七十話 決着があったとして状況が好転するわけでもないし
かくして宗教騒ぎは収束した。すべては巨大な脳となった転生者の引き起こした大規模な武装蜂起の前触れであり、それを未然に防ぐことに成功した転生者対策課は
「……寒い」
未だ、外に置かれた物置を本拠地としていた。この件が公になるのはもっと先のことで、表彰等も相当先になるだろうというのが上層部の判断である。なので転生者対策課の移動も尤もッと先になることが決まったのだ。
季節はもう四月に入っており暖かい日も増えてきた昨今であるが、しかし今日はあいにくの雨であり、肌寒いどころではないのであった。なお宮城県警警察署内部は冷暖房完備のエアコンが付いているので石油のストックは必要なく、更にここ数日は石油売りのトラックも徘徊をやめたため、転生者対策課は窮地に立たされていたのである。
正一郎は残り少なくなったカイロのストックを振りつつ、かじかんだ指を温める。一方でノレンはコートを二枚重ねて暖を取りつつ、隅っこの方で丸くなっていた。曰くこの方がまだあったかいらしい。
由美と太陽は現在不在である。なんせ一気に三人も(うち一人は人という枠に収めていいのか分からないが)転生者を捕縛したのだ、今署内はてんやわんやの大騒ぎとなっていて、転生者対策課に籍を置いている転生者が取り調べや移送とかなり重宝されている。しかし逆に言えば非転生者はお呼びでないので、正一郎とノレンは課の中で留守番中という訳だ。
「なぁ、今からでも直訴してすぐにでも物置から署内に移転させてもらおうぜ。何ならオレめっちゃ頑張るからさ」
「何ならじゃなく、すぐにでも頑張ってくれよそれなら」
ノレンの言葉に上層部だのメンツだのを一切気にすることなく正一郎が言い切る。しかし正一郎は薄々感づいているのだ、ノレンがどうこう言おうと決定を下された現状どうしようもできないということを。
「……はーあ。なんでったって東北はこうも寒いんだ。東京はよかった。四月なんかもっとあったかくて、それでいてこんな天気でもここまで気温が下がることなんてなかった」
「どうした急に。お得意のでたらめも出ないか?」
軽口をたたく正一郎に少しムッとしながらも、ノレンは口を動かすことをやめない。
「東京のさぁ、カレーチェーンが美味いんだ。ちょっと金払えば好きなだけカレーがおかわりできたんだ。そんでそのカレーのコクがすげぇのなんのって、ホントよかったよアレは」
正一郎は、ちょっとだけカレーの口になってきた。そう言われるとおいしいカレーが食べたくなるのは人間の性というものであろう。そういえば昼も近い。今日の昼飯はカレーにしようと正一郎が立ち上がると、ノレンも続いて立ち上がった。
「あらダーリン。今日の昼食に行くのかしら?オレもご相伴に預かるわ」
「……お前、カレー喰いたくて今の話したろ」
「何のことかしら。さっぱりわからないわ」
白々しく腕を組んでくるノレンを振り払うと、正一郎はため息を一つついて傘に手をかける。
「アレだからな、お前の話関係なくカレーの気分だったからな」
「そういうことにしておいてやるよ。さ、カレー喰いに行こうぜ!」
この寒い中食べるカレーは格別にうまいだろうと確信しながら、正一郎はノレンと共に近くのカレー店へと足を運んだのであった。




