第44話「処罰」
「私も半信半疑だったのですが、この屋敷に柚月葉殿のお部屋はなく、代わりに押入れのような部屋を見せていただきました」
そこが柚月葉の部屋だったと、紹介されたと。
莉緒の部屋はあるのに、柚月葉の部屋がないのは不自然。それに、使用人の大半の証言がとれていると言う。
いくら亮成のことを好いていない者がいたとしても、使用人のほぼ全員が嘘をつくなどありえないと碧海は告げる。
「使用人のいうことなど、信じておられますのかな」
虚偽など平気で口にしますと、亮成は片腹痛いと言い出し、証拠などどこにもないと随分と大柄な態度に出る。そうすれば、プチっと何かが切れた宇佐崎が刀を抜く。
「きゃぁぁ」
「り、莉緒! 何をするッ」
大人しく座っていた莉緒の首元に刀が宛がわれ、亮成が慌てて振り返る。
「真実を言え」
宇佐崎は刃を首元に宛がい、莉緒にこの場で真実を証言しろと迫る。実の娘の証言ならば、確証がとれると判断した行動だった。
「い、いや……。お父さん助けて」
「京弥様、これは脅しです」
娘を傷つけられると焦った亮成が京弥に叫ぶが、京弥は焦った様子もなく宇佐崎に視線を向け、なんとも恐ろしいことを口にした。
「真実を吐かなければ、好きにしろ」
「畏まりました」
「待ってください京弥様! これでは殺人と代わりません」
机に乗り上げるように亮成が京弥に迫るが、氷のように冷たい視線が向けられる。
「全員始末すれば、問題ない」
神白家に牙を向いた、そう言えば大した問題にはならず、ここにいる亮成、なつめ、莉緒を始末すれば、ここで何があったかを知る者もいないと、京弥は冷酷に声をだした。
部屋の温度が下がり、なつめは恐ろしさのあまり声が出ず、莉緒もまた涙が溢れる。
「神白隊長のご命令だ、真実を話せ」
鉄の冷たい感触が首にあたり、莉緒は全身を震わせながらも口を開いた。嘘をつけば殺される、その思いから、莉緒は真実を話した。
それは柚月葉が少しだけ話してくれた内容と一緒ではあったが、現実はもっと酷かったと、莉緒の証言で知ることとなった。
食事をまともに与えられていなかっただけでなく、川で洗濯をさせていたり、冷え切った残り湯で風呂に入らせ、風呂掃除を命じていたり、正面からの出入りを禁止していたり、憂さ晴らしに折檻として罰を与えていたと、莉緒は全てを吐きだした。
京弥、碧海、宇佐崎は、このまま切り捨ててしまいたい衝動をなんとか抑え、架谷家を許すまいと決めた。
「お父さん、お母さん……」
宇佐崎が刀を鞘に戻せば、莉緒は畳の上を這うように二人の元へ逃げる。
「ああ、莉緒」
「もう大丈夫よ」
抱きつく莉緒を抱きしめるなつめと、安堵する亮成に、京弥が席を立つ。
「話しはここまでだ。早急に出て行くんだな」
「お待ちください京弥様っ、せめて柚月葉に謝罪を……」
「見苦しい」
「今までの非をどうぞ、謝らせてください」
本当に往生際が悪いと、京弥はさらに冷たく亮成を見下ろす。柚月葉に会って、どうせ見捨てないで欲しいとでも懇願するつもりなのだろうと思えば、腹の虫はどんどん膨らんでいく。
「勘違いするな。柚月葉をここに置いていたから、罪を逃してやるだけだ」
本来ならば帝上に差し出し、一生牢で過ごすか、死罪になるところを出て行けというだけで済んでいるのだと、現状をはき違えるなと厳しく言い放つ。
それを聞き、亮成は柚月葉のおかげで罪が軽くなっているのだと、ようやく理解した。
養子縁組がなかったことが判明した今、神白家と架谷家に縁はない。縁ができたのは渡森家、つまり柚月葉だけ。どうしてこんなことになったのか、自ら出た錆ではあるが、亮成は全てが真っ黒に染まるのを感じる。
もっと柚月葉を大切にしていれば、莉緒と同じように扱っていれば……、後悔が押し寄せるが、今更手遅れ。
「浅ましいどこかの女のせいで、柚月葉は足の裏に怪我を負った。俺は決して許さない」
鋭利に細められた瞳に、莉緒が「ヒッ」と息を飲む。
「わ、私は何もしていないわ……」
「市中引き回しを所望するか」
「それはッ、……ごめんなさい、ごめんなさい」
泣き崩れる莉緒は、畳に頭を擦りつけながら京弥に謝罪する。この人は自分のことに微塵も興味などなかったのだと、知った。
凍てつく視線が全てを物語っていた。
「痛ッ、い」
謝罪する莉緒の髪を掴み上げた京弥は、顔を上に向かせると、
「此度、ふざけた真似をすれば、その命ないものと思え」
誰よりも残忍に殺してやると、京弥が言えば、莉緒の顔色は真っ白になり、全身が震えだす。恐怖のあまり声も涙も出なくなり、ただ壊れたように頷いた。
それから再度架谷の者たちを見ながら、京弥は口を開く。
「何度も言うが、柚月葉に近づけば容赦なく切る。肝に銘じておけ」
用件はそれだけだと、宇佐崎が部屋を出て、次いで京弥が部屋を出れば碧海が僅かに振り向く。
「自らの行いを生涯恥じればいい」
冷たく言い捨てて、碧海も部屋を出た。
残された3人は、命があるだけ良かったと、静かに荷物をまとめてそっとここを出て行くことを決めた。
酷い後悔を胸に残したまま。
――*――*――
榎室家と架谷家の問題が解決し、京弥はこれでようやく柚月葉を迎えに行けると、急ぎ足で蒼の元へ向かえば、焦った様子の蒼が屋敷から飛び出してきて、危うくぶつかりそうになった。
「どうした?」
蒼が屋敷から飛び出してくるなんて珍しいと、京弥が驚けば、顔面蒼白で「どうしよう」と、声を震わせた。
「何かあったのか」
「柚月葉ちゃんが出て行っちゃったみたいなんだ」
「なんだと?!」
せっかく迎えに来たというのに、肝心の柚月葉がいないなど考えもしなかったと、京弥も顔を顰める。
足の怪我は随分良くなり、普通に歩けるようにはなっていた。けれどまさか出て行くなんて思ってもみなかったと、蒼は自分の不甲斐なさに肩を落とす。その上、柚月葉の行きそうな場所も分からない。
蒼は京弥の袖を引き、とにかく部屋に来てと屋敷の中に引っ張り込む。
連れて行かれた部屋は柚月葉が使っていた部屋。その机には4枚の布と手紙が置いてあった。




