第10話 水管理
古木の手当てを終えると、早急にしなければならないことはすませたことになる。
つぎに、このブドウ畑のことをよく知らなければならない。
まずは、日当たり。
十分な日差しが、ブドウ畑の隅から隅まで降りそそいでいる。
まだ、異世界にきたばかり、こちらの季節もよくわからないでいるが、
――日当たりは今のところ、問題ないだろう。
次に土だが、手にとってみると、
――少し湿っている。
実家のブドウ畑と祖父の言葉を思い出す。
「ブドウってのはな、甘やかしちゃいかん。水や栄養をやりすぎると、満足して自分のことしか考えない。子孫を残す、つまり、味が濃く、香りの強い実を作るのをサボるんじゃ」
と、祖父は父をみた。
父はテレビを見ながら、ビール片手に大笑いしていた。
なぜか、そのとき祖父がため息をついたのを覚えている。
確かに、実家の畑も、水はけのよい、いちばん乾いた区画のブドウの実は格別だった。
気になったので、まずは使われている水路を調べることにした。
◇
畑のへりを、たどってみた。
すると、山のほうから、細い水路が引かれているのがわかった。山から湧き水を引いてきているらしい。
水路は、途中で、二手に分かれていた。一方はブドウ畑へ、もう一方は、少し離れた野菜畑へ。分かれ道のところに、それぞれに古びた木の弁がついている。
――ここで水量を、調節するのだろう。
野菜畑に流れる水の量は問題ないと思ったが、ブドウ畑に流れる水は、少し多いように思える。
ブドウ畑のほうの、弁を動かしても、水量はあまり変わらない。
弁をよく見ると、弁にヒビが入っていて、その隙間から水が流れている。
――壊れているな。
近くに落ちていた様々な大きさの石を拾って、水路に詰めた。ブドウ畑に流れる水をせき止めたのだ。
――応急処置だな。なるべく早く弁を修理しなくては。
実家では、直接水路から水をひいては、いなかった。
「点滴灌漑」を使っていた。
細いチューブを這わせていた。そのチューブには小さな穴が空いていて、そこから一秒に一滴といった感じでピンポイントでブドウの木の根元に水を与えていた。
それはすぐにはできないだろう。だから、いったん弁の応急処置ですませた。
――この水路はどこからやってくるんだろう。
と水路をたどってみた。
水路が引かれている山を上ると、四角い石でできた貯水槽を見つけた。いったん湧水がその槽に溜まり、槽の底から、少しずつ水路に流れる。
――水量をここでも調整しているんだ。
山を降りる途中、別の水路を見つける。その水路は、わざと畑とは別のほうへ逸らされている。
――これはなんだ。
と思っていると、異臭がした。
嗅いでみると、その異臭は、水そのものから漂っていた。
――まさか?
その水路が流れてくるほうに向かって、山を上り始めた。
木々を抜けると、平地にでた。その平地の岩肌に湯煙をだしてお湯が湧き出ている。
――温泉だ!
思わない場所で、温泉の源泉を見つけてしまった。
学生時代、友達と温泉旅行によく行った。温泉に入る計画のない旅行なんて考えられないほど、温泉が好きだった。
――水路を調べてて、とんでもないものを見つけてしまった。どうしよう? ヴィリーさん!
湯気の立つ源泉を眺めながら、温泉に入りたい衝動が抑えられない。
異世界で温泉に入れるなんて夢にも思わなかった。
でも、まるで沸騰しているかのようなお湯には入れない。人が入れる温泉を作りたい。
今まで行った温泉が思い浮かぶ。
――だめだ。まずブドウ畑だ!
と頭を切り替える。それでも、顔がにやけているのが自分でもわかる。
振り返ると、眼下に街と草原、遠くの山々までを見渡せ、目の覚めるような眺めが広がる。温泉から見る景色としては最高だった。




