第41話 冒険者ギルドと夏祭り
その朝、ブドウ畑の世話を早めに切り上げ、早めの食事をフェリルに与え、僕は出かけた。
職人ギルド長のバーナードさんに誘われて、ブルーノさんの鍛冶場へ行くことになったのだ。新しいモーターについて、二人に、相談したいことがある、という。
道の途中でバーナードさんと落ち合い、そこからは、ブルーノさんが寄こしてくれた馬車に乗った。
道すがら、バーナードさんが、
「魔獣は、どうしています?」
と、訊いてきた。
「ええ、すっかり、なついていますよ」
と答えると、驚いていた。
今では、畑の周りで害獣駆除までしてくれている。
つまり、害獣退治で捕まえた魔獣に、害獣退治をさせていた。
そんな話をすると、バーナードさんはおかしそうに笑った。
「まあ、Sランクの冒険者が来るまでの話なんですけどね」
「情が移りましたか?」
「ええ、まあ」
「Sランクか……当分、来ないでしょうな」
「どうしてです?」
訊きかえすと、バーナードさんは、ふいに口をつぐみ、暗い顔をした。
ちょうど、鍛冶場が見えてきたところで、
「おや、着きましたよ」
と、話をそらされた。
◇
ブルーノさんが、鍛冶場の前で、待っていた。そろそろ着くころだと、待ちきれずに、外に出ていたらしい。
中に入ると、机の上に、以前の発電用より、ひとまわり小さなモーターが、置いてある。
「これが、モーターってやつかい」
バーナードさんが、顔を近づけて、しげしげと見る。
魔法石につないだスイッチを入れると、シャフトの先につけた小さな旗が、勢いよく、くるくると回った。
「ほう、すごいな」
持ち運びしやすいように、実験用として、小型のものを作ったのだという。
「で、相談ってのは、なんだい?」
バーナードさんが、ブルーノさんに向き直る。
「ひとつは、このモーターだ。職人ギルドを通して、ハルさんと契約を結びたい」
「わかった。さっそく、契約書を作ろう。ふたつ目は?」
「見てのとおり、この鍛冶場が、手狭でな。もっと広い、新しい工房を建てたい」
仕事場を広げるには、職人ギルドの許可がいるらしい。特定の職人だけが大きな工房を構えて、利益を独り占めしないための決まりなのだそうだ。
「設計書を送ってくれ。検討する。……で、他には?」
「このモーターよ。ハルさんの言うとおりに作ってはみたが……こいつは、とんでもないものだぞ」
「そうだな」
と、バーナードさんも、うなずく。二人の顔が急に真剣になった。
「そんなに大変なものを作らせてしまったんですか?」
「ああ。これがあれば、いろんなことに使える。例えば、街の門を開閉とか、今の乗ってきた馬車の馬のかわりとか……」
と、バーナードさんは、うれしそうだったが、
「だが、時期が、悪い」
と、ブルーノさんが口をはさんだ。
僕が不思議そうな顔をしていたんだろう。
「戦だよ」
ブルーノさんの声が低くなる。
「こんなときに、モーターのことが知られてみろ。どうなるか、わからん。昔、ギルドの古い記録に、あったんだ。戦の支度で、大勢の職人が安い賃金でこき使われた、とな」
「おれも、じいさんから、聞いたことがある」
「だから、このモーターは、しばらく、秘密にしておいたほうがいい」
「もちろん、こっそり実験するのは、かまわんだろ?」
「外に漏らさないことが、絶対条件だぞ」
「わかった。うちの連中にも言っておくよ。あいつらは口が堅いんでな」
「――というわけで、ハルさん。モーターのことは、しばらく、内密に」
「わかりました」
◇
モーターの話が済むと、ブルーノさんが、ふと、
「ところで、冒険者ギルドは、大丈夫なのか?」
「まずいことに、なっている」
「やっぱり、か」
二人の話に、ついていけない僕は、
「どういうことです?」
と、たずねた。
「この国生まれの冒険者は徴兵された。他の国の冒険者は、国外へ追い出されてね。まあ、多くは、噂を聞きつけて、命じられる前に、さっさと逃げ出したがね」
と、バーナードさんが教えてくれる。
「だから、ギルドに残ってるのは、徴兵を逃れた年寄りか、採取専門の腕っぷしのない連中ばかりさ」
と、ブルーノさんが付け加えた。
――そうか。だから、フェリルに手を貸してくれる、Sランクの冒険者が、いないんだ。
ようやく、腑に落ちた。
◇
「なあ、ギルド長。北の森の魔物を、勇者様が倒しただろう。あの報奨金は、国から出たのか?」
「出たよ。……相場の、十分の一だがな」
「そりゃ、ひどい。……おい、待てよ。それじゃあ、夏祭りの予算はどうなる。冒険者ギルドから、集められないだろう」
「そうなんだ。商人ギルドは、武器の流通で儲けているようだが、それでも、穴は埋まらん」
「夏祭りは、どうなるんです?」
「規模を縮めるか……最悪、中止だな。まずは、花火が取りやめだろう」
「花火?」
思わず、口をはさんでしまった。
「なんだ、花火も知らないのかい」
「知ってます。夜空に打ち上げる、やつですよね」
「そうだよ」
――まさか、この世界にも、花火があるなんて。
夏の夜空に、大輪の花が咲く。子供のころ、家族で見上げた、あの光景がふいによみがえった。
「僕も、見たいな。……花火って、いくらぐらい、かかるんですか?」
バーナードさんが、毎年の、だいたいの費用を教えてくれた。
――これなら。
今の僕の蓄えで、なんとか、賄える額だった。とくに、石鹸の実入りが、思いのほか大きかったのだ。
「その花火の分、僕が出します」
「いいのかい?」
「もちろんです。街や村のみなさんには、いつもお世話になっていますから。いつか、お返しがしたいと思っていたんです」
やっと恩返しができる。
僕は、それがうれしくてならなかった。




