第36話 魔獣駆除
ブドウの実は丸くふくらみ、すくすく育っていて、風通しもよく、カビも生えていなくて安心している。
ただ、ブドウの木に水を与えるためのポットの水の減り方が日に日に早くなってくる。ブドウ畑の世話はほとんど、このポットに水を注ぐことに時間が割かれた。
野菜のほうも、次々と食べごろになり、食卓に並んでは、おいしく食べている。
――そろそろ、秋野菜も考えなければ……
そんなことを考えながら、ベランダで、大きな瓶に入れた玄米を木の棒でつついていた。
今のところ、手間はかかるが、精米する方法は、このやり方しか思いつかない。
白いごはんを食べられるのは、まだ先である。
ある朝、いつものように畑仕事を始めようとしたとき、僕は、思わず声をあげた。
「……やられた」
野菜畑の柵が、一部、なぎ倒され、畝が荒らされていた。ナスやトマトが、いくつか、食い散らかされている。
幸い、ブドウ畑のほうは無事で、被害は野菜畑だけ。それも、そう大きくはない。はじめは、小動物のしわざだろうと思った。
だが、柵をよく見て、ぞっとした。
畑の周りには、万が一のため、以前にブルーノさんに作ってもらった有刺鉄線を、ぐるりと巡らせてあった。その鉄線の一部が、地面に倒れていた。おまけに、柵の木が一本、真っ黒な灰になって、崩れ落ちている。
――普通の害獣じゃないな。
有刺鉄線がだめなら、次に思いつくのは、電流を流す電気柵だ。けれど、この世界に電気はない。灯りも動力も、みんな魔法石で賄っている。
――電気柵なんて、作れるわけがない。
そう思って、あきらめかけていた。
◇
何か手立てはないかと、昼から、街の職人ギルドへ向かった。
あいにく、ギルド長のバーナードさんは留守で、受付で相談することになった。
もともと、あの有刺鉄線は、僕がブルーノさんに頼んで作ってもらったものだ。害獣よけに役立つと評判で、近ごろは、畑や家の周りに巡らせる人が増えているらしい。
「これ以上のものは、ちょっと……」
と、受付は困り顔だった。
柵の木が灰になっていた、と伝えると、受付の表情が変わった。
「それは、ただの害獣じゃないかもしれません。もしかすると魔獣かも……。魔獣のことでしたら、冒険者ギルドに相談したほうがいいです」
◇
職人ギルドに勧められて、冒険者ギルドにも足を運んだ。
名前からして、あまり関わりたくない場所だったが、仕方がない。
受付で話すと、やはり、魔獣の一種だろう、という。ただ、退治するには、冒険者を雇って、一日中、畑を見張ってもらうしかないらしい。
――それは、大ごとだ。
「少し、考えさせてください」
そう言って、僕は、冒険者ギルドをあとにした。
◇
帰り道、ブルーノさんの鍛冶場に、寄っていくことにした。
鍛冶場は、以前より、ずっと賑わっていた。何人ものドワーフが、汗を流して、槌を振るっている。僕の作った道具の評判で、腕のいい職人が、あちこちから集まってきているのだという。
「よう、ハルさん。今日はどうした、何か用か?」
ブルーノさんが、僕に気づいて、手を止めた。
これまでのいきさつを話すと、
「それは、困ったな」
と、腕を組む。
結局、ブルーノさんと話し合って、応急の手立てとして、鉄の板に棘をびっしり植えた「針板」を作り、畑の周りに並べてみることにした。
その材料を取りにいくブルーノさんについて、鍛冶場の裏へいく。
そこには、鉄鉱石が、山と積まれていた。ふと、その脇に、別の小さな山があるのに気づいた。
「これは、なんですか?」
「ああ、それか。くず鉄さ。他の石とくっついちまって、使いものにならん」
――石が、くっつく?
黒い石を拾おうとすると、強い力で他の石がくっついて持ち上がってしまう。
――磁石だ。
その瞬間、小学生のころの理科の実験を思い出した。
「ブルーノさん。作ってほしいものが、できました」
「この針板は、どうするんだ?」
「それも、お願いします。新しいのが、できるまでの、つなぎに」
「そうか。できたら運んでおくよ。で、今度は、どんなものを作るんだ?」
「今度は……ちょっと、複雑かもしれません」
「ラチェットより、か?」
「ええ。むずかしいので、いったん家に帰って、設計図を描いてきます」
「おう。楽しみにしてるぜ」
僕は、急いで、家へと向かった。




