六十六話 少し予定が前倒しになることもあるし
「あークソ!こっちの40口径がもうカンバンだ!正一郎は!」
「こっちはまだ余裕ある!マガジンごと渡すぞ!」
正一郎が投げたマガジンを、器用に空中で銃の中に収めるノレン。そうしてそのまま一発で複数体をブチ抜いて、自分に向けられた攻撃はスレスレで躱していく。
荒浜での一件を顧みたノレンは、当時の反省として自身の体力のなさを痛感していた。そのため動きを最小限にすることで、体力の温存を図っているのだ。
対して正一郎は動きに無駄が多い、しかし彼も一警察官としての訓練は一通り受けている。疲労が溜まってきても、動けるだけの体力は残していた。
そして現時点最大の戦力である桐生院は、自身に降りかかる攻撃をものともせず錫杖でどんどんとコボルトたちを屠っていく。正直彼女の参戦がなければ、先ほどの戦闘の様に正一郎はボコボコにされていたことだろう。
かといって召喚元を叩いてもらうには余りにも戦力が拮抗しているため、桐生院もここから離れることが出来ないのが現状であった。
絶え間なく続くコボルトの群れに、時折空中から降り注ぐ羽根の弾丸。回避、戦闘、また回避、更に攻撃、正直言って正一郎とノレンの体力は限界に近い。せめて上空にいる敵が姿を見せてくれれば狙撃の一つでもできたのにと、ノレンが苦々しく思っている中、上から轟音が鳴り響き、直後地面に亀裂が走る。
地面に倒れているのは羽の生えたローブの人物。恐らくこれがルシフェルと呼ばれていた転生者だろう。そしてその後ゆっくりと、ルシフェルを打ち倒した人物が下りてきた。
「お待たせしました!」
太陽の到着である。続いてコボルトの群れが押し寄せてきていた方向から、すさまじい音が響く。それと同時にコボルトの群れが一瞬で消えた。恐らく由美がやってくれたのだろう。やっとこれで一息つけると正一郎がその場にへたり込み、ノレンが膝をついて荒く息をしている。
「ぜぇ、ぜぇ、ったく、おせぇよ……」
「し、死ぬかと思った…………」
非転生者たちが各々感想を述べあう中、桐生院が異変に気付く。
「あれ?極際はどこ行きました?」
そう、その場で伸びていたはずの極際が消えていたのだ。正一郎は最悪の事態―この場合、極際が人のいるところまで逃げ延びてその場の人間たちを洗脳しこちらに差し向けてくること―を警戒し、直後ノレンがくぐもった悲鳴を上げる。
「ぐぅっ!?」
「はーい、皆動いちゃだめだよー。武器持ってる人はソレおいてねー。じゃないとこの女が死ぬよー」
ここに来て、極際は逃走ではなくノレンを人質に取ることを選択した。正一郎は最悪の事態を免れたことに安堵し、拳銃を握りなおす。
「そのまま構えてろよ。その女もろともぶち抜いてやる」
「正気ですか正一郎さん!?」
太陽の驚く声も無視し、正一郎は拳銃の引き金に指をかける。余りの正一郎の気迫に、ノレンも焦り始めた。
「おいおいおいおいマジで言ってんの?なぁ、ほら、オレを生かしておいた方が得だぜ?交渉事なら負け無しだし、信徒もいっぱいいるし、あと、ほら!アレだ!オレという超いい女がお前の言うことなんでも聞くぜ?おい、待てよ、マジで待てって!」
「ノレン、ありがとう。じゃあな」
「じゃあなじゃねぇって!おい極際!こいつマジだ!オレ死にたくねぇよ!こういう時コイツ冗談とか一切通じない奴なんだって!もうあれだぞ!オレこの場で漏らすぞ!大も小もだ!やだやだやだ死にたくないーーーー!!!!」
ノレンの必死過ぎる命乞いに気圧された極際が一瞬たじろいだその瞬間、極際の後頭部に強烈な一撃がお見舞いされた。急に攻撃を貰った極際は、あっけなく意識を失ったのであった。
「……私が近づいてたの、よくわかったね」
「まぁ、実際俺には見えてたし」
タクティカルバトンを片手に、麗が肩を竦める。ここに来て初めて、太陽と桐生院は麗の存在に気が付いた。
「それにしても、よくこの場に戻ってきたな」
「簡単な話。逃げた信徒たちの中に息子の姿がなかった」
そして戻ってきたらこの場面に遭遇したのかと正一郎が納得する中、転生者たちは首をかしげる。
「それにしてもぉ、よく私たちも気づかれないように忍び寄れましたねぇ……」
「転生者なんで、近づく人間は敵味方関係なくわかるものなんですけど……」
「それはもっと簡単。私影薄い」
それで片づけるには余りにも不可解な状況に、太陽と桐生院は納得できなかったのであった。




