第11話 新しい服
畑の仕事を続けるうちに、ほとんどの服が、ぼろぼろになってきた。
いくら、服が破けたり、伸びたりしても、畑仕事しかしてないから、気にしてなかったが、お尻のところが、大きく破れると、さすがに気にしないわけにはいかない。
旅に出るまえに、あわてて買った服も、もう限界にきている。
といっても、どこで買えばいいか、わからず、困っていた。
ちょうど、そこへリーゼさんが様子を見にやってきた。
こういうときにはなぜか、リーゼさんがきてくれる。あまりに都合がよくて、できすぎなくらいだ。
――でも、相談する相手はリーゼさんしかいない。
と、申し訳ないが、お尻の破けた部分を隠しながら、服屋の場所を聞いてみた。
どうやら、服屋はすこし遠いらしい。で、リーゼさんからの提案は、
「服屋を呼んで、あつらえたら」というものだった。
そう、リーゼさんは気軽に接してくれるけど、こう見えて、貴族のお嬢様なのだ。
「なるべく節約したいので、既製服か、古着がいいんです」
「そう、市場の路地に古着屋があるんだけど、行ってみる?」
「はい、場所を教えてもらえます?」
「説明しにくいところなのよ。いいわ。じゃあ、お店のあるとこまで、連れてってあげる」
と笑顔になる。
――これは、いつもの断れない笑顔だ。
◇
僕はあわてて、屋敷に戻り、ましな服に着替えて、リーゼさんのところへ引き返した。
二人で、村の通りを過ぎ、市場にやってきた。
何度か食材の買い出しにきていたせいか、顔なじみができた。すれ違う人が、リーゼさんに声をかけ、ついでに僕にも、会釈してくれる。なかには、
「ハルさん、今日は何をほしいんだい?」
と、僕に声をかけてくる店の人もいれば、
「あんた、あの屋敷の、ブドウ畑の人だろ。精が出るねえ」
と、ブドウ畑のことを知っている人もいる。
――いつのまにか、僕は「ブドウ畑の人」になっているらしい。
市場のある一角から路地へ入ると、小さな古着屋があった。
◇
古着屋の店先で、リーゼさんが、てきぱきと服を選んでくれた。
「畑仕事なら、これなんて、どうかしら? 生地が丈夫で、畑仕事にいいわよ」
「これは着心地がいいわね。屋敷で過ごすとき、どう?」
と、次々と、僕の体に、服を当てていく。サイズを確認する。
――なんだか、子供のころに、母親と服を買いにきた感じだ。
リーゼさんにいわれるまま、さしあたり要るだけの服を何着か買った。
◇
店を出て、市場の大通りに戻ったとき、
「リーゼ!」
明るい声が、飛んできた。
女の子が二人、こちらへ向かって小走りにやってくる。一人は、栗色の髪を弾ませた、いかにも快活そうな子。もう一人は、その少し後ろで、おっとりとした子だった。二人とも、年ごろはリーゼさんと同じくらい。
「ロッテとグレタじゃない。何しているの」
「どうしたの、はこっちのセリフよ」
ロッテと呼ばれた子が、僕とリーゼさんを、にやにやと、見比べた。
「ねえねえ、もしかして……デート?」
「ち、ちがうわよ!」
リーゼさんの顔が、ぼっと、赤くなる。
「この人は、ただの……そう、ご近所さんで、ヴィルフリート様の屋敷に住んでいる人で、服を買うのに付き合っただけ」
「ふーん?」
ロッテは、にやにやを、やめない。後ろのグレタが、くすりと笑って、助け舟を出してくれた。
「ロッテ、その辺にしておきなさいよ」というと、僕に向かって、
「はじめまして、私、リーゼの幼馴染でグレタと言います。こっちは、ロッテ。同じくリーゼの友達ね」
「ああ、ずるい。自分で紹介したかったのに……そう、リーゼとは小さいころ仲良しで、リーゼのことならなんでも知っているわ。今度、ゆっくり教えてあげる」
「ロッテ!」
――にぎやかな子たちだな。
二人とも、リーゼさんとは、よほど仲がいいらしい。
ふと、グレタが、僕のほうをじっと見た。
「?」
「あなたって、本当の異世界人なの?」
「え!」
――なぜ、みんな、僕が異世界人だと知っているんだ? 知っているのは、リーゼさんちか、それとも、ブルーノさんか。まあ、そのあたりから広まっているんだろうね。
もう隠す必要もないと思い、
「ええ……そうです」
◇
ひとしきりからかって、ロッテとグレタは、手を振って去っていった。
残された僕たちは、少しのあいだ、気まずかったが、リーゼさんが先に切り出した。
「……ごめんなさい。なんだか、変なことになっちゃって」
「僕のほうこそ、僕のせいで迷惑をかけてしまって、すみません」
「ううん。いいのよ、べつに」
なぜか、リーゼさんがすこし喜んでいるように見えた。
◇
帰り道。
次からは、ほかの店と同じように、一人で来ようと思う。とはいえ、心配なことはある。元いた世界でも服には興味がなかったし、この世界の服装についてはなおさら、よくわからない。
――ここでも、店の人に聞きながら買えばいいか。
隣を歩くリーゼさんが、ふいに、言った。
「ねえ、ハルさん。今度、ロッテとグレタにも、ちゃんと紹介するわね。――あの子たち、いい子なのよ」
「うん。ぜひ」
女の子の友達まで、できそうだ。
この世界にきて、知り合いが多くなっていく。
――この世界での暮らしは悪くない。




