七十一話 哀愁ってこういう時に感じるものだし
大捕り物があってから数日、穏やかな日の照る仙台の午後に太陽は仙台のアーケードを歩いていた。今日はやっとの非番の日で何もやることがなかったので、彼のフェイバリットフードである二郎の仙台店へ足を運ぼうとアーケード街を通っていたのであった。
二郎系であれば手軽さも含めてラーメンビリーという手もあるのだが、やはり一か月に一度は並んででも本家本元の二郎へ行きたくなるものである。
鼻歌交じりでウキウキと目的地へ向かう太陽の目に、見知った顔が悲しい顔で声を上げているのが見えた。
「世界は生きにくくありませんかぁ?いっそ楽しい事だけして生きていきたいと思うことはありませんかぁ?」
桐生院である。前回の騒動で信徒の全てを失った彼女が、新たな信徒を獲得するために頑張っているのだ。かわいそうだが太陽にそれをどうにかする力も義理もない。何もなかったと太陽が見捨てる形でその場を後にしようとした時
「あっ!あのぉ!朝日さんですよねぇ!」
見つかった、捕まった。哀れ太陽は桐生院に捕捉されてしまった。
「人違いです」
「違いませんよぉ!その顔ぉ!その髪ぃ!その表情ぉ!助けてくださぁい!」
何とか回避しようにも、桐生院の追撃は止まらない。結局太陽はその善性ゆえなのか、桐生院に捕まってしまった。
ただご飯を食べるためにこの道を選んだだけなのにどうしてこうなったと太陽が珍しく頭を抱える中、太陽の奢りでお腹いっぱい大豚ラーメンを食べきった桐生院は至極満足げな顔でお礼を言う。
「っはぁー!生き返りましたぁ!いやぁ、持つべきものは友ですねぇ!」
「僕、あなたと友達になった記憶はないんですけど」
太陽の至極真っ当なツッコミを無視しつつ、桐生院は話を続ける。
「そんなあなたにぃ!いいものを持ってきたんですよぉ!これはその名も「現実改変札」といいましてぇ、色々現状に不満がある人が使うとぉ、その現実から一時的にではありますがぁ、別の世界へと旅立つことが出来るんですよぉ!」
なんとも胡散臭い札だ、と太陽は思った。なんせ桐生院の転生者特典を太陽は、というか転生者対策課の面々は知らないし、どんな効能があるかも全く分からないものを使う道理も、現状に不満ももっていないのである。
「あぁ、ご心配なくぅ!効能は実際に実験済みですぅ!なのでふあんに思うことはありませんよぉ?今回は特別に一万円で譲ってあげてもいいですぅ!」
「結構です」
なので太陽のこの反応は至極当然というか、全くもって当たり前のモノであった。しかし桐生院はなおも引きさがらない。
「助けると思ってぇ!これが一枚売れるごとに私が10日は生きられると思ってぇ!!」
桐生院の必死過ぎる売り込みに根負けした太陽は、しょうがなしに一枚買ってあげるのであった。




