第31話 パスタ
今朝、畑でとれたナスとトマトで何をつくろうかと考えていると、季節がら、熱いものより冷たいものが食べたくなった。
それで、畑に行く前に、ナスを網の上で焼いて、粗熱をとったあと、冷蔵庫で冷やしておいた。
もちろん、トマトも冷たいのを食べたくて、いっしょに冷蔵庫に入れておいた。
畑仕事が終わり、台所で昼食を作る。
うれしいことに、この世界には、パスタに似たプロメという食材があった。
以前に、市場で見つけたとき、店の人に調理方法を聞いた。
「これなら、塩の入った沸騰したお湯に15分ぐらい、茹でるといいよ。この細いのは、12分ぐらいだね。トマトソースと混ぜて炒めるのもいいし、そのまま、こっちのオイルをかけて食べるほうが、私は好みかな」
――味は食べてみないとわからないが、間違いなくパスタだね。
そうして、僕はオリーブ・オイルに似たオイルと、にんにくに似た香味野菜と辛みがあるという唐辛子に似た香辛料を買って、持ち帰った。
その日は帰るなり、オリーブ・オイルとにんにくを炒め、瓶詰めにして、そこへ唐辛子を入れた。
――そういえば、今日、ちょうど唐辛子を漬け込んだオリーブ・オイルもいいあんばいに味がしみ込んでいるだろう。昼食はパスタだね。
パスタを茹で、茹で上がったパスタを味見した。
――まさにパスタだね。でも、こんなにおいしいなんて。
もちもちとした食感に、今まで食べたことのない小麦の味がしっかりしていて、甘みもある。
そのパスタを流水で冷やした。
充分に冷えたパスタを皿に盛りつけ、冷やしておいたナスをのせ、トマトは輪切りにして飾った。
そこへ、作っておいた唐辛子入りのオイルをかけた。
――冷製パスタの出来上がり。
パスタとフォークを持って、ベランダにでた。
軒下につるした風鈴の下、テーブルに座ってランチをする。
パスタをフォークに絡め、ひとくち口にする。
冷たいパスタと少し辛みのあるオイルが絶妙で、暑さを和らげてくれる。
冷えたトマトも新鮮で、生々しく、わずかな甘みもあり、うまい。
残念だったのが、ナスだった。
元の世界のナスに比べて、皮が厚く、実も少しかたい。みずみずしいナスを期待していたのだが……
――もう少し火を通したほうがよかったかな。
それでも、こっちの世界にきて、初めて作ったパスタは最高にうまく、もう一皿おかわりしようと、立ち上がったときだった。
「こんにちは。ハルさん。お昼、済みました?」
その声は。と振り返ると、やはり、リーゼさんだった。
「こんにちは。リーゼさん。いえ、まだ、足りなくておかわりを作りに行くところです」
「何を食べていらっしゃったんですか?」
「冷製パスタです」
「冷製パスタ?」
――あれ? この世界では、パスタをなんて言っていたっけ?
「よければ、どうです? 少し時間がかかりますが、いっしょに」
「いいんですか?」
「ええ、お口に合うか、わかりませんが、よろしかったら」
「うれしい」
と、リーゼさんが跳ねるようにベランダにやってくる。
「じゃあ、そこで、待っててください」
と、僕は言って、あわてて、台所に向かった。
◇
ベランダに、二人分の冷製パスタを運んだときに、リーゼさんは、椅子にもたれて、眠っていた。
――待たせすぎたかな。起こすの悪いかな。
と、思い、リーゼさんを起こさないように、ふた皿のパスタをテーブルにそっとおいた。
輝くような金色の髪に透き通る肌。頬にうっすら赤みがさしている。それに小さくてやわらかそうな唇。
目を奪われるが、我に返り、慌てて視線をそらす。
無防備に眠っているリーゼさんを横に、パスタを口にする。
チィリーン
風鈴が風にゆれて、涼夏を運んでくる。
僕は、眠っているリーゼさんに視線を向けることができず、ただ目の前に広がる草原を眺めながら、パスタを食べた。
食べ終えると、少し眠くなった。
◇
陽射しが、ベランダのひさしよりも低くなって、顔を照らした。それで、僕は目を覚ました。
――いつのまにか寝てしまったようだ。
テーブルの上には、空になったお皿が2枚、並んでいた。
コップの下にメモがはさんであるのに気づいて手にとる。
『ごちそうさまでした。
冷製プロメ。美味しかったです。よければ、また食べたいです。
リーゼ』
と書かれてあった。
――そうだ。パスタじゃなくて、プロメだ。
チィリーン
と、風鈴の音が澄みわたるように響いた。




