第48話「秘められた能力」
「顕仁には目的があるはず」
人型を保て、日中に町中を歩けるなど、霊が為せる業ではないと、蒼はここで別のものを思いつく。
「あやかしの類なのか……」
昔、妖怪と呼ばれていた化け物がいたと聞いたことがあった。人に害をなし、化かし、悪さをする物の怪。それは人の姿に化けることも可能だったと。
「ただの伝承、……ではないのかもしれないな」
子供を怖がらせるための昔話だと思っていたが、顕仁が妖怪ならば道理が通るのではないかと、蒼は顎に手を添えると「知らせるべきかな」と、少々困ったように声を出した。
町はずれの朽ちた寺に戻った顕仁は、町で購入したお菓子を響と奏に与え、見張りを頼むと、柚月葉の元へと向かう。
怨霊の住処だと噂されているこの寺に近づく者はおらず、鬱蒼とした木々や草が壊れた建物を隠しており、身を隠すには最適だった。
「目が覚めていたのか?」
崩れた天井から差し込む明かりの下で、柚月葉は体を起こしていた。
「顕仁、様?」
「無事でよかった」
「私は、生きているのですか?」
川に身を投げたはずだと、柚月葉はどうして生きているのかと俯く。
そんな柚月葉に近づく顕仁は、包む込むように腕を広げると、そっと抱きしめる。
「迎えに行くと言ったであろう」
約束を叶えに来たのだと、優しく言えば、柚月葉が驚いたように顔をあげた。顕仁は本当に約束を守ってくれたのかと、抱きしめる腕がとても温かく感じた。
「……温かい」
「ユヅハを抱きしめると約束したであろう」
顕仁は長きにわたり待たせてしまったと、柚月葉を抱きしめながら、そっと髪を撫でる。優しい手、柚月葉は身を預けるように顕仁に寄り添っていたが、美しい顕仁に自分は相応しくないと思い出し、そっと距離を置く。
「ユヅハ?」
「私は疫病神です、顕仁様に災いが起こるといけません」
床に指をつき、柚月葉は自分に関われば不幸に見舞われると、どうぞ離れてくださいと頭を下げる。そんな柚月葉の手を取った顕仁は、切なく瞳を揺らす。
「自分を粗末に扱ってはいけない」
柚月葉は疫病神などではないと、顕仁は優しく微笑むが、自分がいるだけで周りの人たちが不幸になっている現実を見てきた柚月葉は、静かに首を振る。
自分が消えれば、皆が幸せになれるのだと。
それを聞く顕仁は、「ならば、ワタシの役に立てばよい」と言葉を返す。
「顕仁様のお役に?」
「ユヅハには特別な力があるのだ」
「私に、ですか?」
「ワタシが力を貸せば、両親に会うことが叶う」
顕仁から夢のような話が飛び出し、柚月葉は目を丸くして驚く。もうこの世にいない両親に会えるなど、そんなことが本当に可能なのかと、柚月葉は顕仁をじっと見つめるが、優しく微笑みを返された。
「ユヅハには、冥界とこの世を繋ぐ力があるのだよ」
聞いたこともないことを言われ、柚月葉は戸惑う。そんな話誰からも聞いたこともなく、自分にそんな能力があるとも思えず、顕仁が何を言っているのか分からない。
「そのようなこと……」
「力が足りないのだよ」
「力?」
柚月葉には繋ぐ力が足りておらず、顕仁が力を貸せば冥界の門を開け、両親に会えると誘う。
優しかった両親にもう一度会える。柚月葉の心が揺れる。もし本当に両親に会えるのなら、自分をそちらに連れて行って欲しいと願う。
もう誰も不幸になどしたくないと、柚月葉は両親の元に行けるのならばと、真っすぐに顔をあげる。
「本当に会えるのですか?」
嘘ではないのかと問えば、顕仁はそっと柚月葉の手を取る。
「ワタシを信じて欲しい」
「顕仁様……」
「ご両親もきっとユヅハに会いたいはずだ」
大切な娘を一人残してしまったことに、酷い後悔をしているだろうと、顕仁は両親に会おうと言う。顕仁が人ではないと分かっている、だからなのか、柚月葉は両親に会えると信じた。
「私は何をすれば、よいのでしょうか?」
「ユヅハ、私を信じてくれるのだね」
必ず両親に会わせると、顕仁は柚月葉を抱き寄せ「全てワタシに任せればよい」と、包み込む。
疎まれてきた自分が顕仁の役に立て、両親に会える、それだけで柚月葉の心に明かりが灯ったような気がした。そして、これでようやく両親の元へ行けるのだろうと、嬉しくもあった。
「可愛いユヅハ、ワタシが願いを叶えよう」
柚月葉を胸に抱きしめる顕仁は、冷たくも美しく微笑んだ。
――*――*――
「蒼がここを尋ねてくるなど、珍しいな。緊急事態か」
応接間でそう声を掛けたのは京弥。
軍部に姿を見せることなどなかった蒼の訪問に、京弥は緊急性を見出し緊張感を持つ。しかも、蒼は見たこともない衣装に身を包んでおり、一層の物々しさを醸し出していた。
「確証はないけど、柚月葉ちゃんが生きている可能性がある」
回りくどい言い方はせず、蒼は率直にそう切り出した。当然驚いたのは京弥だ。
「悪い冗談なら、例え蒼でも許すことは出来ない」
「以前、柚月葉ちゃんに接触してきた怨霊を見た」
人の姿を保っていた銀髪の男だと、蒼が告げれば、京弥は蒼から前に聞いた話を思い出す。
たしか、柚月葉が屋敷から抜け出した時に、迎えに来たと話していた怨霊がいたと。目的は不明だか、柚月葉もその男を知っているようだったと、蒼が説明してくれた。
「どこで見た」
銀髪の男、顕仁を見かけたというのならば、蒼の言葉に信憑性が生まれる。
「町中だよ。しかも昼だ」
「昼、だと」
「奴はおそらく怨霊ではないよ」
蒼は、完璧なまでの人型を保ち、会話もできるなど、怨霊の類ではないとはっきりと言う。人に憑依したとしても、あのような振る舞いは出来ないと、あれは完全な人だったと蒼は断言する。それを聞き、京弥は険しい表情を浮かべ、「怨霊ではないのならば、なんだという?」と、蒼に問う。今まで退治してきたのは全て怨霊だった。別の何かが存在するなど、聞いたことも見たこともないと、一体何が出現したのかと、背中に汗を生む。
「私も実際に遭遇したことはないけど、妖怪かもしれない」
「昔話に出てくる物の怪のことか」
「たぶん間違いない」
「ただの言い伝えではないのか」




