第52話 ヴィリーさんとの日々
ヴィリーさんと二人、ブドウ畑を見て回った。
歩いては立ち止まり、立ち止まってはブドウの話をする。ヴィリーさんは、僕の話に、驚いたり、感心したりと、表情を変えた。僕のほうも、木ごとの癖や昔の出来事を、ヴィリーさんから教わった。日誌には書いていなかったこともあった。
そうしていると、
「大叔父様!」
と、聞き慣れた声がした。リーゼさんが、駆け寄ってくる。
「帰ってらしたんですね」
「リーゼかい。しばらく見ないうちに、綺麗になったね。見違えたよ」
「何を言ってるんですか。去年も会ったじゃないですか」
「そうだったかな」
「相変わらずですね。お元気でした?」
「ああ」
リーゼさんは、僕に気づくと、すこし、はにかみながら、
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
と、僕も、なんとか、あいさつを返した。
二人が少しぎこちなかったからか、ヴィリーさんが、にやにやしている。
そんな、ヴィリーさんに、
「何か?」
「いや、別に」
と、にやけ顔を崩さない。
すると、リーゼさんが、
「そうだ。みんなに知らせなくちゃ」
と言って、逃げるように畑を去っていった。
「リーゼとは、仲がいいのかい」
「ええ。親切に、してもらっています」
「そうか……」
ヴィリーさんのにやけ顔が、やわらかな笑顔に変わっていた。
◇
そのあとは、大変だった。
近所の人たちが、次々にあいさつに来る。しばらくすると、街の人までやってきた。少し遅れて、三人のギルド長も、あわてて駆けつける。みなに囲まれ、ヴィリーさんは、終始、笑顔で応対していた。
その夜は、ヴィリーさんの甥である、リーゼさんのお父さんとお母さん。そしてリーゼさん。三人のギルド長を交えて、夕食をとることになった。
これほどの人数の料理を作ったことはない。アイラさんとリーゼさんに、手伝ってもらった。といっても、二人があまりに手際よく進めるので、僕は、ほとんど何もできなかった。台所の勝手も心得ていて、口を出す隙もない。それでも、食後のデザートだけは、任せてもらった。
食卓には、あの大きくて長いテーブルのある部屋を使った。広すぎるし、一人で食べるにはさびしくて、これまで一度も使っていなかった部屋だ。
そうヴィリーさんに話すと、
「そうだね……」
と、少し悲しそうな顔をした。
台所で手持ち無沙汰になり、食卓をのぞくと、ギルド長の三人が、街や村の今の様子を語っていた。
「君たちに、街と村を押しつけて、すまない」
と、ヴィリーさんが恐縮する。四人が、そろって暗い顔になったが、
「でも、ハルさんのおかげで」
「ハルさんが、いなければ」
と、ギルド長たちが、口々に僕への感謝を並べはじめた。
「いえ、僕なんて、何も。むしろ、僕のほうが、みなさんに助けてもらってます」
恐縮しても、「そんなことはない」と、否定されてしまう。
いたたまれなくなって、
「台所、見てきます」
と、逃げ出した。
あいにく、部屋を出たところで、料理を運んできたリーゼさん母娘と鉢合わせ、そのまま食卓へ引き返すことになる。
次々と並ぶ料理には、僕が教えたものもあった。
料理がそろい、リーゼさん母娘も席に着く。ヴィリーさんが、ひと口食べて、
「うまいな。腕を上げたね」
と、アイラさんを褒めると、
「ハルさんのおかげで、レパートリーが増えました」
「僕は、国の料理を少しお伝えしただけです。ここまでおいしくしたのは、アイラさんの腕ですよ」
本心だった。僕の作るものより、ずっとうまいのだから。
「ありがとう。でも、娘のリーゼも手伝ってくれたのよ」
「ええ、リーゼさんの料理がおいしいのも、知っています」
そう答えると、リーゼさんが、恥ずかしそうにうつむいた。
ヴィリーさんをはじめ、みなが笑みを浮かべて、なぜか僕を見る。
そのあとは、楽しい時間が過ぎていった。
「この部屋で、また、こんな大勢で食事ができるなんて、思ってもみなかった」
ヴィリーさんがこぼした。
食べ終えるころ、僕は立ち上がり、台所でデザートを用意した。
デザートはパンケーキにした。中はふわふわで、口に入れると泡のようにとける。溶かしバターとシロップをかけ、まわりに果物を添えた。
皆が、それを口にすると、初めての食感と甘さをおさえたおいしさに感動している。
リーゼさんが、
「今度、このデザートの作り方も教えて」
と、せがむので、僕は、教える約束をした。




