五十九話 実際猶予って結構あるものだし
聖網教が本尊と呼ばれるものを携えて支部へ赴くまであと四日間となったこの日、正一郎は転生者対策課の中で今回の作戦に関わる全員へ作戦を伝えることとなった。
「まず怪物を使役する奴については宝来さんに任せる。存分に無双してくれ」
「うん!まかされたよ!」
正一郎の言葉に強く頷く由美。正直この転生者対策課に置いて地上戦最強の由美という手札をここで切るのは痛手でもあるが、それ以上に面制圧されるとノレンはともかくとして正一郎が対応しきれない可能性がある。なので押さえてもらう必要がここで出てくるのだ。
「次に太陽、お前には対空戦を任せる。ルシフェルという輩が空を飛べる以上の話は聞いていないが、どんな能力を持っていたとしてもお前なら十分に押さえることが出来るはずだ。期待してるぞ」
「その期待に応えますとも!」
やる気十分と言わんばかりに太陽が応じる。正一郎としては羽根を飛ばす、魔力を使った大規模遠距離攻撃等様々な可能性を考えていたが、しかしそれも憶測の内を出ない。ここで伝えて変な気を負わせるより、太陽のポテンシャルにかけることにしたのである。
「そして、教祖の極際だ。コイツに対しては俺とノレン、それと桐生院さんの三人がかりで押さえることにする。ここの編成については催眠に対抗できる装置が三つしかないというのもあるが、桐生院さんを配置したのはそれ以外の転生者としての攻撃方法を使われた際の保険だな」
「まぁ、妥当だな」
「ほぁ、が、がんばります……!」
納得付くといった感じで頷くノレンとは対照的に、本当に戦力に数えるんだとびっくりしている桐生院に一抹の不安を覚える正一郎であったが、しかし転生者というのはそれだけでアドバンテージであることには変わりない。
争いを嫌っているとのノレンの報告も入っているが、しかしどうしようもなくなったら戦ってはくれるだろうという楽観的な憶測も正一郎の中では確かにあった。事実、怪物の襲撃時に信徒を守る為立ち上がった実績もある。ならば自分の宗教を奪還するために戦ってくれるであろう。
「最後になるが、相手の奥の手が出てきた時、こっちはあのワードを唱えて酒田を召喚することになる。これは極際の無力化が大前提となるから、他の班はともかくとして俺たちの班は何としても極際を押さえなければならん。そこんとこだけ理解していてくれ」
正一郎の言葉に、桐生院が固まる。まさかそんな重要な所を任されるとは思っていなかったのだろう、今にもここから飛び出しそうな顔をしている。正一郎はこれを和らげるために、少しだけおどけて話を続けた。
「……まぁ、奴らも奥の手を出すのは躊躇うだろうし、そこまで固くなる必要もない。気楽に聖網教を殲滅して、俺らの地位向上並びに屋内に俺らの転生者対策課を移設するぞ!」
「「「おおー!」」」
「おお……?」
転生者対策課の面々の雄々しき雄たけびと、桐生院の困惑に満ちた掛け声が、物置もとい宮城県警転生者対策課本部の中に響いた。
「……それで、私の役目は?」
唯一作戦の中に入っていなかった麗が、至極冷静に自身の役割について聞く。
「ああ、雲類鷲さんは依頼人の息子さんを避難させてくれれば大丈夫。最悪信徒がどれだけ傷ついても自己責任だけど、そっちの依頼が前提にあっての今回の戦いだからな。依頼優先で動いてくれて構わないよ」
正一郎の大分冷酷な答えに、警察がそれでいいの?という顔をした麗であったが、少し考えたのちに
「向こうの主戦力が到着するまで四日ある。それまでノレン借りていい?」
「いいぞ」
と悪びれもなく言った。正一郎は特に考えることもなくこれを承諾。オレの人権は?と困惑するノレンを引きずり、麗は転生者対策課を後にした。
「……あの、皆川くん。簡単にノレンさんを貸し出したけど、何するつもりなんだろう」
「ん?大方相手の本体到着前に息子さん見つけて避難させるんだろ。それなら内部に潜入したことのあるノレンを連れて行くのも納得だ」
由美の心配をどこ吹く風と言わんばかりにいなす正一郎。一連の流れを見て私の方が詳しいんですけどと言いたげな桐生院に正一郎は話しを付け加える。
「別に桐生院さんのことを信頼していない訳じゃないと思うよ。ウチのノレンはほら、異様に口が上手いから、最悪言いくるめて外に出す算段なんだろ」
「私が言うのもなんなんですけど、教祖より口の旨い一般人っていったい何者なんですか……?」
困惑する桐生院に、俺も分からんと言わんばかりに肩を竦めた正一郎。かくして転生者対策課の面々は当日まで(一部例外はあるものの)英気を養い、きたる決戦に備えたのであった。




