第21話「討伐」
怨霊は形を持たず、異様な闇の姿をとり現れていたが、最近は人型に変えることも、死体に憑依することも多くなり、一見、見た目が人間に見えるから厄介だった。
それを切り捨てる京弥の部隊を見た者は、人切りだと勘違いし、いつしか残忍な部隊だと噂されるようになり、特に京弥はその鋭い眼差しも重なり、恐れられる存在となっていた。
怨霊を祓えるのはお坊様であり、人々からしたら人間に憑りついた怨霊ならば、お坊様に頼めばよいものを、京弥たちが容赦なく切り捨てているように見えていたのだろう。
「隊長ッ! 門の外から誰か来ます」
西門を捜索していた篁は、急いで戻ってくるとそう報告する。
「神白隊長、ここは私がっ」
それにいち早く反応した宇佐崎が、刀に手をかけ身構える。篁も宇佐崎も強い。京弥はまずは二人に様子を伺うように指示をだし、自らはその人物から見えない位置に移動した。
何かあればすぐに切りかかれるように、身を潜める。
「こんな時間に何をしている」
フラフラと歩いてくる男に、篁が声をかければ、生気のない顔色で腕を伸ばしてきた。
『帰りたい……、戻りたい……んだ』
「和太琉、下がりなさいッ!」
伸ばされた腕が千切れたのを確認した宇佐崎が刀を抜き、篁も槍を構えると後方に下がる。
やはり人間ではない。
二人は息を飲んで男を見るが、腕が千切れた男は気にする様子もなく、またフラフラと歩き出す。
『……あの方の元へ行かなければ』
片腕を左右に揺らしながら、虚ろな視線でただ真っすぐに歩いてくる。
「ゴメンっ」
短く謝罪をした宇佐崎が男に切りかかるが、男は肩を切られても平然と立っていた。
『あの方が、……待っている』
不気味なほどに体が左右に揺れるが、男はどこかを見つめたまま、また歩き出す。それを見ていた京弥は男の台詞が気になった。
以前切った怨霊も「あの方」と口にしていたからだ。
(怨霊たちは目的があって、ここへ集まっているのか?)
この都に集まってくる理由がなにかあるのか?
京弥は考えを巡らせるが、何も分からない。もし、御薬袋君睦様を狙っていると言うのなら、帝上の屋敷に現れてもおかしくないが、怨霊が姿を見せたことなど一度もない。つまり、怨霊たちの狙いはそこではないと、そこまでしか解明できない。
(何が狙いだ?)
まともな会話などできない怨霊相手では、それを聞き出すことは不可能。だが、それが分からない以上、怨霊たちはさらに増えるだろうと、京弥は奥歯を噛み締める。
「なんだこいつはっ」
考えを張り巡らせていたら、篁が男に槍を刺したまま動けなくなっていた。槍に纏わりつく黒い靄が完全に動きを封じていた。しかも宇佐崎の刀も肩に刺さったままの状態だった。
押しても引いてもビクともしない状態に、二人から冷や汗が滴り落ちる。
「どうしてここまで切られて動けるの?!」
「他の怨霊ならとっくに消えてるだろう」
『呼んでいる……、あの方が……』
槍と刀を刺したまま、男はただ真っすぐに歩き出す。
「紫天刃!」
身を潜めていた京弥は、男の背中が見せると刀を振りかざし切りかかる。微かに光を帯びた刀が男の背中を切り裂く。
『うが、ガが――、ァァ、ァ』
うめき声のような悲鳴をあげた男は、そのまま黒い靄を纏いながら地面に崩れ落ちる。残ったのは腐敗した遺体のみ。
「隊長~」
怨霊が消滅したことを確認し、篁が走り寄ってきた。そして宇佐崎もゆっくりと戻ってくる。
「無事か?」
「隊長のおかげで助かりました!」
「お手数をおかけしました」
明るく声を出す篁とは逆に、宇佐崎は丁寧に頭をさげて礼を述べた。
京弥の持つ刀【滅紫】は蒼から授けられたもので、陰陽者の術が込められていると言われ、不思議な力を宿しているのだが、それを使いこなせるのは京弥しかおらず、他の者が使用してもただの刀としての役割しか果たせない特別な刀。
(此度も感謝する)
毎回この刀に助けられていると、京弥は鞘に収めるときに必ず、刀と蒼に心で礼を述べるようにしていた。
「身元が分かりそうなものはありませんね」
腐敗した遺体を調べていた篁が、所持品らしいものは全く身元不明だと告げ、宇佐崎が「これで5件目だ」と、吐き捨てた。
ただの怨霊なら跡形もなく消えるが、遺体に憑依している場合、怨霊は消えても遺体は残される。よって、後処理にかなりの時間がかかっている。
「隊長、とりあえず詰めますね」
「頼む」
ほとんど原型のない遺体に驚くこともなく、篁は独自の密印を組むと『空匚』と唱える。すると一瞬青白い光が現れ、真っ白な箱が遺体を囲う。箱のふたが閉じれば、収納完了となり、そのまま光と共に消える。
遺体は篁の術により回収され、軍の安置所に篁が収める。
「宇佐崎、また頼めるか?」
「大丈夫です」
「終わったら、いつものように机にでも置いておいてくれ」
「了解いたしました」
怨霊に憑りつかれた遺体の身元を割り出すために、宇佐崎に絵を依頼する。先ほどまで人の形をしていたその顔を思い出して描いてもらう。
似顔絵を作成し、身元を割り出せれば、身内の元へ戻す。ここまでが京弥の部隊の仕事であり、事後処理にかかる書類作成が困難なのだ。すぐに身元が分かればいいが、大概はかなりの時間がかかる。よって、憑依された遺体を討伐するよりは、怨霊だけのほうがよほど楽だった。
「悪いが、俺はここで解散する」
他の者にも解散するように伝えてくれと、宇佐崎に告げた京弥は、訪ねたいところがあり、その場で業務終了を命令する。
「直帰でしょうか?」
「いや、寄りたいところがある」
「お疲れなので、お気をつけて」
宇佐崎はあまり休んでいないのではないかと、京弥を心配しつつも命令には従い、各配置にいる部下に声をかけて一緒に軍に戻ると言ってくれた。それを聞き、京弥は「ご苦労と」と、皆に伝えて欲しいと言い残して夜の闇に消えていった。
京弥が姿を消すと、篁が宇佐崎に近づく。
「あっちって、隊長の屋敷と逆方向ですね」
何か言いたそうに口元を緩める篁に、宇佐崎はギッと睨む。
「何が言いたいんだ」
「隊長も隅に置けないなぁ~なんて、――イデッ」
もしかして女のところに行くんじゃないかと、笑みを見せた篁の足が踏まれる。




