八十話 当面目標があると気が楽になるし
一夜明けた太陽の心境は晴れやかであった。いくつか注意事項を言われたが、そんなもの守れないほうがどうかしてるというようなものであったのでほとんど意識の範疇外にあった。人間不安がいったん取り払われると存外その他のことに関してはおおらかに行けるものである。
「皆さんおはようございまーす!」
「ん?陽菜、今日はやけに元気じゃないか。何かあったのか?」
正一郎(暫定)が太陽に話しかけてきているが、当の太陽はお花畑気分が抜けないのか鼻歌すら歌っている始末。
「なぁ、昼休憩の後やけにふさぎ込んでたけど、陽菜に何かあったのか?」
不審なものを見る目で正一郎(暫定)が頭を押さえて悩み始める。
「いや、それをワタシたちが知るわけないだろ。昼食時、何があったか聞かせてくれよ」
カイナが正一郎(暫定)に逆に問いかけた。何か、何かと正一郎(暫定)がうんうん唸って、そして一つの答えを見つけた。
「そうだ、桐生院さんに会った。それで陽菜が何か掴みかかってたんで無理に引きはがしたんだが、その時21時に勾当台公園で会おうとか何とか言ってたんだ!」
「なんでそれをもっと早く言わねぇんだ馬鹿」
カイナが正一郎(暫定)の頭をひっぱたき、うごぉ……と悶える正一郎(暫定)を尻目に転生者対策課の現状戦闘力ツートップとなる男性陣が作戦会議を始める。
「つまりはだ、そわかの馬鹿がなんかやらかして、それに巻き込まれた陽菜が落ち込んでたってわけだな。そんで、それの解決口を見つけたと」
「桐生院さんの居場所なら、この前聞いたばっかだし拠点は買えていないと思います。カイナさん、カチコミますか?」
至極不穏な会話である。当然それは太陽の耳にも入って、昨日桐生院から聞かされた注意事項を思い出した。
『いいですかぁ?これから私がすることは結構人道に反することと言いますかぁ、他の人にバレでもしたら一発アウトですぅ。なので絶対にぃ、ぜーったいにぃ、人を近づけさせないでくださいねぇ?もし見つかったら二度と元の世界に戻れないと思っておいてくださいぃ』
「あー、いやー、行かなくてもいいんじゃないんですかねー?僕、ほら僕こんなに元気ですし!」
太陽渾身のボディブロックも、哀れ現状の力関係の影響で子猫のようにあしらわれてしまった。
「そうはいかねぇ。いったんあいつに放しつけてやらねぇとワタシたちの気が済まねぇんだ」
「そうそう。陽菜ちゃんはここでお留守番してくれればいいからね」
太陽はいっそここで全て吐いてしまおうかとも思った。その方が転生者対策課の面々も協力してくれそうであるから。
しかしこれがうまくいかなかったときのリスクもまたデカい。太陽は仕方なしに、次の策を打って出すことにした。
「じゃ、じゃあ、アレです。行く前に、僕との買い物に付き合って欲しいなーって。なんて、思ったんですけど、どうですか?あれでしたら皆川さんも一緒に、皆で買い物なんてどうでしょう!」
苦肉の策であった。太陽は女性となった自分の見た目にこれっぽっちも欲情なんてできなかったからだ。
「……つ、つまり、デート、ってコト?」
「み、皆川さんも一緒?ダブルデート?」
しかし、ノレンが男性経験未経験であったようにカイナは女性経験が全くなかったし、由美(暫定)もまた、正一郎(暫定)がいれば結構まんざらでもなかったので、結果として凄くうまくいった。太陽の首の皮は一枚つながったともいえる。




