五十八話 ヤなことの後はいいことあるし
「さて、転生者対策化並びに雲類鷲探偵事務所の諸君。ご注文の品が完成しましたよ」
Reincarnated Person Companyにて、ダンクの招集を受けた正一郎と麗は朝の八時というのにもかかわらず建物の中にいた。
「性能としては申し分ありませんが、何しろ突貫工事だったので。四つしか量産することはできませんでした」
「ん、問題ない。これだけあれば対応は出来る」
ダンクの仕事ぶりに麗は満足そうに頷いた。続いてダンクが今回の報酬について持ちかける。
「さて、雲類鷲探偵事務所からは協力の両省は貰っているが、宮城県警からの回答がまだだったな。聞こうじゃないか」
やっぱその話になるよなぁ……と正一郎は頭を掻きながら、公式見解を述べる。
「ウチからの公式見解を述べるぞ。最終的にトップまで登った業務提携の話は、協力者は多いほど良いという結果になった。が、アンタらの最終的な要望は一方的な関係だろ?とりあえずそこについてはまず転生者対策課が請け負う。もしかしたら上層部から協力依頼が来るかもしれんが、まぁ俺から言わせてもらえば突っぱねて貰っても構わん。上手い話だけ切り取って協力してやってくれ。そこんとこは俺が話をつけておく」
正一郎からの余りにも旨すぎる話にダンクは眉をひそめた。警察などという巨大な組織が昨日今日のうちに回答を出せるとは思ってもいなかったからだ。その気持ちを汲んだ正一郎は、補足するように話を続けた。
「ああ、うますぎるって話だろ?ウチのノレンに感謝しとけ。アイツの口八丁で丸め込んだんだ。ほんと、アイツどこまで利権が絡んでるんだか俺でも把握しきれんよ」
「これは、変なところに借りを作ってしまいましたね。まあ少しくらいなら我が社も融通を聞かせますよ」
納得がいったが面倒なことになったとばかりに肩を竦めるダンクは、作成した対催眠用の秘密兵器を目の前に出した。それは薄い赤味の掛かったサングラスが四つである。
「これで催眠に耐性ができるの?」
麗の言葉も尤もであると、正一郎は首をかしげる。ダンクはまぁそうですよねと納得しつつも装置についての説明を始めた。
「このサングラスには視覚、聴覚、また脳波由来の催眠を無効にする効果を付けています。サングラス状なのは単純な趣味ですが、これなら相手に悟られず対策することも可能です。性能は折り紙付きなのでご安心を」
「……わかった。少ない時間の中、ありがとう。あとはこっちの仕事だ」
どこで試したかは明かしてくれなかったが、現状これしか頼りがないのもまた事実。正一郎はありがたくこれを自身のカバンに仕舞い、挨拶もそこそこに建物を出る。
「皆川。教祖の到着はいつ?」
「六日後と聞いているが、正直今回の襲撃から時間を置かずに来る可能性もある。協力者を内部に潜伏させているから、来次第連絡が入るはずだ」
麗の質問に端的に答える正一郎。協力者というのは桐生院のことであるが、まぁそこまで深いところを麗に明かさなくてもいいかと正一郎は少し楽観的にこれを捕えていた。しかし正直これからの動きなんて誰にも分からないが、しかし当日は激戦になること必至だろうとも正一郎は考えている。
不意に正一郎の携帯が鳴った。もう動き出したのかと正一郎がいち早く携帯を見ると、連絡してきたのはノレンである。本体が動いた際は桐生院から連絡が来ることになっているので取り越し苦労かとため息を吐きつつ、電話に出た。
「どうした。何かあったか?」
『もしSNS見てねぇなら、今すぐ見ろ。トレンドになってんぞ。これは思った以上にでかいヤマになるぜ?」
何処かワクワクしたノレンの言葉に不信感を覚え、正一郎は言われたとおりにSNSをチェックする。そこに出てきたトレンドは
『聖網教教祖、本尊と共に東北本部へ』
というものであった。ただの一宗教に対してこの扱いは余りにも異例。ネットに精通している正一郎は確信をもってこう考えた。
「……俺たちに対する宣戦布告って訳か」
コチラはラスボス含めた最大戦力で行く。それを言うためだけに、トレンドをジャックしたのだ。SNSでこの情報を発信しているのは殆ど捨て垢のようなユーザー名。裏付けとしては十分であろう。
「皆川、私は依頼達成後速やかに現場を離れようと思うけど、助力は必要?」
少し心配そうに麗が正一郎に声をかける。つまり依頼人の息子を回収次第逃げると言っているのだ。しかし正一郎は微塵も表情を崩さない。
「大丈夫だ麗さん。アンタはまぁ、自分の仕事に集中してくれ。ここからは俺たちの了見だ」
「ん、了解」
それだけ言うと、正一郎のカバンからサングラスを一つだけ拝借して、麗は自身の事務所へと帰っていく。その背中を見送りながら、正一郎は一層気を引き締めたのだった。




