六十九話 いつから洗脳されてたかなんてわからないし
「……は?え?なんだ?何が、てかいつからだ?」
しばしの静寂の後、正一郎は言葉を絞り出した。今起こった一瞬なのか永劫なのかもわからない時間の中で、自分が何者かすら分からなくなってしまっていたのだ。
「き、きっとこの部屋に入ってからだよ皆川くん」
「違う。この建物に入ってから」
淡い期待にすがった由美の言葉を、無情にも麗が打ち砕く。
「もっと正確に言うと、今日この建物に入った時点で催眠はかかっていた。皆川、貴方は何もないところに銃弾を撃っていた。その背後を極際がひやひやしながら見てて、隙を見て押野の背中を取った。それを私が奇襲した」
麗の説明を受けてもいまいちピンと来ていない二人に、ため息をつきながら麗は話を続ける。
「結論、この建物には元から本尊という名の今田が収容されていた。催眠が届くのはこの建物の範囲内。脳みそはこの建物に人を集めるのが目的。多分両親もグル、というかアレが本当に両親だったかも疑問。そこは私のミス。ごめん」
素直な麗の謝罪に、ここに来てやっと今起こっていることがつながってきた正一郎が納得する。しかし由美にはまだ理解できていない点があった。
「じゃあ、事務所に押しかけてきた魔物はなんだったの?魔物の反応は本物だったし、扉が壊されたのも本当だったし……」
「それがこの脳みその巧妙な所。多分四天王と言いつつ、本物の転生者は三人だけ。一人が襲撃時に追ってきたやつ。二人目が召喚士。そして三人目がこの脳みそ」
麗の少ない言葉のせいでまだ正解にたどり着けていない由美に、正一郎が助け舟を出す。
「つまり、実働部隊と洗脳による非実在性の部隊、二つがいたってわけだな。強い洗脳のせいでウチで捕まえたサタナエルを自称する奴はあたかも四人いるように確信をもっていたし、召喚士もそこまで強い償還能力は持っていなかったが俺らが洗脳を受けていたせいで強大な人物であると勘違いしたと」
「決めつけるのは早計、でも恐らくそう」
麗の満足げな頷きに、ようやく由美も事態が飲み込めたようである。
「あー!つまるところ全部全部騙されていたってわけだね!」
いや、確かにそうだけど、そんなに単純な話でもないんだが……と、正一郎が由美の能天気な言葉に頭を抱える中、やっと上で盛り合っていた二人が下りてきた。この二人がちゃんと洗脳対抗装置を付けた状態で付いてきてくれれば、もっと話は単純だったはずなのに……と正一郎は怪訝な表情を浮かべてから、ふと思いついたことを麗に問いかける。
「俺ら洗脳対抗装置を付けてたのに、なんで洗脳されたんだ?」
「貴方たちは最初から洗脳対抗装置をつけていなかった」
ん?と再度疑問の渦に飲み込まれた正一郎に、麗は呆れたと言わんばかりに再度説明をしてくれる。
「この建物に入る前に洗脳対抗装置をつけていないとそもそも意味がなかった。入った時点で洗脳完了。あとは洗脳対抗装置を付けたと思わせる洗脳をしてしまえば対処はらくちんのはずだった」
あー、だから麗のことだけ特別に危険視していたのかと正一郎は今度こそすべて腑に落ちた。そして同時にこうも思う。俺って、ていうか転生者対策課ってかなり危うい?と




