表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/52

第42話「意趣返し」

その音を聞きつけ、亮成は急いで出迎えに出る。


「京弥様、お待ちしておりました」


深く頭を下げた亮成となつめに、碧海が頭を下げ、宇佐崎が軽く会釈をする。


「京弥様の付き人として参りました、碧海実乃吏と申します」

「同じく、部下の宇佐崎です」


碧海は分かるが、なぜ部下の方が一緒なのかと、亮成は一瞬奇妙な顔をしてみせたが、京弥が連れてきたということは、きっと何かあるのだろうと、3人を奥の部屋へと案内する。

襖を開けば、三つ指をついた莉緒が丁寧におじぎをした。


「お待ちしておりました」


目を背けたくなるほどに着飾った莉緒を見た京弥は、眉間に皺が寄るのを抑えられないまま、席に着く。

京弥が座布団に座れば、碧海がその傍に正座して待機し、宇佐崎は部屋の入口に立った。

何かあったときに咄嗟に行動できるように、刀に手が届くように構えて立つ。



パンパンッ



と、亮成が手を鳴らせばお茶が運ばれてくる。

だが、京弥は口元の布を外すことなく、お茶にも手をつけず、莉緒に視線を向けた。


「娘も同席か……」

「ええ、一緒の方がよいかと思いまして」

「そうだな」


冷たく言い放ったはずだが、莉緒は見つめる京弥に頬を赤くする。



(柚月葉を裸足で追い出したのは、こいつか)



そう考えたら、自然と腹の虫が収まらなくなり、京弥はじっと莉緒を睨んだまま、視線を反らせなくなっていた。

それを勘違いする莉緒は、「美しくて、目も離せないのね」と、細く微笑む。


「ところで、大切なお話とは?」


早々に本題を暴こうと亮成が控えめに声を掛ければ、京弥は一枚の紙を差し出す。



【帝上、御薬袋みない君睦きみちか様より授かりし、札の返上を申しつける】



そう記された紙には、神白家の印と、御薬袋様の印が刻まれていた。


「これはどういうことでしょうか……?」


札を返上ということは、商いができなくなる事を指す。亮成は顔色を青く変えて、紙を握り締めながら京弥に尋ねる。


「何か心当たりがあるのではないか?」

「そ、そんな滅相もありません。私どもは真っ当に商売をしております」


やましいことなど一つもなく、一方的に商売を打ち切るなど解せないと震える。

そんな亮成に、京弥の合図で碧海が帳簿を机に置く。


「これに見覚えは?」


自分の字に心当たりがないわけではない、しかもその帳簿が【裏】であることも把握できた。

なぜこれがここにあるのか? なぜ京弥がこれを手にしているのか? 亮成は使用人の中に裏切り者がと、そこまで考えたが、自室に入れるものなどいるはずもなく、この帳簿は妻にも娘にも隠してあったはずと思い直す。

では誰がいつどのようにこれを見つけた? 亮成は犯人の見当が全くつかず、額に汗が流れる。自分しか知らぬ帳簿、だとすれば……。


「私を嵌めようとする、誰かの罠です」

「このようなもの知らぬというのだな」

「当たり前でございます。誰ぞが作成した偽物でございましょう」


亮成は自分の物ではないと言い切った。それを聞き、京弥は薄墨の布の下で微かに笑う。


「宇佐崎っ」

「はい、直ちに」


名を呼ばれた宇佐崎は、潔い返事を返すと部屋を出て行く。それからすぐに戻ってきた宇佐崎は、机の上に残りの裏帳簿を投げた。

篁から箪笥だと、蒼からは引き出しの裏だと聞いていた宇佐崎は、京弥の命により、亮成の部屋より他の裏帳簿を拝借してきたのだ。


「これでも白を切るか」


逃げられると思うなと、京弥は声を強める。亮成の目が視点を失い、呆然と机を見ている。


「執筆鑑定はすでに完了している。これはお前の字で間違いない」


帝上が誰かの罠にかかるはずはないと、京弥はすべて事実だと言い放つ。


「……っ」

「早々に荷物をまとめて出て行くがいい」


金は今手元にあるだけ持って行っていいと、最後の情けをかけた。


「あなたッ、どういうことなんです!」

「お父さんっ」


事情を飲み込めないなつめと莉緒は、いきなりここを出て行けと言われ、亮成の着物を掴む。

だが、放心している亮成は瞳を泳がせたまま動けずにいる。


「あなた、説明して」


悲鳴のような声をあげたなつめが、亮成の体を揺さぶるが反応がない。


「どうして出て行かなければいけないのよ」


同じく莉緒も亮成の着物を必死に掴むが、「すまない」としか返ってこない。


「架谷家は帝上を裏切る行為をした、理由はそれだけだ」


混乱するなつめと莉緒に京弥がそう伝えれば、二人は亮成の着物から手を放して項垂れる。なぜそんなことをと、視界が真っ暗になる。


「命があるだけ有難いと思え。神白隊長の計らいだ」


涙を流し始めたなつめと莉緒に、宇佐崎が裏切り行為をしたにもかかわらず、首を刎ねられないのは京弥が口添えをしたからだと言う。

本来なら即刻首を落とされてもおかしくないと。

それを聞き、二人はさらに泣き崩れる。

そして、京弥は意外なことを口にした。


「今後一切、柚月葉に近づくことを禁ずる」

「柚月葉に、ですか?」


こんな状況で柚月葉の名が出るとは思わず、亮成はつい視線を京弥にあげる。


「柚月葉は、俺の妻。手出しすれば俺が許さない」


取り違いで結婚してしまい、近々離縁すると言っていたはずの京弥の口から、まさか柚月葉を妻にしたなどと聞かされ、亮成、なつめ、莉緒の三名は目が落ちるほど見開く。

当然、莉緒は唇を噛み締めて「なぜあんな疫病神がっ」と、憎悪を募らせるが、亮成はこれは願ってもない機会だと、京弥に向き合う。


「柚月葉を妻になさったのですか」

「そうだ」

「柚月葉は、うちの可愛い娘です」


態度を反転させて、亮成がゴマをするように猫なで声を出す。それをみたなつめも「柚月葉は本当に可愛い娘でして」と口裏を合わせる。

柚月葉が京弥と結婚したということは、神白家と縁ができ、繋がりを持つことができたということ。その娘の家族を追い出すなど、出来ないのではないかと、亮成は柚月葉を使ってこのことを何とかしようと企む。


「柚月葉は、少し大人しい娘ですが、家族思いの優しい子です」

「ええ、私たちが大切に育てた娘ですから」

「ちょっと、お父さんもお母さんも何言ってるのよ!」


突然柚月葉のことを褒め始め、気分が悪くなった莉緒が声をあげれば、亮成となつめから睨まれる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ