第50話「助っ人」
思ったより素早いと蒼は奏を見るが、すぐに次の攻撃が仕掛けられた。
「よそ見してると、首切り落としちゃうよ」
戦闘を楽しむかのように、奏は次から次へと攻撃を仕掛けてきて、蒼はそれを避けるので精一杯となる。
「花浅葱 」
「な、にこれっ」
五芒星が描かれた紙に術を乗せて飛ばせば、水が奏の頭を包み込むように纏わりつく。
息が出来ないともがく奏だったが、響がその水を断ち切った。
「大丈夫か、奏」
「ふぅ、助かったよ響」
蒼の術はやはり厄介だと響が睨めば、蒼はなぜか笑みを浮かべていた。
注意が自分に向いたことで、京弥に行けと合図すれば、軽く頭をさげた京弥が走り出す。だが、聞こえてきた響の声に思わず振り返ってしまう。
「随分、あっけない最後だな」
そう言葉を吐きだした響は、蒼の胸に刀を突き刺し、奏も首に短刀を刺していた。串刺しになった蒼の姿が映り、京弥は信じられないものを見るように目を見開く。
目の前の光景が全ての言葉を失わせる。まるで金縛りにあったように指一本も動かない。
視界が真っ白になる京弥だったが、
「化け物どもがぁぁぁ!」
耳を塞ぐような怒声とともに、奏と響に切りかかってきた男がいた。
男は太刀を振り下ろし、大地を削るように砂埃を巻き起こす。
「チッ、避けたか」
振り下ろした太刀を肩に担ぐ男は、暁山 真勇斗。暁山は、間一髪で避けた奏と響を睨みつけるように見下ろす。
「……暁山大将」
「お前んとこの部下が心配しててよ。ちょいと探したら面白いことになってんじゃねえか」
二日後に再び遠征に行くことが決まって、挨拶に顔を見せたら、京弥の部下たちが蒼と一緒に慌てて出て行ってしまったと心配してて、黒日だから暁山が探しておくから心配するなと帰らせたと話す。
「お久しぶりです、暁山さん」
「無事か、蒼殿」
奏と響に刺されたはずの蒼が無傷で姿を見せ、京弥は何がどうなっているのかと、目を凝らす。
「さっき刺されたのは、私の分身だよ」
自分を作り出すのは、なかなか難しいのだけど、上手くいったみたいだと再び人型にくり抜いた紙を口元に宛がう。
「涅請う魑魅」
口に宛がった人型に術を拭き込めば、土人形が姿を現す。自分を作り出すよりは簡単な人型だと、蒼は土人形を奏に向かわせ、暁山は太刀を真っすぐに構えて響と向き合う。
「ここは俺たちが担う」
「京弥は早く向かって」
二人に背中を押され、京弥は止めてしまった足を先に進める。
「顕仁は俺が止める」
企みを阻止すると京弥が全力で駆けだすと、暁山と蒼は内心で「任せた」と強く願った。
「さあて、久々に腕が鳴るな」
化け物相手なら手加減無用だろうと、暁山は口角をあげて両手で太刀を握り締めた。
「なんだこの風は……」
鬼門に近づくにつれ、空気が淀んだように濁っていくのが感じ取れた。蒼が口を塞いだのが分かるほどに、おぞましい風が流れていた。
ようやく鬼門が見えてくれば、銀髪が視界に入り、同時に門に張りつけられた柚月葉の姿も見えた。
「柚子葉ッ!!」
やはり生きていたと、京弥が叫べば柚月葉を隠すように顕仁が前に立ちはだかる。
「足止めは失敗したか」
奏と響は陰陽者を引き留めることしか出来なかったかと、顕仁は眉を寄せたが「まあいい」と、厄介なあの陰陽者が来なかっただけ良かったと笑みを浮かべる。
「柚月葉を返してもらおう」
「お前たちはどこまでユズハを苦しめるつもりなのだ」
「何を言う」
「散々虐げてきた人間どもが、まだ責めたりないと申すか」
5年前、偶然にも柚月葉を見つけた。すでに末裔もいないものと思っていたが、生き残りがいた。だから顕仁は人間どもにまだ復讐できると思い立った。その過程で見てきた柚月葉の扱いはあまりにも酷かったが、心を掴むのは容易かった。
「俺は柚月葉を傷つけたりはしない」
他の者と一緒にするなと声を荒げる京弥だったが、顕仁は鼻で笑い飛ばす。
「ただの置物と言ったのは、その口ではないか」
京弥の言葉も全て聞いていたと、顕仁は他者と何が違うと冷たく見る。京弥は出会った頃の自分の言動にグッと力を入れた。
顕仁の言うことは間違っていないと、歯を鳴らす。黙り込んでしまった京弥を見て、顕仁は再び嗤う。
「ワタシは、ユヅハの欲しいものを与えることができるのだ」
「欲しいものだと」
「さあユヅハ、この扉を開けば会えるぞ」
そう声を出した顕仁は、柚月葉の髪を撫でると、そっと首元に手を添える。
淡い光が顕仁の手から放たれれば、柚月葉の首筋に薄く束ね熨斗文と鈴の紋様が浮かび上がる。
「……顕仁様」
「心配ない。ワタシが手引する」
全て任せればよいと、顕仁は薄く光を纏い始めた門に手を触れる。柚月葉のいる門の隣を静かに押せば、門は僅かに開く。
漆黒の闇が見え、そこから黒い空気が溢れ出してくる。
「顕仁ぁぁ!」
背筋が凍るような気配を感じ、京弥は門を開かせてはいけないと、切ってかかった。
咄嗟に避けた顕仁は、僅かに開いた門の向こうに声を投げる。
「お戻りください、我が将よ」
「させるか」
再び門に近づく顕仁に京弥が「天雷霆」と叫び、刀を頭上に掲げ振り下ろす。
「なにッ」
刀先より雷が発生し、顕仁を襲う。間一髪でそれを回避した顕仁は、京弥を睨む。
「その刀、妖刀か……」
「だとしたら、どうする」
「当たらねば問題はない」
妖刀だとしても、触れられなければ意味がないと喉の奥で顕仁はまた笑う。京弥はでは当てると、再度切りかかれば、鞭で叩かれたような痛みが走った。
後ろに吹き飛び、地面を滑る京弥は何が起こったのかと顕仁を見れば、九つの尾が揺らめいていた。おそらく尾で叩かれたのだろうと目を細める。
「やはり、化け物か」
「ワタシは九尾、そこらへんの雑魚と一緒にされては困る」




