第一章 運命の男 Ⅴ
〈第一章 運命の男 Ⅴ 〉
帰りに何となく駅内を探索してみる事にした。
結局何も怪しいものはなかった。もしかするとどこかに死体でも遺棄
しているのかと恐ろしくも思ったが、言ってしまえば、
何もなくて良かったのである。
帰る前にトイレに寄った。洗面台で手を洗って、ハンカチで手を
拭きながら出てきた時、男性用トイレの横に何も表記されていない扉があった。
ドアノブの上に、汚れた縦長の長方形窓が半分に分かれていた。
中を覗いたが、やはり汚れているせいか、曇っていて何も見えない。
てっきり掃除用道具の詰まった部屋かとずっと思っていたが、
掃除用道具なら、トイレの一番奥の個室の横にあった。
よく見てみると、扉の左上には消えかけた文字で『△ WAS HERE 』と錆びた
銅のような色で書かれていた。 ——ここにいる‥‥‥。
何を表しているのかよく分からないが、誰かが居たらしい。
何だか少し寒気がする。足元が冷たい気がする。
地下鉄が出発した時の風でないのは確かだ。
スコットはしゃがんで、扉に耳を当てた。扉の向こうから何だが音がするようだ。
——ピュルルルル——
間違いない。風の吹く音だ。
スコットは立ち上がり、扉を開けようとした。
凄い風の勢いだ。スコットはベージュ色の帽子を押さえながら扉を開け
ようとした。
「ッ堅い!」スコットは全力でドアノブ引いた。
——ガシャァァァァ‥‥‥。
大分年季がはいっているらしい。手が少し錆臭かった。
扉を開けて奥を覗いてみると、二十メートル先に出口らしき穴がある。
中へ入ると突然風が止まった。
その奥には洞窟らしきものが続いているように見える。
地面は灰色の雑草のようなものが生えている。壁は薄汚い白色だ。
スコットは気にせず前へ突き進み、すると今度は十メートルほど洞窟が
続いている。
後ろを振り返ると、来た方向の出口は消えていた。どうやら戻れないようだ。
その奥にはようやく光らしきものが見えている。スコットは歩き出した。
洞窟の岩の色は茶鼠色で、何だか冷たいように感じだ。
光に向かって歩くにつれ、また風がしなやかなに吹き出してきた。
——ビュゥゥゥオォォォッ——
洞窟を抜けると辺り一面緑の草原に囲まれていた。
スコットは帽子を押さえながら空を眺めていた・・・。




