七十三話 リスクのある行動はとれないし
呼ばれて初めて太陽が自分の警察手帳をそれとなく確認すると、確かに名前が朝日陽菜となっている。名前すら変わるタイプの世界異動らしい。そして正一郎の席にいるのが、正一郎の女体化した姿なのだろう。しかし世界が変わっているためいつものように名前呼びをするのが難しい。
一か八かで正子さん呼びするのもなんとなく怖いので、必然的に太陽のとった言動は
「お、おはようございます、皆川さん」
苗字呼びであった。自分の苗字も変わってなかったし、正一郎の苗字も変わっていないだろうという憶測からの行動であった。
「おお、なんだ急に苗字呼びなんかして、しかもいつもより元気もないし……まさか、何かやらかしたのか?」
しかし不審がられてしまった。日頃の行いのせいであろうが、しかしこの世界の太陽には関係のないことである。この世界の太陽もとい陽菜のことを恨みつつも、ここは弁明して切り抜けなければいけない。
「そ、そんなことないですよ?僕はただ、皆川さんの偉大さ?というか、尊大さ?に気が付いて、これからは敬っていかないとなぁって思っただけですから!」
「そうなのか?まぁ、そう言われると悪い気はしないが……」
珍妙な回答だったが、なんとか信じてくれたようである。一瞬一人称は僕で良かったのだろうかなどと太陽は思ったが、そこに変更はないようである。
「それにしても、カイナも宝来さんも来るの遅いな……何かあったんだろうか」
正一郎(暫定)が今不在の二人を心配する。言動からしてカイナというのがノレンの男性名なのだろう。自分の名前が割と関連性があるのにどういう関係の名前変化なんだろうという疑問が湧いたが、ノレンはさておいて由美がこの時間帯までいないのは確かに不自然であると太陽は思っていた。
「確かに、いつもなら誰よりも早く出勤してますものね」
「そうだな……なぁ、私もスマホで連絡してみるから、陽菜は空をぐるっと回って探してみてくれないか?」
「分かりました!」
なんとなく正一郎(暫定)と二人きりでいることに居心地の悪さを感じていた太陽は、一も二もなくその提案に飛びついた。そして外に出るなり空高く飛びあがり、遠くの方で黒煙が上がっていることが分かったのである。
こんなに早く原因がつかめるなよと太陽は盛大に舌打ちし、早々に転生者対策課にもどり正一郎(暫定)へ報告を上げた。
「なんか大和町方面で黒煙が上がってるみたいですよ!宝来さんの住んでるのってどのあたりなんですか?」
「え?いやぁ、私に聞かれても……でもこっちも連絡つかないから、もしかしたらそっち方面なのかもしれない。陽菜、来て早々悪いんだけど、早速現場に急行して!」
人の個人情報なら何でも知っていそうな正一郎なのに、この世界の正一郎はそういったことに無頓着なのだろうかと首を傾げた太陽であったが、しかし事件とあればその話はいったん横に置いておくべきだろう。太陽はまた転生者対策課から出て、今度は黒煙の方向へと向かうべく空へ舞い上がった。




