五十三話 希望がある限り消耗なんて怖くないし
ノレンと桐生院は、混戦の最中にあった。桐生院が錫杖の一振るいで数匹のコボルトを屠ると同時にノレンの一発が二匹まとめてコボルトを葬る。しかしそれ以上の勢いで増え続けるコボルト。はっきり言って劣勢と言っても過言ではないだろう。
「こうも撃ち放題だと、顔がにやけちまうなぁ!」
しかしノレンは、この状況を楽しんでいた。今まで手加減をするかのように手足や急所にならないところを続けていたノレンにとって、どこを撃っても許されるこの状況がとても嬉しかったのである。
「殺生に!貴賤はないと!いうのにぃ!」
「馬鹿が!オレたちがここで食い止めなけりゃ次の犠牲は中にいる奴らなんだぞ!」
錫杖を器用に使いながら凄い勢いでコボルトを屠っていく桐生院。しかしその顔は悲しみに暮れていた。もしかしたら桐生院は、あんまりこういうことが好きではないのかもしれないとノレンが顔をしかめつつも、叱咤激励を飛ばす。
「しかし、こうも敵の数が減らないとジリ貧だぜ!なら狙うはひとつしかねぇよなぁ!」
ノレンは銃口を、ローブを着た人物に定める。こちらはまだまだ吐いてもらうことがあるので死なない程度に足を狙った。そうして放たれた銃弾は、見事ローブの人物へと到達するかに思われたが
「肉盾入れてくるとか聞いてないぞオイ!」
しかしコボルトがこれを自らの体で受け止める。貫通した弾は急速にその速度を落とし、ローブの人間には打撲程度のダメージしか入っていないようである。
「ケッ、面倒なことしやがって。オイ桐生院!お前アレだよな?一対一の状況下を作ったらアイツ倒せるよな?」
叫ぶノレンに桐生院は答える余裕すらないのか、首を縦に振るだけにとどまった。しかしノレンにとってはそれだけで十分であった。
「活路は開いてやる!この建物からそいつを追い出せ!」
ノレンは肉盾、あるいは桐生院の邪魔になりそうなコボルトたちを一瞬のうちに拳銃で撃ち倒すと、桐生院の背中を押した。
「はぁぁぁあ!!!!」
切り開かれた活路を、桐生院は瞬時に詰める。そうしてコボルトへの命令すらままならないまま、ローブの人物へ錫杖が激突した。もんどりうって倒れるローブの人物と共に、コボルトたちは一斉に消え失せた。こうなってしまえば、後はノレンのターンである。
「よぉし、これで交渉する気になったよなお前。ガードにあのバケモン使ったってことは、つまりこれがお前の喉元に届く性能をしているってことだぜ。さぁ選べよ、ここでこのまま死んでいくか、オレたちに黒幕の情報を与えるか」
拳銃のマガジンを変え、セーフティロックを外しながらノレンがローブの人物に問いかける。実際の所問いかけるというよりは強制的にイエスを引き出そうとしているのだが、この場でそれを突っ込む人間はいなかった。
「だんまりか。まぁいいさ、お前が話したくなるまで手足に鉛玉をぶち込むだけだしな」
凡そ警官とは思えない発言を口にしながらノレンはローブの男へ近づいていく。やがてノレンとローブの人物の距離はゼロに近くなり、ノレンは40口径マグナムをローブの人物の額へと当てた。
ノレンが近くに来ても、その正体までは分からなかった。なんなら男か女かもわからなかったのである。どういうことだ?と首をかしげるノレンの行動を隙と見たか、ローブの人物は素早く右手をノレンに振るう。
「この程度でオレを殺せるとでも思ったかマヌケ」
しかしこれを薄皮1枚で避けるノレン。少し頬に傷がついたが、依然ノレン達の優勢は変わらない。
「さぁ、早く吐いちまえよ。悪いようにはしねぇし、お前が何かに脅されてんなら、それをオレたちは保護する責務がある」
ノレンの口八丁がまたもやさく裂した。しかしローブの人物は首を盾にも横にも振らない。これはちょっと時間がかかりそうだぞ?とノレンが心の中でぼやく中、桐生院はなにかを唱え始めた。
こうなったら多少荒っぽい方法をとるしかないかとノレンはローブの人物の右腕を貫いた。
「お前ら転生者って、致命傷を負ってもすぐ治せるんだってな。じゃあ、その限界ってどこにあるんだろうなぁ……?」
正義の味方には似つかわしくない異様な笑顔を浮かべながら、ノレンの質問は拷問へと変わる。次は左足、その次は右足、そして最後に左足と、どんどん打ち抜く箇所を増やしていく。
「さぁ、ここからは耐久戦だ。お前が吐くのが先か、オレの救援が来るのが先かのな!」
ノレンに打ち抜かれるたびに回復魔法を行使している所から、どうやらよっぽど話したくないか、あるいは話すと危険な目に合うんだろうなぁと一人納得するノレン。
「……ははっ、この程度で脅しをかけているとすれば、それは心外だなぁ」
四肢を撃ち抜かれたにもかかわらず、ローブの人物は不敵に笑う。やはり声を聴いても男なのか女なのかはわからない。どうやらそういった認識阻害の何かを見に纏っているらしい。
いったい何だってんだとノレンが問うよりも先に、彼女の危険センサーが一気にレッドゾーンへ入る。間一髪その場から離れたノレンの、今までたっていた場所にもう一人ローブの人物が姿を現した。これで形成は2体2のイーブンになったと言えるだろう。
しかしノレンは一般人である。今までは攻勢に出ていたが、ここからどうしようかと桐生院がしばし考えているうちに、ノレンは更に畳みかける。
「同僚が危ない目に合って初めて顔を出したなお前。じゃあ特に気を付ける必要もないな。なんせ味方が死にかけて初めて出てくるような奴だもんなぁ」
ノレンの口八丁手八丁が、ここでも発揮された。2体目のローブの人物の攻撃目標がノレンに移ったことが手に取るようにわかる。なら、ここから先は簡単かつ単純なことである。
「もしかして図星か?嫌だなぁ、オレはただ、お前らの不出来さに笑っちまっただけだぜ?」
口車に乗ったもう一人のローブの人物は、握りこぶしを手の前で固める。どうやらインファイトをお望みのようだ。
「ボクはそんな人間じゃない……!やってやろうじゃないか人間!僕たちと君のような凡人との差を教えてあげるよ!」
急激に機嫌が悪くなったもう一人のローブの人物は、両手に鉈をもってノレンへと襲い掛かる。
正一郎は、まだ来ない。




