第15話 野菜栽培
フロリアンさんの店で買った苗と種を持って、野菜畑に向かった。
途中、納屋に立ち寄り、鍬を取り出し、肩に担いだ。
屋敷の野菜畑は、ブドウ畑から少し離れた、日当たりのいい一角にある。いくつかの野菜が細々と育ってはいるけれど、土地は、半分以上、あいたままだ。
まずは、土を起こす。
鍬を入れると、ふかふかと、黒い土が返った。ある程度水分を含んでいる。
――栄養もありそうでよかった。
畝を盛ると、まずはナスの苗を植えた。
別のところには、畝を作って、次に畝を平らにならし、トマトを植える。
苗の四方に枝で作った支柱を立てる。支柱に納屋にあった袋をかぶせる。袋をかぶせることによって、風よけになる。
苗の周りには近くに茂っていた長い草を刈り取り畝に並べた。たしか、雨が振ったときに、泥などの跳ね返りを苗に当たらないようにするためだったと思う。
――病気になる予防策だったよね。
枝豆も同じように四本の支柱を立て、袋をかぶせて風よけにする。
支柱の中に、数センチ間隔に穴をあけ、それぞれの穴に種を蒔いた。
トマトと枝豆の土にはたっぷりの水を含ませた。
――こんな感じかな。
実家の隣の家の畑を思い出しながら、苗を植え、種を蒔いた。
――土いじりって何年ぶりだろう。
日ざしの下、汗をかいた。嫌な汗ではなかった。むしろ、心地よい汗だった。
フロリアンさんから買ったのは、ナスとトマトの苗と枝豆の種だった。
――できた野菜で何を作ろうか?
と考えてみたが、料理の引き出しが少ないのか、作る料理はおのずと決まってしまう。
◇
枝豆は、塩でゆでて、酒の当てで決定だろう。
問題は、ナスとトマトだ。
どうしても、ひとつの料理しか思い浮かばない。
ナスとトマト。それに市場で売っている塩漬けの肉とチーズ。
でも、これを作るには、魔法石のコンロではダメだろう。
――やっぱり、ピザ窯がいるよね。
頭に浮かんだのは、キャンプで作る、四角くレンガを積み上げた簡易的なピザ窯と、イタリア料理屋にあるドーム型の本格的なピザ窯。
――時間はたっぷりある。ドーム型だな。
最近、畑仕事や、石鹸づくりと忙しく体を動かしていると、体が慣れてしまったのか、何かしていないと落ち着かない体になってしまった。
ということで、ピザ窯づくりも、まったく苦ではなく、むしろ、作りたくて仕方がない。
ドーム型のピザ窯をつくると決めると、作り置きしていた石鹸、数個とお金を持って、市場に向かった。
◇
石灰を買った店に入ると、店主が僕を見つけて、
「ひさしぶりじゃないか! 今日はなんの用だい?」
「これを……」と、持ってきた石鹸を渡した。
「また、作ったので、使ってもらおうと思って……」
「おう、あの石鹸じゃないか! これは助かる。実は、あの石鹸、使ってみたんだ。そしたらよ、肌がつるつるになるじゃねえか」
「気に入ってもらって、よかったです」
「それがよくないんだよ。嫁さんに石鹸のことを知られてしまってよ。取り上げられたんだ。だから、今は嫁さんが使っている」
「そうなんですか……」
――悪いことをしたかな。
「でよ、前もらった石鹸、もう無くなりかけててよ。嫁さんから、どこで買ったんだ?と問い詰められて、困っていたんだ。助かるよ」
「今日、持ってきてよかったです」
と言って、僕は店の中を見渡した。
「で、何を探しているんだい?」
「レンガ。ああ、火に強いのがいいです。それとレンガを繋ぐセメント。あとは鉄の板かな」
「レンガはどのぐらいいるんだ?」
「百個」
「それなら、裏庭にあるよ。セメントの砂は一袋でいいよね」
「鉄の板って、どのぐらいの大きさだい」
胸の前で、両腕で輪をつくるようにして、
「これぐらいかな」
「それなら、あるよ」
「よかった。そうだ、あと荷車はある?」
「一人で運ぶつもりかい?」
「まあ」
「いいよ。馬車で運んでやるよ。ヴィルフリート様の屋敷だろ」
「ええ」
――この人も、なぜ、僕の住んでいる家を知っている? どうも、村の住人全員が僕のことを知っているみたいだ。
でも、悪い気はしなかった。
「じゃあ、言葉に甘えて……そうだ! 点滴灌漑のホースってある?」
「点滴灌漑?」
――そうだよね。そんなものないよね。
「長いホースというか、チューブなんだけど……」
「ホース? チューブ?」
「畑にめぐらして、一本毎の木に水を調整して与える……」
店主が首を捻っていた。
――そうだと、思っていました。
この世界で、まだプラスチックやゴムを見たことがない。代用品も考えられなかった。
「いや、いいです。今のは忘れてください」
――点滴灌漑はいったんあきらめよう。まずは、ピザ窯だ!




