六十二話 決戦前というのにばらばらだし
そうして、遂に決戦の当日となった。
速めに現地入りしていた正一郎は、辺りの静けさに驚きを隠せなかった。ノレンが昨日のうちに何かしたらしい。なんでこういう時に限って俺の言うことをちゃんと聞いたのだろうかと、勘ぐっている中で、いつもの服に着替えてきたノレンが顔を出す。
「よぉ大将。言われたとおりに信者一式は逃がしたぜ」
にこりといつもはしない笑顔を浮かべたノレンを見て、やっぱコイツ何か企んでやがるなと正一郎は確信した。信者の事一式と形容する当たり明らかに手駒くらいにしか考えていないのも透けて見える。しかし今はその策略に思考を割いている暇はない。あと数時間もすれば、戦闘が始まるのだ。
「んで?どう迎え撃つよ。てか他の面々はどこ行った?」
「俺は指揮官だからな。とりあえず誰よりも早く現場に着いて作戦を練り上げる必要がある」
正一郎の答えにそうじゃなくてよぉとノレンは苦言を呈し始めた。
「普通にこの時間帯に全員集められりゃ、もう少しマシな配置とか考えられたんじゃねぇのって話だよ」
それを聞いた正一郎も、そうわあわあいうなとばかりに自分の考えを述べる。
「それに関しては既にこっちでも考えてる。向こうがどの時間帯につくかはこっちでも指示してんだ、宝来さんと太陽は一時間後に到着予定。桐生院さんは、まぁ、もうついているはずなんだが、なんかいない」
「駄目じゃねぇか」
そうなのだ。本来の手はずであれば、正一郎と同時に到着するため車に分乗して建物に来るはずだったのだ。しかし今朝一で桐生院から連絡があり
「戦闘準備にお時間がかかりますので、先に出ていてください」
とのことだったので、そういうのは前日に終わらせてくれよと正一郎は内心思いながらも車で一番乗りを果たしたのであった。
「お前さぁ、そういうの管理するのが管理者だろぉ?ちゃんとそういうとこしっかりしてくれないと困るのはこっちなんだからさぁ」
ノレンからの苦言に、嫌な顔しながらも正一郎が答える。
「仕方ねぇだろ遅れるっつってるやつに急げとか言えねぇし、ましてや命を懸けた戦いに巻き込んでいる側だからな?多少遅れても来てくれるっつってんだから我慢しねぇといけねぇだろって」
「そういう事なかれ主義でオレたちにしわ寄せが来るのが困るって話なんだが?」
二人の話は平行線をたどることになる。数十分の言い合いの後に、互いに不毛なことやっていると気が付いたので、正一郎はいったん会話を切り上げた。
「とにかくだ。奴らとの戦いはこの建物周辺に固定されることになる。俺らがするのは犯人の確保、殺しは無し。最悪相手の切札は死ぬかもしれんが、そこはもうどうしようもないな、俺たちの管轄外だ」
「そういったところはドライなんだなお前、もっとこう、全員生存して捕縛するぞ!とか言うもんだと思ってたわ」
正一郎の答えを聞いて、ノレンが意外そうに答える。
「酒田の攻撃威力見ただろ?あれを手加減するのは無理ってもんだ。だからそこに関しては捨てる」
警察として、正一郎個人としてはもちろんちゃんと逮捕という段取りを取りたいとは思っている。しかし相手が抵抗した場合はそれが難しい可能性が非常に高いうえ、相手の奥の手ともなればこちらに被害が出るのは必至と考えていいだろう。
味方がやられるくらいなら相手に被害が出て欲しいと考えるのは、警察として正しい考えとは言えない。しかし一個人としては、そう考えるのも当然なのかもしれない。




