第27話 祭り
すっかり日が暮れたが、広場は昼間のように明るかった。
あちこちに吊るされた明かりが、夜空の星々を見えなくしていた。
軽快な楽器の音と人々の笑い声が、広場を駆け巡り、その隙間をぬって、肉の焼ける匂いと食欲をそそるスープの香りがただよっている。
祭りが始まる前の高揚と、すでに祭りが始まったかのような賑わいが入り混じっていた。
ブルーノさんは、すでに何人かのドワーフたちとお酒を飲み交わしていた。
その中には、フロリアンさんを含むエルフもいた。
――ブルーノさんとフロリアンさんって知り合いだったんだ。そりゃあ、そうか。同じ街の住人だもんな。
と、一人、納得した。
リーゼさんは、ロッテさんとグレタさん、それに街や村で見かける同じ年頃の女の子と固まって、楽しそうにしゃべっている。
他にも、村や市場などで顔を合わす人達が祭りの準備に忙しくしたり、すでに祭りを楽しんでいる人もいた。
そんな風景を、並べられた端のほうに座り、眺めながら、思った。
――この世界にきて、本当によかった。
◇
「皆さん、お静かに!」
壇上に立った男がみんなに告げた。
男は歳はいっていたが、鍛えられた体をしている。
「北の森の魔物を討ち倒した、勇者パーティー『黄金の薔薇』の登場だ。温かい拍手で迎えてほしい」
すると、二人の男性と一人の女性が壇上にあがってくる。
割れんばかりの拍手が湧き、いたるところで、口笛が聞こえる。
三人の真ん中に立つ男性は軽装だが、張りきれんばかりの筋肉をしている。顔は端正というよりも、甘いマスクをしていた。
若い女性たちの黄色い声があがる。
腕には大きな箱を抱えていた。
――彼が勇者だろう。
その横には、勇者よりもふたまわりも大きく見える筋骨隆々の男。彼も普段着を着ていた。
――彼は盾だな。
そしてもう一人は、法衣を身にまとい、杖を持った、いかにも敬虔な聖女らしい女性だった。
聖女は、広場の端にいた僕に気づいて、微笑みかけてきた。
ドキッとしたが、そのあと、聖女は広場に向き、二度と目を合わせることはなかった。
勇者は、一歩前に進み、抱えていた箱をあける。
中には見たこともない大きな牙が入っていた。勇者は牙を高く掲げて、
「魔物の正体は、クルーンでした。でも、この通り、討ち取ってきました」
広場に歓声が湧き、いつまでも鳴りやまない。
「死骸はどうしたんです?」
と一人の男が大声で叫び、歓声が止む。
今度は、聖女が一歩前にでて、男にこたえる。
「死骸は残しています。もちろん、私が浄化しましたので、安心して素材を集めに行ってください」
それを聞いて、男とその周りの男たちも歓声をあげる。
どうやら、その男たちは冒険者らしい。誰もが屈強な体格をしていた。
「明日、さっそく、回収にいくぞ」
「おぅ!」
と雄たけびをあげる。
勇者パーティーが壇上を降りると、祭りの続きが再開される。
勇者が壇上を降りるとき、一瞬、僕を見たような気がした。
「ハルさん……」
リーゼさんの声がして振り向くと、ロッテさん、グレタさん、それに数人の女の子に取り囲まれていた。
「みんなに、紹介してって頼まれて……」
「あ、いいですよ」
と、言って、初めて話す女の子とあいさつと他愛もない会話を交わすと、リーゼさんと女の子たちは去っていった。
「もてますね」
と、今度は職人ギルド長に声をかけられる。ギルド長は、なみなみとお酒が注がれた杯を手に持ち、顔がほんのり赤い。すっかり、できあがっているようだった。
「いいお祭りですね」
僕がそう言うと、
「そうですね。これで、冒険者ギルド長も一安心ですよ」
「冒険者ギルド長?」
「さっきまで、壇上に立っていたひとですよ。ここら一帯の冒険者をまとめているんですよ」
「ああ」
それから、今回の魔物討伐について教えてくれた。
魔物を倒すと、依頼をしたものと、国から、まとまった報酬が出る。その大半は勇者一行の取り分になるが、残りが冒険者ギルドに入る。今夜の祭りは、その金を見越して行われたのだという。
「もし討伐に失敗していたら、こうはいかない。国の討伐軍が出張ってきて、ギルドには一銭も入らん。そうなりゃ、祭りもなかったし、軍の駐留の費用までかさむ」
そうなんだ、と納得する。
――この祭りにも、そういう理由があったんだ。
「まあ、国がきちんと払ってくれれば、いいんだがね……」
ギルド長は、どこか含みのある口ぶりで、付け加えた。
勇者パーティーと冒険者ギルド長をねぎらいにいかないと言って去っていった。
そのあと、近所の人たちや、ブルーノさんに捕まり、たらふく料理とお酒を勧められた。
次の日、久しぶりの二日酔いを味わった。
昼過ぎには、二日酔いはおさまった。
畑に出てみると、照りつける日差しと汗ばむ陽気に季節を感じる。
ブドウの木のつるも伸びはじめ、葉も茂りはじめている。
――もう、夏なんだな。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。心より感謝申し上げます。
これにて『第一部 春』は完結です。
物語は『第二部 夏』へと続いていきますので、引き続き、お楽しみいただけたら幸いです。
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