときは連絡をくれ。迎えに来るから」


「そんなあ、もう道はわかりましたから」


「いいんだよ。必ず連絡くれよ。じゃあな」


 荷馬車は、来た道を帰っていった。


 街の門を抜けると、人垣ができている。


 広場の掲示板のような場所で、衛兵らしい男が、板に紙を貼りつけていた。


 集まった街の人のひとりが、


「戦が終わったって、聞いたんだが、ほんとうか?」


 すると、張り終えた衛兵が振り返って、


「ああ、ほんとうだ。ここに書いてある」


 街の人たちの歓声があがる。


 すぐさま、


「うちの旦那は、どうなったんだ。生きているのか?」

「息子は?」


 と、口々に衛兵に詰め寄る。


「さあ、そこまではわからない。それに……どうやら、うちの国は負けちまったらしい」


 敗戦を知って、一瞬静まり返った。何人かの女性たちが泣き崩れた。


「ほかに何が書いてあるんだ? その貼り紙に?」


「それだけだよ。読んでみたらわかる」


 と、言うと、衛兵は、その場を去っていった。


 残った街の人たちは、ただ立ちつくしていた。なかには地面に座り込み、すすり泣くものもいる。


 戦争が早く終わればいいと願っていたが、まさか、負けるとは思っていなかった。


 ――これから、どうなるんだろう……ヴィリーさんは大丈夫かな?


 しばらくして、掲示板の前の人たちは肩を落として散っていく。その中の何人かは同じ方向へと向かう。そこには教会があった。


   ◇


 村に着くとすっかり日は暮れていて、それぞれの家には明かりがついていた。


 道すがら、ずっと、これからの村や街、お世話になった人たちのことを考えていた。


 ――僕にできることは?


「ハルさん? こんな時間に、どこへ行ってたの?」


 家へと向かう通りを歩いていると、ランプを提げたリーゼさんと出会った。


 リーゼさんと会うと、すこし心が高鳴る。


「……ちょっと遠くまで」


「ふーん」


 リーゼさんの機嫌が悪くなりそうなので、


「ワインを寝かせるところが見つかったんです」


「ほんとう?」


 リーゼさんは目を輝かせた。


「どこなの?」


 と、訊かれるが、


「そこの人たちに迷惑を掛けたくないので、秘密にしたいんだけど……」


 再び、リーゼさんの顔が曇る。


「リーゼさんなら、いいか。誰にも言わないって約束してくれます?」


「もちろん」


 リーゼさんの顔が晴れる。


「鉱山です」


「え! 鉱山なの?」


「うん。ほら、ワインを好んで飲むのは炭鉱のドワーフさんたちだけだと、聞いたことがありますよね?」


「あるわ」


「その秘密が今日、わかったんだ。鉱山の地下にはワインを寝かすのにうってつけの場所があって、そこに眠らせていたワインを炭鉱のドワーフさんたちが飲んでいたからなんだ」


「そうだったの……」


「その場所を貸してくれることになって。でも、ドワーフさんの邪魔にならないためにも秘密にしておきたいんだ」


「わかったわ。二人の秘密ね」


 と、うれしそうな笑顔を僕に見せる。


 この笑顔を、敗戦のことで曇らせたくない。


 ――何があっても、この笑顔を守りたい。


 と、僕は、リーゼさんの笑顔に誓った。

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