第35話「調査と家出?」
「弱いくせに」
奏が蒼の能力が低いことが分かって吐き捨てたが、顕仁は鋭く屋敷を見つめた。
(あの男、何か隠しているな)
かつて陰陽者と呼ばれていた者たちの足元にも及ばない能力だと感じたが、何か嫌な予感がすると、顕仁はキリキリと歯を鳴らす。
完全に能力を取り戻すことが難しく、怨霊たちをおびき寄せ、それを喰らうことで少しずつ力を増やしてはいるが、やはり戻る妖力は弱い。
だが、柚月葉さえいれば願いは叶うだろうと、顕仁は半分も戻れば上出来だと微かに微笑む。
「焦らずとも、ユズハを手に入れる機会はあるはず」
今は自身の力を少しでも取り戻すことに専念すると、顕仁はここは退くと二人を伴って姿を消した。
――*――*――
秘密裏に探っていた内容の確信が取れたのは、篁が架谷家に潜り込んで4日目のこと。
変装、潜入が得意な篁は京弥の命により、架谷家でとあるものの有りかを探っていたのだが、亮成の部屋になかなか近づくことができないうえ、確証もない。
10日ほど潜入しても見つからなかった場合は、【白】と断定すると言われていたが、篁はその音を聞く。
「その音は確かか?」
「実際に見れたわけではありませんが、おそらく箪笥の音で間違いないです」
「そんな単純な場所に隠しているのか?」
「確かに、すぐに見つかりそうな場所なんですが、木が擦れる音は箪笥しかないかと」
ある晩、妙に遅く帰ってきた亮成の部屋の明かりが、いつまでも灯っていることに気づいた篁は、周囲を警戒しながら部屋に近づいた。
静寂な夜ゆえに、書き物をしている音がし、何かを呟く声も混じっていた。
『これで……、勘解由小路に……』
聞き耳を立ててはみたが、独り言は部分的にしか聞こえず、篁は京弥にすみませんと謝罪する。
しかし、『勘解由小路』という名を耳にしたと話す。
「繋がりがあるのか?」
「そこまでは、……しかし、勘解由小路は有名な金貸しですよ」
篁は決して優良とは言えない金貸しだと、顔を顰める。その上人身売買の噂もある人物。裏ではどこまで繋がりがあるのかも分からない、得体のしれない危険人物だと把握していた。
「架谷家の後ろ盾というわけではないだろうな」
明らかに勘解由小路の方が格が上だ。考えるならば、逆かと京弥は机に肘をつき、顔の前で手を組む。
「勘解由小路を介して、繋がりがあるのかもしれませんね」
「奴は狸だ。篁、深入りはするな」
人身売買の件はおそらく警察が追っているはずだと、京弥は篁に勘解由小路の件は警察に任せておけと忠告する。探していた物が実在し、それが手に入れば問題ないと。
軍が警察に介入すれば、面倒なことになるだろうと、京弥は警察から疑われるようなことにならないように、関わることを禁止した。
「心得ました」
ビシッと姿勢を正した篁は、これで任務完了ですと報告する。後は、蒼に頼むしかないと京弥は席を外すと言い、「ご苦労だった、感謝する」と、篁の肩を叩き謝礼を述べた。
その頃、篁と同時に宇佐崎にもとある調査を依頼しており、
「研究熱心で、真面目な好青年で間違いありません」
「そうか」
「一応、家族なども調べてみましたが、人が良すぎるほど醇厚とのこと」
利益よりも皆の幸せを願うような男だと、宇佐崎からの報告を受け、京弥は里桜が惹かれたのも無理もないと、どこかで納得できた。
売り上げは悪くなかった、しかし、東都という米屋はずっと小さいまま。儲けた金を隠し持っているのでは? と、疑った自分が後ろめたくもなる。
身分に応じて売値を変えていたのだろうと、京弥は商売人としては失格だとは思ったが、人としては称賛に価していた。
「里桜に関してはどうだ」
正体を知っていたかと宇佐崎に問えば、首を振られる。
「突然姿を消したため、家族総出で数日探したようですが、戻るべき場所があったのだろうと、彼女の幸せを願っておりました」
「柊磨という男は、里桜が好きではなかったのか?」
駆け落ちした相手だというのに、恋愛感情がないというのはおかしいと京弥が聞けば、宇佐崎が困ったような表情をした。そして、宇佐崎の口からでた言葉に京弥も驚く。
「あれは駆け落ちではなく、里桜様の家出です」
「家出?」
「里桜様は、お気持ちを打ち明けておりません」
「どういうことだ?」
「ご自分の立場を分かっておられるのでしょう。里桜様は傍に居たい一心で男の元へ向かったようです」
つまり、好きという気持ちは打ち明けず、ただ会いに行っただけだと、宇佐崎はそう伝える。
相手に迷惑をかけられないことを知りながらも、どうしても一緒に居たかった、それだけだと。
「では恋愛感情を抱いているのは、里桜の方だけということか」
柊磨という男は何とも思っていなかった、そういう結論になるのかと京弥が険しい表情を浮かべれば、宇佐崎は「それは違います」と、否定する。
男もおそらく里桜を好いている、だが、里桜の気持ちが分からず、どこの誰かも分からない状況が重なり、想いを口にすることができてないと説明した。
互いに好いてはいるが、気持ちを打ち明けることができていないのが現状だと報告した。
それを聞き、京弥は自然と額に手を添える。
(気持ちを打ち明けられず、か……。まるで俺と同じだな)
柚月葉の気持ちは分からない、しかし、自分はすでに惹かれてしまった。幸せにしたいと勝手に思い込んで、自分なら幸せに出来るのはないかと、思い込んでいる。
(身勝手な押し付けか……)
結婚を白紙に戻さない限り、柚月葉は自分の元に縛っておくことができる、本当に身勝手な束縛だと、京弥は苦笑する。
「如何なさいましたか?」
突然笑った京弥に宇佐崎が声を掛ければ、「なんでもない」と返す。
「東都家の調査報告書作成を頼む」
「畏まりました」
「出来次第、本家に送り付ける」
宇佐崎がまとめた報告書を本家に送ると言われ、「何か気になることでも」と、不備があったのだろうかと身を乗り出せば、京弥は薄く笑っていた。
「何もないからこそ、送る価値がある」




