第20話 ピザ・パーティー
ついに、ピザ窯が、完成した。
石灰の店から運び込んだレンガを積み、すきまをセメントで埋めた。ドーム型に組み上げるためにレンガの角を削り調整もした。乾くのを待っては、また積む。その繰り返しで、ようやく完成にいたった。
思った以上に、うまく作れた。
――これじゃあ、まるで学生時代によく行ったピザ屋さんのピザ窯と同じじゃないか!
さっそく、火を入れる。乾いた薪をくべると、ドームの中で、炎が勢いよく舞った。石が、じわじわと、熱を蓄えていく。
◇
材料は、市場でそろえてきた。ナス、トマト、チーズ、塩漬けの肉。それに、庭で摘んだハーブ。
野菜畑のナスとトマトは、まだ花も咲いていない。実れば材料に使うつもりだ。
粉を練って、薄くのばし、具をのせる。木べらにすべらせて、窯の床へ、そっと送りこむ。
高温の窯の中で、生地は、みるみるふくらんだ。チーズが、ぷつぷつと泡立つ。こげた粉と、トマトの、香ばしい匂いが、立ちのぼる。
――もういいだろう。
香ばしく焼きあがった一枚を取り出し、僕は、頬張った。
――うまい!
パリッとした生地。とろけたチーズ。じゅわっとくる、塩漬け肉の塩気。
石窯をつくって正解だった。
――これは……ワインにも合う。間違いない! でも、今のままのワインじゃあ、ダメだな……
焼けたピザを食べながら、次のピザを焼いた。近所にも配るつもりでいた。
「よう! 何しているんだ?」
振り向くとブルーノさんと若いドワーフが立っていた。
若いドワーフは知っている。石鹸の作り方を教えたことがある。
背丈はブルーノさんと同じくらいで、髭は、ほとんど生えていない。
「カンナの試作品をもってきたぜ!」
ブルーノさんは、包み紙とお酒を両腕に抱えていて、包み紙を高く掲げた。
◇
包み紙に入ったカンナを受け取った。
さっそく、近くに落ちていた板で試させてもらった。手前に引くと、薄い木くずが、しゅるりと舞う。
「おお……これは、削りやすい」
――これで、地下室にあった樽も削り直せる。
「だろう? 作っててな、おれも惚れちまったよ。これも、売らせてもらうぜ」
というと、ブルーノさんの興味はピザ窯に向いていた。
「変わった窯だな……煮炊きする窯とも違うし、パンを焼く窯にも似ている」
ブルーノさんが窯を見た感想をいうと、ピザに目が行く。
「で、これが、この窯で焼いたパンか?」
「ええ、ピザっていうのです」
「ピ、ピザ? 食べてもいいか?」
「どうぞ」
ブルーノさんは、ピザを一口、食べるなり、
「うめえ! これはいける。酒に合うぞ。ちょうど酒を持ってきたんだ。いっしょにどうだ?」
いう間もなく、持ってきたお酒を開け、グラスに注いだ。
「いや、何ね。そいつのことは知っているだろ? 石鹸の作り方を教えてやったそうじゃないか。そいつは、いわば、おれの弟分みたいなやつでよ。訊いてみたら、ちゃんとお礼もしてないみたいじゃないか。で、あわてて、たずねたってわけよ」
――いや、ブルーノさんにはこんなお礼なんてしてもらったことはないけど……
まあ、弟分にいい顔しようとしているんだろうと、思っていたら、隣にいたドワーフが小声で教えてくれた。
どうやら、お礼に僕に会いに来たかったが、どうせ、酒を飲みにいくんだろ、と奥さんに止められていたそうだ。でも、今回、理由ができたのでたずねてきたそうだ。
「おい、なに、ごちゃごちゃしゃべっているんだ? このピ、ピザっていうやつ、うめえぞ。お前も食ってみろ!」
と、ブルーノさんは、若いドワーフに勧めた。
「もらっていいですか?」
と、丁寧に僕にたずねた。
三人で、お酒を飲みながら、ピザを食べていると、騒がしかったのか、近所の人が集まってきた。
みんなを誘い、ささやかなピザ・パーティーが始まった。
僕は、みんなにふるまうため、ずっとピザを焼いて、ほとんど食べられなかった。でも、集まった人たちの笑顔を見ていると、しあわせな気分になった。
いつ終わるともなく、ピザ・パーティーは続いた。




