七十四話 役割なんてそうそう変わらないし
「うわ、これまたひどいな……」
現場に到着した太陽は、そこで起こった銭湯の苛烈さを雰囲気から察していた。当たりに散乱する車の破片から、転生者同士の戦いがあったのは明白であり、それが現在進行形で続いているのも激突音から把握できた。
「由美さん、じゃなくて、えっと、宝来さん!現着しました!」
「おお陽菜ちゃんか!ごめんだけど急ぎでコイツ片すぞ!」
太陽の言葉に反応したのは、昔やんちゃしてたんだろうなぁと思しき筋肉質な男性。ツーブロックで顎に無精ひげを蓄えている。ああ、元ヤンでしたっけ由美さんって、と太陽が一人納得している中、黒煙の中から飛び出してきたのは凄く典型的なドラゴンであった。
こんな状況でなければ嬉々として狩りに行くようなものであるが、しかし太陽は未だに自分の立ち位置が分かっていなかった。
「と、とりあえず吹っ飛ばしますね!」
いつもの通りでいいかと120キロの超スピードで体当たりをかました太陽であったが、しかし女性の体重ではいつもと同じ威力が出なかったのか、それともドラゴンの耐久力が非常に高かったからか、ともかくドラゴンに対して有効打にはなっていなかった。
そしてそれはそのまま自身への反撃となって襲い掛かってくる。太陽がぶつかってきた勢いそのままに、体を反転したドラゴンのしっぽが太陽自身へ襲い掛かる。
「っぐぁぁっ!」
しっぽの一撃をもろに食らった太陽は吹き飛ばされ、アスファルトを二三度バウンドしてやっと止まった。
「陽菜ちゃん!大丈夫か!?」
由美(暫定)が太陽を心配するが、それよりも早く地面から跳ね上がり戦闘態勢を取り直す太陽。今の一撃で目が覚めたようである。
「体がどう変化しようとも、僕は僕だ。なら、僕にできる最大の一撃を!」
そうして太陽は空中へ舞い上がり、超高高度からフリーフォールの体制に入る。ドラゴンにはその場から動けないよう小刻みに120キロの指向性を地面に向けた加速を入れ、そうして太陽がかかと落としの体制に入る。
「簡易版隕石落とし!!!」
相手が重くて持ち上がらない時に太陽が使う必殺技である。太陽のかかと落としは正確にドラゴンの頭に突き刺さり、そのまま首をへし折った。
「どうだ!」
太陽が地面で決めポーズを決めたあたりで、ドラゴンのその巨体は地面に崩れ落ちた。完勝と言っても差し支えない戦績であろう。
「ところで、なんで宝来さんは一撃で決めなかったんですか?やろうと思えば出来ましたよね?」
なんとなく聞き伝えられた情報で、太陽は由美(暫定)が強力な一撃を持っていることは知っていた。しかしそれを使わなかったことには、何か理由があるのではと思ったのである。
「簡単な話、コイツを倒したとこで別のやつに襲われたら対処できねぇからな……あんな感じで」
由美(暫定)が指をさした方向には、先ほどと同じタイプのドラゴンが三体、太陽たちを敵意むき出しで睨んでいる。
「さて、残業だ。やるぞ、陽菜ちゃん」
「ええ、やってやりますとも!」
転生者たちがやる気満々でドラゴン退治を始めようとしたその時
「おいおい!ワタシ抜きで始めようってのか!?」
元気な男性の声が後ろから響いた。直後発砲音と共にドラゴンの一体が苦痛の声を漏らす。
「あっ、えっと、カイナさん!」
「おう陽菜ぁ!ワタシがいない間よく耐えた!あとは任せろ!」
太陽が後ろを振り向けば、金髪の軽薄そうな男性がバイクの上から拳銃をドラゴンに向けていた。
ああ、これがノレンの男性姿か、納得。と太陽が一人ごちる中、三者三葉の戦闘が始まった。




