六十話 得意な奴に任せたらそりゃそうなるし
時は流れて決戦前日。ノレンが麗と共に未だ帰ってこない事に少しの不安を覚えた正一郎は、使節の事情を詳しく知る桐生院と共に聖網教東北支部へと車を走らせた。しばらく車を走らせること一時間。正一郎と桐生院がたどり着いたのは、正門から少し離れた草むらの中である。正一郎が不思議そうに首をかしげる中、桐生院は草むらをかき分けていた。
「ええと、ここに非常用の出入り口が……あ、あった!」
生い茂る枯草をかき分けると、そこには草むらに不釣り合いなマンホールがあった。桐生院は満足げにそれを持ち上げると、率先して中に入っていく。
「さぁ!皆川さんも!」
「お、おう……」
何でこんなことをするんだ?普通に中に入ればいいだろうにと未だ疑念の晴れない正一郎をよそに、何か確信めいた足取りで桐生院は前へと進んでいった。
「さて、この扉の向こうが、聖網教の中枢部です!くれぐれもお静かにお願いしますね!」
元気よく静寂を願う桐生院のちぐはぐさに正一郎の疑念が臨界点に達しそうなその時、扉の奥から声が聞こえた」
「―――――万歳!」
「――――――――は世界に降臨した現人神だ!」
なるほど、確かに宗教臭い言葉だなと正一郎が少し納得の色を見せる傍ら、桐生院は首をかしげている。
「?私の宗教も、聖網教も、現人神を祀ってはいないんですけど……」
じゃあこの熱狂は一体……と二人は疑問を孕みつつ、その扉をゆっくりと開けた。
「ノレン様万歳!!!」
「ノレン様ぁぁあ!!!!!」
「んむ、苦しゅうない」
崇め奉られているノレンが、そこにいた。ご丁寧に神っぽい服を着て、傍らには死んだ目をしている麗の姿もある。あまりの惨状に声を失った正一郎と桐生院であったが、やっとのことで正一郎が感想をひねり出す。
「……おい、誰が教団内の宗教を掌握しろっつったよ」
頭をガシガシ掻きながら目の前の地獄絵図に拒否反応を示す正一郎に対し、桐生院は愕然とした様子で眼前に広がる光景を見ていた。
「こ、これ、あの、わ、私が思い描いていた、宗教の姿で、これを目指して、が、頑張っていたのに……」
何なら今にも泣きそうであった。
「落ち着こう。とりあえず、中に紛れて雲類鷲さんと接触して事のあらましを聞くんだ。ノレンを〆るのはそれからでいい」
「え!?し、〆るんですか???」
桐生院の素っ頓狂な声をバックに、切れたナイフと化した正一郎は留まるところを知らない。絶対〆る。アイツは〆ると意気込んで、正一郎と桐生院は人ごみの中に消えていった。
「……雲類鷲さん、雲類鷲さん。何があったんだ」
ノレンが無防備にも昼寝を始めたそんな折、正一郎は未だ死んだ目の麗と接触することに成功した。桐生院は人ごみのどこかではぐれた。きっと強く生きてくれているだろう。
「あ、ああ。皆川、助けて。ほんと、助けて」
普段の麗からは想像もつかない涙目に少し気圧されながらも、正一郎は話を続けさせる。
「助けるから、何があったかだけ教えてくれ」
「アイツ、ホント非道。リーダーがいないことをいいことに、言葉巧みに信者全員を誑し込んだ。お陰で私はアイツの小間使い役。とても嫌」
つまり、桐生院や極際不在のこの状況を好機とみたノレンが、得意の口八丁で全員を丸め込んだということだ。コイツに同行させるんじゃなかったなと正一郎が眉間を押さえるが、後の祭りとはこのことである。正一郎は頭を振って切り替え、事後処理へと移ることにした。
「わかった。とりあえず、雲類鷲さんはターゲットを見つけることは出来たか?」
「この状況で出来るわけがない」
凄く、もの凄く不服そうに麗が言う。眉間にしわが寄り過ぎて繋がりそうなレベルでキレてる。
「よし、とりあえず雲類鷲さんは依頼人の息子を見つける事だけに注力してくれ。ノレンは俺がボコボコにしとくから」
麗としてもボコボコに加担したい気持ちがあったのかしばらく考え込んだのちに、自分より依頼人を優先することに決めたらしく首を縦に振って信者たちの方向へ走っていった。
後は制裁タイムである。




