表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/52

第43話「家族ではない」

「黙りなさい莉緒。あの子は柚月葉に嫉妬していて、困ったものです」


柚月葉が羨ましくて、あんなことを言うのだと、亮成は京弥に説明するが、「出まかせもいいとこだな」と内心では怒りが渦巻く。


「義姉様なんて、役立たずで……」

「莉緒、口を慎みない。柚月葉は私の大切な娘なの」

「お母様まで何を言うの」

「柚月葉の方が出来がいいからと、そのようなことを口にするなど、恥を知りなさい」


叱咤された莉緒は、唇を噛み締めて両親を睨む。今までずっと虐げてきたのに、手のひらを返され、当然面白くない。だが、両親には思惑があるのだと、今になって気づき、莉緒は大人しく座る。

その様子を冷ややかな視線で見ていた京弥は、薄墨の布の下で奥歯を噛む。



(俺の前で出来が悪いと、はっきりと言ったその口で、よく言う)



腹立たしいとはまさに今かと、思えば、傍に控える碧海からもグッと拳を握っているのが見て取れた。大切な娘ならばあのような扱いはしないと、柚月葉の言動、手の荒れ、痩せた体を見ればすぐに分かると、碧海は何か言いたいのを我慢したまま耐えていた。


「柚月葉は私どもの大切な娘、どうか一度話をさせていただきたいのですが」


柚月葉に会うことができれば、柚月葉から京弥に架谷家を救うように言ってもらえる、この状況を打破できると、亮成は何としても柚月葉に会うことを考える。

まさか疫病神の柚月葉が神白京弥に見初めてもらえるなど、誰が想像できた。亮成はようやく役にたったと、細く微笑む。柚月葉ならば、自分たちを見捨てることなどしないはずだと、話をする機会さえ与えてもらえれば、助かると、首の皮が繋がると、何としても京弥にその了承を得なければと亮成は必死に懇願する。

そんなあざとい姿を目にしながら、京弥は魂胆は見え見えだと、ここから奈落に落としてやると自然と口角が上がった。


「会わせることはできない」

「なぜですかっ、柚月葉は私どもの可愛い娘」

「そうです、柚月葉に会わせてください」


亮成となつめが必死に身を乗り出す。柚月葉に会わなければ、この町を追い出され、途方に暮れてしまう。何としても柚月葉を説得、いや、脅してでも状況を変えなければいけないと、柚月葉だけ裕福になるなど絶対に許さないとばかりに、家族だけでどうしても会う必要があった。

しかし京弥から告げられた次の言葉に、亮成は耳を疑う。


「柚月葉はお前たちと家族ではない」


はっきりと家族ではないと言われ、一体何を? と、目を開けば京弥は真剣な眼差しで亮成を見る。射抜くような視線に、亮成はまさか柚月葉が架谷家での暮らしを話したのか? と、焦る。

だが、所詮柚月葉ひとりの言い分、使用人たちにも証言させれば、当然こちらの言うことが正しくなるはずだと、事実は簡単に捻じ曲げられると、再び顔を緩めた亮成は、京弥の機嫌を伺うように下手に出る。


「柚月葉が何か申しましたでしょうか?」


余計なことを言ったのではないかと、そっと尋ねる亮成だったが、


「何も話さない、大人しい妻だ」


何も聞いていないと返事を返され、眉が上がる。ではなぜ家族ではないなどと言われたのかと、京弥を見れば、一度深く瞳を閉じ、


「俺は渡森柚月葉と結婚した。架谷家とは関係ない」


と、言われた。


「渡森は柚月葉の旧姓です。今は私どもの養女であります」

「養女とは、何の話だ」

「柚月葉の両親は事故で亡くなっており、私が引き取ったのでございます」


よって柚月葉は架谷柚月葉で間違いないと、亮成は声をあげたが、京弥は軽く首を傾げ、碧海に視線を向ける。


「実乃吏、そのような事実はあったか?」

「いえ、把握しておりません。お確かめを」


持参してきたカバンから、碧海は紙を二枚京弥に手渡す。受け取った紙を見る京弥は、一通り用紙に目を通す振りをしてから、その紙を机に置く。


「架谷家の家系に柚月葉という名はないが」


碧海から受け取った用紙を亮成の方へ向け、自分で確かめろと差し出せば、亮成は慌ててそれを手にする。

京弥から受け取った用紙は、戸籍といわれる代物だった。

養女として登録してあるはずの柚月葉の名がない。娘は『莉緒』の名前しか書かれていなかった。


「……なぜ、ない」


戸籍が偽物なのではと疑ってはみたものの、役所の割り印はしっかりとある。それに神白京弥が偽物を持参するわけはない。つまり、初めから柚月葉は養女として架谷家に入っていなかったことになる。


「馬鹿なっ」

「そんなはずないでしょう!」


柚月葉が架谷家の養女でなければ、京弥との結婚も無関係となる。亮成より戸籍を奪い取ったなつめも必死に柚月葉の名を探すが、どこにも記載がない。

それもそのはず、京弥は本家に柚月葉除名の依頼をしたのだ。本来許されることではないが、柚月葉の置かれた状況を添え、架谷家と一緒に罪を償わせるのは道理が通らないと、強く出た京弥の意見がきちんと認められた結果だった。


「あなた、ちゃんと手続きしたの」

「役所に書類を提出したはずだ」

「だったらなぜ、柚月葉の名前がないのよ」

「私だって、知らん。柚月葉は確かに養女として引き取ったんだ」


だから渡森の米屋を受け継ぐことができたはず。それがなぜ戸籍上では養子縁組ができていない? これでは赤の他人だ。


「京弥様、これは何かの手違いです」

「そうです、私たちは柚月葉を大切に育ててきました」


我が子のように育ててきたと言い張る二人に、堪忍袋の緒が切れたのか、碧海が動く。


「京弥様、私見を述べても構いませんでしょうか?」

「構わない」

「ありがとうございます」


意見を言う許可が下り、碧海にしては珍しく怒りを露にしたまま亮成となつめに向き合った。


「食事もろくに与えず、押入れ同然の部屋に住まわせるのが、我が子の扱いなのですか?」


碧海の口から柚月葉の扱いが飛び出し、二人は真っ青になる。なぜそのことを知っているのか? どこから聞いたのかと、視線が震える。


「そのようなこと、あるはずがありません」

「ここで働く者に聞いた話ですので、間違いはないかと思いますが」


あくまでも冷静に対応する碧海は、全て事実だと口にするが、亮成は往生際も悪い。


「誰に聞いたか知りませんが、使用人の中には私を快く思っていない者もおります」


その者たちが自分たちを陥れようと、嘘をついたのだと鼻で笑うが、碧海はそんな亮成たちを嘲笑うように嫌な笑みを浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ