第9話「真相判明」
翌朝、外が明るくなったころ、私は布団を畳み、少しでも寒さを防ぐために着れるだけ服を着る。
窓から見える穏やかな風景も見納めだと、しばらく眺めていたら、
「おはようございます」
と、美坂の声がした。
「お、おはようございます」
慌てて返事を返せば、「起きていらっしゃいましたか?」と、逆に驚いた声が返る。
「早朝に申し訳ありませんが、京弥坊ちゃまより伝言を預かっております」
「はい」
「本日は敷地内から出ないようにとの言付けでございます」
てっきり出て行けと言われるものだと思っていたけど、まさかここに居ろと言われるとは思わず、私は目を丸くする。
京弥はすでに出かけられたと聞かされ、まさか夜になって追い出されるのかと、背筋が凍える。
まさか莉緒に直接会いに行ったのだろうか?
戻ってくる時には二人一緒なのかもしれないと考えたら、胸が苦しくなった。
「柚月葉様、如何なさいましたか?」
返事が返らず、美坂が扉の向こうから声をかける。
「だ、大丈夫です。……分かりました」
「お食事は如何なさいますか?」
「部屋で食べても構いませんか?」
迷惑だと分かっていても、今、誰かと一緒に食事をとることなど出来そうもなく、私はつい我が儘を口にしてしまい、急いで訂正する。
「ごめんなさい、……私、自分で食べに行きますから」
だから大丈夫だと伝えれば、「お部屋にお運びいたしますね」と、美坂はそっと去っていく。
「あ、……、ごめんなさい」
迷惑をかけてしまった。私は小さく謝罪をしながら、その場に座り込んでしまった。
――*――*――
祁答院蒼との約束の日、京弥は足早に山奥の屋敷に足を運んでいた。
「真相が判明したよ」
「手間をかけさせた」
「京弥の頼みなら喜んで」
蒼はそう笑みを浮かべると、忍び込ませた式神からの情報を京弥に伝える。
京弥が訪ねてきたあの日、蒼は早々に式神を榎室の屋敷に飛ばした。有難いことに、情報はその夜、すぐに分かることになった。
「あなた、このままではいずれ神白家に気づかれてしまいます」
ひとまず、娘は体調が悪く伏せっていると嘘の情報を流しているが、このままでは底が割れると榎室の奥方が声を荒げれば、榎室儀朗の眉間に皺が寄る。
「そんなこと分かっているっ」
「神白家を欺くなど、榎室家に傷が……」
「あらゆる手を使い、里桜を追っている」
苛立ちを隠せず儀朗は舌打ちをすると、どこかへ消えてしまった実の娘を忌々しく思う。
神白家の京弥殿との結婚が決まった頃、部屋に置手紙を残して最愛の娘が消えてしまった。
『私には愛する方がいるのです。お父様、お母様、どうかお許しください』
涙で濡れた手紙を残し、顔合わせ当日に姿を消した娘。故に遣いの者を料亭に向かわせ、娘は体調が悪く本日来れないことを伝えた。
体調が回復した頃、また改めてご連絡をと伝言を頼んだが、さすがに数日も伏せっているなどそろそろ限界だと、儀朗は奥歯を噛んだ。
京弥が会いに来ても体調が優れないと会わせることを禁止していたが、姿を見せたことはなく、おそらく体調を気遣って、こちらの連絡をただ待っているのだろうと推測された。
「ああ、里桜はいったいどこへ行ってしまったのでしょう?」
忽然と姿を消した娘を想い、奥方が涙を浮かべるが、儀朗は早く見つけなければと気が競る。
「苦労して漕ぎつけた神白家との結婚だというのに、何が気に入らない」
大臣になるための布石ともいえる神白家との繋がりを無にしてなるものかと、儀朗は部屋を歩き回る。
金も地位も名誉もある神白家。そこと繋がることができれば、いずれこの国を担う役目を与えられるかもしれず、地位も名誉も手に入れられる。その野望をこんなことで砕かれてなるものかと、儀朗は捜索範囲をさらに広げることを決める。
一人娘である里桜以外、嫁に出せるものなどおらず、儀朗は「何としても見つけ出す」と、呟きながら自室に戻って行った。
「榎室家の事情はこれだ」
つまり、娘は現在行方不明。蒼は、京弥の元に送り込まれた娘は榎室家とは全く関係ないと説明した。
「待て。では俺に送り込まれた女は誰だ」
榎室とは関係ないのなら、一体どこの誰と俺は結婚したのかと、京弥は立ち上がった。そんな京弥に蒼は冷静に声を出す。
「あの日、料亭では二組の顔合わせがあったんだよ」
「どういうことだ?」
「神白・榎室家と、もう一組、架谷家だ」
耳にしたこともない名を口に出され、京弥の顔が強張る。
「架谷、誰だ?」
「米屋を営んでいる、町では有名なお家さ」
そこまで聞いて、ようやくその名に聞き覚えがあったことを思い出す。確か、お国に米を納めていた渡森家を引き継いだ名だったと。
つまり、柚月葉はそこの娘だと言うことだった。
「料亭の中居が案内を間違えたのが、そもそもの間違いだよ」
あの日、榎室家の里桜という女性に会うつもりで出向いたが、同時刻に架谷家も待ち合わせをしており、京弥は誤って架谷家の部屋に通されてしまった。
結婚などどうでもいいと考えていた京弥にとって、紙切れ一枚で実家を納得させられるならと、事を急いだ結果、相手を確かめることをしなかった。というより、相手方の女性の顔も知らずに出向いたせいで、確認など出来なったのだが。
「つまり、架谷家の娘を迎えに来た男は、相手が体調不良で来れないことを知り、早々に立ち去ったと言うことか」
「そういうことになるね」
「とんだ間違いだ」
苛立ちを隠せないまま、京弥は真相を知り、ようやく腰を下ろす。
「その上、架谷家の娘の名は莉緒。榎室家の娘も里桜という偶然の一致も重なっている」
蒼が字は違えど、読み名は一緒だと口にしたが、嫁に出されたのは柚月葉という女性。一体どういうからくりなんだと、京弥の目は細くなる。
「詳しい事情までは探れなかったけど、どうやら柚月葉ちゃんは、売られた説が高い」
「売られた?」




