六十五話 数の暴力は基本的に厳しいし
正一郎たちは基本的に劣勢を強いられていた。いくら転生者が一人増えたところで、相手が面制圧できる飛行持ちと、複数召喚可能な召喚士の二人とあれば厳しいことに変わりないのだ。
「クソッ際限なく敵が湧いてきやがる!」
正一郎が不満を口に出す。正味この中で一番戦闘力が低いのが彼なのでしょうがないと言えばしょうがないのだが、そんな正一郎にノレンが檄を飛ばす。
「泣き言言ってる暇あったら撃ちまくれ!出なけりゃ負けんのはオレたちだ!」
ノレンは天才的な体捌きで敵の攻撃を器用に避けつつ、最小限の攻撃で複数体の敵を屠っていく。一発の銃弾も無駄にしない心持ちのようだ。それだけ今回の戦いが消耗戦になるのが目に見えているのだろう。
「六根清浄!六根清浄!あーん!殺生はしたくないのにぃ!!」
自分のしていることに耐えきれなくなったのか、桐生院もしくしく泣き始めた。手のかかるやつらだと言わんばかりにノレンは桐生院にも声を荒げる。
「こいつらが外に漏れ出てみろ!死ぬのは一般市民だ!どっちが優先順位高ぇか足りない脳みそで考えてみやがれ!」
ノレンの口八丁も、ここに来て出まかせを言う隙は無いようである。コイツにも正義の心とかあったんだなぁと正一郎が感心している折、ノレンがボソッと放った
「……オレの手駒が減るとか冗談じゃねえ」
という言葉は戦いの喧騒の中に消えていったのであった。
やがて正一郎は戦闘スタイルを拳銃による撃破から徒手格闘による制圧へと切り替えた。無論、これは桐生院に感化されて不殺の心情が芽生えたとかそういうことでは毛頭ない。
自らの弾の温存並びに時間稼ぎへと作戦をシフトしたからだ。幾ら倒してもキリのない相手に無駄弾を使うより、残り10分程度を耐えきったほうが生存率が高いだろうと考えての行動である。
「各員生存することを第一に考えろ!間違ってもこいつら倒し切ろうなんて考えるな!あと10分耐えきれば増援が来るはずだからな!」
正一郎が叫ぶが、そうは言っても相手は殺意全開でこちらに襲い掛かってくる。ノレンの体捌きがどれだけ神懸かっていようと、桐生院の体がどんなに丈夫であろうと、この数の攻撃を回避だけでいなすことは不可能であった。
「増援よりオレたちがこいつらに引き潰されるのが先かもしれねぇぞ!」
「生きてりゃなんでもいい!何としてもここを抑えきるんだ!」
難しい注文しやがってとノレンがぼやく中、桐生院が自信ありげに声を上げる。
「生き残るだけなら大得意です!任せてください!」
そうして桐生院はその場に錫杖を突き刺すと、両手を合わせて何やら呟き始めた。
「……急急如律令、四魂救済!」
桐生院がそう唱えるや否や、桐生院の半径2メートルは何らかの結界に包まれる。
「これで防御は万全です!」
確かに、桐生院に襲い掛かったコボルトたちは、結界に阻まれて攻撃をすることが出来ないようであった。しかしノレンも正一郎も、結界の範囲外にいるため全くの無意味どころか、一人戦力を失ったため急激に劣勢に立たされ始める。
「そういうのはちゃんと近寄ってくれとか言ってから使ってくんねぇかな!!!」
「オレたちを殺す気かよ!!さっさとソレ解いて戦線に復帰しろ馬鹿!!!」
非転生者たちの非難轟々に晒され、桐生院は少し悲しそうな顔をして結界を解いた。
残り五分、ギリギリの戦いが続いていく。




