第37話 魔獣フェリル
次の日、描き上げた設計図を持って、鍛冶場へ向かった。
ブルーノさんの前で、それを広げる。
「……すげえな。こんな精密な設計図、見たこともないぜ」
ブルーノさんが感心する。
シャフトの太さ、磁石の形、コイルの直径と巻き数、加工の手順。余白には、公式を使った数式まで書き込んである。
僕自身、驚いていた。
こんな図が、自分に描けるとは思わなかった。ラチェットばさみのときなんて、子供の落書きのような絵しか、描けなかったのに。
ただ、今回は、元いた世界の理科の教科書や、技術の授業での製図の書き方を思い出しながら、詳しく書いてみた。それが思ったより、出来が良かったのだ。
僕が作ってもらいたいもの。それは、『モーター』だった。
モーターは、電気を流せば、シャフトが回る。そして逆に、シャフトを回してやれば、電気が生まれる。この電気を使って、電気柵を作りたかった。
僕は設計図を見ながら、ブルーノさんに細かく説明をしていると、他のドワーフも集まって聞き始めた。
皆に説明しながら、質問があれば答えた。わかりづらいところや説明が足りないところがあれば、その場で書き足した。
一通り、説明し終えると、
「どうですか?」とブルーノさんに訊いてみた。
「むつかしいが、やってみるか」
「お願いします。ブルーノさんにしか頼めなくて」
「うれしいこと言ってくれるね。よし、作ってやるよ」
ブルーノさんは、僕の書いた設計図を見つめながら、うれしそうに言った。
◇
さて、僕のほうはというと、モーターを回すための水流探しだ。
勢いのある、滝のような流れがいちばんいい。けれど、そんな都合のいい水場に、心当たりがなかった。
野菜畑に引いている水は、もともと湧き水だから、力が足りない。山奥の温泉から湧く水もあるが、あれは、含まれる成分で、モーターを傷めてしまうかもしれない。
――いきなり、手詰まりだ。
モーターのことばかり気にして、肝心の、それを回す水のことを、すっかり後回しにしていた。
でも、まずは、モーターだ。
水流のことは、ひとまず置いていて、僕は、魔獣に壊された柵の修理にかかった。
ギルドへ行ったり、設計図を書いたり、水流を探したりと、ドタバタして柵を直すのが後回しになっていた。
昨日並べた針板は、そのままで、壊された様子はない。おかげで、畑も荒らされていなかった。
◇
柵を直していると、
「ハルさん!」
と、職人ギルド長のバーナードさんが、荷車に乗って、慌てた様子で、やってきた。
留守のあいだに、僕が魔獣で困っていると聞いて、飛んできてくれたらしい。
バーナードさんは、焼けた柵と、地面に残った足跡を、しばらく見つめて、
「これは……フェリルですね」
と、言った。
「フェリル?」
「畑を荒らして、作物を食う魔獣です」
「それなら、ただの害獣と、同じじゃ?」
「いいえ。フェリルは、魔石を持っていて、火を噴くんです。だから、魔獣に分類される」
「なるほど。火を噴くなら、魔獣ですね……」
「とはいえ、畑は荒らしても、人は襲いません。臆病な魔獣なんですよ」
「それは、安心しました」
ほっとした僕に、バーナードさんは、声をひそめた。
「ただ――亜種のなかには、いくつもの魔力を持つものが、いましてね。そうなると、対処がやっかいで、災害級に分類される」
「災害級……」
物騒な言葉に、僕は、思わず身をすくめた。
「まあ、たいていは臆病者で、めったに姿を見せません。退治しようにも長丁場になるし、倒したところで、取れる魔石は小さくて、割に合わない。だから、誰もやりたがらないんです」
そう言って、バーナードさんは、荷車から、鉄の檻を下ろした。
「これ、捕獲用の檻です。仕掛けておいてください。魔石が仕込んであるので、中に入れば、魔力は使えなくなります」
「ありがとうございます。助かります」
二人で、畑の裏手に、その檻を据えた。
バーナードさんが帰り、一人、壊された柵を直し終えたころには、すでに日は沈みかけていた。




