五十六話 敵を知れば怖い物なんてないし
ローブの人物が次に目を覚ました時、目に飛び込んできたのは後部座席からの景色であった。左右にはノレンと太陽が鎮座し、その行動を阻害すべく拳銃が双方から向けられている上に少し浮いた状態でシートベルトを締められている。前の席には正一郎と桐生院が据わり、どちらも毅然とした顔でフードの人物を見ていた。フードは既に剝がされた後で、まだ幼さの残った少年の顔があらわになっている。
「さて、お前らの目的を洗いざらい話してもらおうか」
正一郎がローブの人物にそう切り出すと、たちまちローブの人物は戦闘態勢に入る。浮かされた力をそのまま反射した、が、太陽も流石に対策していたようで、ローブの人物は落下と浮上を秒間十回単位で繰り返し、ものの数秒で目を回して自身の能力を解除した。
「ここから戦って勝てるとは思わないことだ。まずお前の名前から話してもらおう」
絶対的優位になると途端に饒舌になる正一郎の言葉に、遂に観念したのかローブの人物は口を開いた。
「……ボクは第三使徒、反射のサタナエルだ。神に仕える四使徒のうちの一人。これで満足か?」
これほど劣勢に立たされながらも、強気な態度は崩さないサタナエル。咄嗟に正一郎はコイツを追ってもう一人のローブの人物が追ってくる可能性を見出し、車を発進させる。
「ノレン、後はお前の番だ。しっかり情報を縛り取ってやれ」
「あいあい課長。オレは凄いぜ?女子供でも容赦なく銃を使える。逃げようとしたら躊躇なくお前を撃つし、撃った傷は横にいる太陽に回復させる。死ぬこともできないと思えよ」
ノレンの口八丁がここでも炸裂した。いや、今回に限っては本心かもしれないが、しかしそれが分かるのは当の本人だけである。
「それとも、痛いのより気持ちい方がいいか?房中術もお手の物だぜ?男だろうが女だろうが抗えない快楽の渦にお前を閉じ込めることだって簡単なことだ」
ノレンの腕が艶めかしく動く。処女の癖に良く言うよこの女と正一郎は運転しながらミラー越しにノレンへ呆れた死線を送ったが、残念なことに後ろの面々は特に気づいていないようである。
「いずれにせよ、お前は耐えがたい苦痛を味わうわけだが、選ばせてやるよ。どっちでも公開すると思うがな」
「こ、この悪魔の手先め……!」
怪しいノレンの視線に寒気を感じたサタナエルは、少しだが呼吸が荒くなっていた。まぁそれ以上に太陽の呼気が偉い事になっていたのは、彼の名誉から伏せさせていただくが。
「わかった。話す。ボクたちの目的は、教団の維持並びに拡大だ。それに仇成す人物には、僕ら四使徒の中から直々に懲罰を下すことになっている」
「一部本当だが、隠してることもあるな。騙されんぞ?同属の匂いには敏感なんだよオレ」
口角を上げてノレンは右手の銃を肩口に置き、左手で彼の下腹部を優しく触りに行く。これがノレンの言っていた二択の真実であろう。銃を弾こうとすれば房中術が即座に開始され、逆に手を弾けば肩が撃ち抜かれる。転生中は戦いの中に身を置いていたサタナエルとはいえ、反射のお陰で痛みにも快楽にも耐性はない。実質詰みの二択であった。
「わ、分かった!分かったから離してくれ!」
焦りからサタナエルがノレンに懇願するが、しかしノレンは近づける手を止めない。
「離さねぇぜ?お前はどっちかを選ばなければならない。死なない拷問が延々と続くか、死ぬほどキモチイイことされるかのどっちかだ。言っとくが、お前が男だろうが女だろうが関係ないぜ?オレのテクは最強だからな。どっちも味わいたくなかったら、早く本当のこと話せ」
そうしてノレンの引き金を引く指に力が入り、同時に下腹部へ左手が到達した。恐怖の頂点に達したサタナエルは、観念したように語りだす。
「ボクたち四使徒の内、ボクとウリエルは懲罰担当で、今回みたいに嗅ぎまわっている奴に痛い目を見せたり、見せしめをしたりするんだ。キミたちを狙ったのはミカエルからの指示で、別に殺す気はなかったんだよ!」
目をつぶりながらサタナエルは声を上げる。ほうほうなるほどとノレンが頷き、質問を続ける。
「じゃあ次の質問だ。ウリエルってのはさっきの召喚術士だよな。他二人のことも教えろ」
「他、ほか、待ってくれ!そこを触るな!言う!言うから!」
ノレンの指が下腹部から更に下に降りてきたことに危機感を感じたサタナエルは、そういったことをされたことがないようで顔を真っ赤にして懇願する。
「ミカエルは強い催眠術を使える。もう一人、ルシフェルは羽根を使って空を飛べる」
「……うん、嘘じゃねぇな。課長、コイツから抜き出せるのはこれくらいなもんだ。あとどうする?二度とは向かえない体にすることもできるが」
嘘の真偽を見抜くことに長けたノレンの太鼓判に、運転しながら正一郎は返す。
「そうだな、俺らの使える手札も限られてる。コイツは転生者用の拘置所にぶち込むぞ。残りの事についてはぶち込み次第他の面々も併せて作戦会議だ」
そういって正一郎たちを乗せた車は、仙台市警本部へと走っていった。




