第26話 勇者様一行
いつもの日の光のもと、そよ風に吹かれながら僕はブドウ畑のポットに水を足していた。
ときどき、小鳥の小さな鳴き声が聞こえる、太陽がまだ登りきらない昼前だった。
「勇者様一行が北の森の魔物を討伐したよ!」
静けさを破り、子供の叫び声がした。
最初は、子供の悪戯かと思った。近所の人たちが次々と家を出てきては、子供の周りに集まってくる。
「本当か?」
「勇者様が北の魔物を倒してくれたのかい?」
「うそじゃないだろうな?」
と矢継ぎ早に質問する大人たちに、その子供は叫ぶように言った。
「本当だとも、勇者様一行が冒険者ギルドに報告したんだから」
それを聞いた大人たちは胸をなでおろすように、口にする。
「これで北の森は安心だ」
「隣村に嫁いだ娘に会いに行ける」
「ああ、勇者様に感謝してもしきれないわ」
彼らの話を聞いて、混乱した。
――勇者様。魔物。まるでファンタジーの世界じゃないか。……いや。そう、ここは異世界。勇者や魔物がいたっておかしくない。そういえば、僕は、この世界に召喚され、スキルがないといって城を追い出されたんだっけ。
詳しく知りたいと人が集まっているところに向かおうとすると、
「今夜、街で勇者様一行を祝う祭りが行われるから、みんな手伝ってくれって、ギルド長が」
と、子供が伝えた。
「おう、それはいい」
「ぜひ、手伝いに行こう」
と、人たちは街へ向かいだした。
僕は慌てて、彼らのあとを追い、親しくしてもらっている奥さんに訊いた。
「どうしたんです?」
「勇者様一行が北の森に住みついた魔物を倒してくれたんだよ」
「北の森に魔物がいたのですか?」
「知らなかったのかい? 去年の夏ごろに住みついてね。迷惑してたんだよ」
「そうだったんですか……」
「それで、今夜、祭りを行うんだけど、ハルさんも手伝ってくれるよね?」
「ええ、できることがあれば、やります。なんでも言ってください」
「ところで、勇者様って?」
「あんた、勇者様も知らないのかい? あきれたね」
「すいません」
なぜか、謝ってしまった。
「冒険者って、ランクがあるのさ。その頂点に立つのが勇者様なの。災害級の魔物を倒したり、ダンジョンを攻略してなれるのさ」
どこかで聞いた設定なのだが、
「ダンジョンってあるんだ」
「もちろん、あるさ。ハルさんの国には無かったのかい? あんたのいた国って平和だったんだね」
奥さんに、あきれられてしまった。
――ダンジョンも、災害級の魔物もいたんだけどね。ゲームやアニメの中には。
そこへ、リーゼさんがやってきた。
「ハルさん、みんなでどこ行くの?」
「勇者様一行が、北の森の魔物を倒したんで、今晩、お祭りをするので、その準備に行くんだって」
「うそ、勇者様が?」
リーゼさんが胸に手を当てて喜んでいる。
リーゼさんもいっしょに、村中の人々が街へ向かった。
街につくと、街の広場では準備が進んでいた。
湯舟ほどの大きな釜で具材を煮込み、牛ほどの肉をいくつも焼いている。
椅子が並べられ、お酒も樽ごと用意されている。
僕は舞台作りを手伝った。
舞台を組んでいると、ブルーノさんとあの若いドワーフもいた。
「ブルーノさん!」
「ハルさんじゃねえか。お前さんも手伝いにきたのかい?」
「ええ」
と軽く声をかけると、いっしょに舞台を組み立てる。
舞台を組み終えて、一息ついていると、テーブルに皿を並べるリーゼさんに気づく。
リーゼさんも気づいたのか、僕に微笑んだ。その様子を、そばにいたロッテさんとグレタさんにからかわれているようだった。
それにしても、ここの人たちは手際がいい。その日に祭りの準備ができるなんて、よほど慣れているのだろう。
それだけ魔物の騒ぎも多いということか、と思うと、少し気になる。
――まあ、勇者様もいることだし、大丈夫だろう。
そんなことを思っていると、すでに日は沈み、広場のいたるところで明かりが灯る。
広場はすっかり祭りの雰囲気に染まっていた。
――祭りって、いつ以来だろうか?




