第12話「義妹との遭遇」
「美味いな」
一口食べた京弥はそう言葉を吐くと、ペロリと間食してしまった。
「柚月葉様がお作りになったのですよ」
「柚月葉が?」
「ええ、昼食にいただいておりました」
「そうか、美味かった。良ければ一つ包んでくれ」
礼を述べた京弥は、まだ皿に載っていた焼きおむすびを一つ包むように言い、忘れ物を取りに向かってしまった。
素直に美味しかったと言われ、柚月葉の心が温かくなる。自分の作った料理が褒められるのは、やっぱり嬉しいと微かに耳が赤くなる。
「京弥坊ちゃまが素直に美味しいなどと言うのは、珍しいですね」
何だか自分も嬉しいと、美坂は言いながら焼きおむすびを包み、なぜかそれを柚月葉に手渡した。
「朱珠音さん?」
「戻ってきたら渡してあげてください」
ぜひ柚月葉から手渡してほしいとお願いされたが、柚月葉の顔は自然と引き攣ってしまう。自分なんかが京弥に何かを手渡しも大丈夫なのだろうかと、嫌な顔をされるのではないか、拒否されるのではないかと、恐怖心に襲われる。
疫病神からなんて、何も受け取りたくはないだろうと、慌てておむすびを美坂に押し戻す。
「これは朱珠音さんから渡してください」
自分が渡すなど図々しいと、柚月葉は両手でおむすびを押しつけるが、美坂はそれを受け取らずに微笑む。
「大丈夫ですよ。京弥坊ちゃまは受け取ってくださいます」
「で、でも……」
「柚月葉様がお作りになったものですので、どうぞご自分で渡してあげてください」
心配には及びませんと美坂は言うが、拒絶されるのがとても怖くて柚月葉の手が震える。
きっと叩き落される、冷たい目で拒絶されると、何度も味わってきた恐怖をまたと、瞳が揺れる。
「できたか?」
忘れ物を手にした京弥が台所に再度顔を出せば、美坂が柚月葉の背中を軽く押す。
「あの、ここに」
震えの止まらない手を差し出せば、京弥は柚月葉の手から焼きおむすびを受け取った。まさか受け取ってもらえるとは思わず、柚月葉が顔をあげれば京弥と視線が合う。
「なんだ?」
じっと見つめられ、京弥が言いたいことでもあるのかと口を開けば、柚月葉は慌てて頭を下げた。
「いってらっしゃいませ」
「ああ、いってくる」
柚月葉が送り出せば、京弥は嫌な顔一つ見せずに、そう言って屋敷を出て行く。
そんな何気ないやり取りが、柚月葉にとって何よりも温かく感じた。冷たい瞳をしていると思っていたが、京弥はとても優しい方なのだと、少しだけ気持ちが柔らかくなった。
こんな私にも優しくしてくれる人がいる、それだけで心が温かくなった。
――*――*――
「あれぇ〜、もしかして義姉様?」
店の外で碧海さんを待っていたら、会いたくなかった莉緒が足を止めた。
とっさに俯いてみたけど、莉緒は覗き込むように顔を確かめ、口角をあげる。
「もしかして、捨てられたのかしら?」
隣町に嫁いだはずの柚月葉がこの町にいるということは、きっと捨てられて、ここに戻ってきたのだろうと、莉緒は楽しそうに声をはずませる。
こんな辛気臭い女、捨てられるのは分かっていたけど、本当に捨てられたと分かると、楽しくて仕方がない。
服もあの頃と変わらない見窄らしい着物で、顔色も良くない。嫁ぎ先でもきっとよく扱われなかったのだと、莉緒は優越感に浸る。
部下たちを連れ、久しぶりに外にご飯を食べに来た京弥は、好きなものをと口にすれば、皆が盛大に騒ぎ出し、やれやれとふと外をみれば、少し遠くに柚月葉の姿が見えた。
(そういえば、着物をいくつか調達するよう、今朝実乃吏に言ったか)
さすがに2着では少なすぎると、なんでもいいから買ってこいと言ったことを思い出す。
おそらく二人で買い物に来ているのだろうと、それほど興味もなく、品書きを見ようとした時だった。
(誰だ?)
綺麗な女性が柚月葉に声をかけるのが見えた。
遠目にみても綺麗な女性だと分かる姿と、周りに数人の男性が控えている様子が伺えた。どこかのお嬢様か?
京弥はなんとなく視線が逸らせなくなり二人を見ていたが、挨拶だけにしては長すぎると、疑問が浮かぶ。
柚月葉のような女と、いったいどんな関係があるのか、それに、女性は高飛車に笑っているようにも見えた。
「亭主、勘定はここに。皆、悪いが俺は先に席を外す」
「隊長! 仕事ですか?」
「いや、私用を思い出しただけだ」
任務などではないと伝え、足りない金は後で払うといい捨てて、京弥は店を出ていく。
「隊長、ごちそうさまです」
「節度を持って御馳走になります!」
「腹いっぱい食べます」
皆から声がかかり、京弥は片手を上げると「楽しめ」と、言い残して店を出ると、気づかれないように柚月葉と女性に近づく。
「相手方から何も連絡がないと思っていたけど、本当に捨てられてたなんて」
「ちが、……私は……」
「言っておくけど、家にはもう居場所なんてないわよ」
捨てられていないと口にしようとして、莉緒は冷たく戻ってこないでと言った。柚月葉が捨てられたとなれば、商談も白紙になったことを意味し、架谷家にとって何も良いことなどない。おまけに柚月葉が姿をみせれば、父は激怒するだろうと想像がつき、莉緒は町から出て行けと視線を向ける。
色の落ちた着物と、艶のない髪、何もかも劣る義姉が疎ましくも、その哀れさが莉緒の心を弾ませる。
「そんな身なりでは、雇ってくれる場所もないでしょうね」
素性も分からないような人をまともなところは、雇わないと薄く笑う。
厠のような匂いまですると笑えば、周りにいた男性たちも口を歪めて笑い出す。
「やめて」




