五十一話 ありえない事なんてありえないし
「魔物って……」
正一郎が声をかけるよりも早く、雲類鷲探偵事務所の扉が弾け飛んだ。続いて飛び込んできたのは小型の人狼と形容すべき存在。それが次々と入り込んでくる。
「なるほどコボルト。あんまり警戒しなくてもよさそうですね」
「これくらいならウチ一人で良かったな」
由美は手に持ったバットを器用に振るい、性格にコボルトたちの頭を打ち据えていく。一撃一撃が必殺の威力となったそれは、容赦なくコボルトの命を絶った。
「この程度で御しきれると思ってたんなら心外だね。ウチらを倒すんなら、この万倍用意しないと無理だよ」
死んだコボルトが紫色の粒子となって崩れていく。死体が残らなかったことを安堵すればよいのか、貴重な手掛かりが死んでしまったことを嘆けばいいのかと正一郎が苦悩していると、麗が至極冷静にこの場を分析し始める。
「私の事務所、どこで知ったんだろう。そもそも目的は襲撃?Reincarnated Person Companyとは契約を結んでいる上に依頼中だから関係ない。とすれば、聖網教関係?」
ブツブツと言葉を紡ぐ麗に、よく襲撃された直後でそんなに頭が働くなと畏敬の念を込めて麗を見つめていると、ふと麗と目が合った。
「……もしかして、またハッキングされた?」
前科があるからか、ほぼ決めうちで疑念をぶつけられてしまった正一郎。
「いや、流石にハッキングされるようなことしてないし、アラートも作動してない。俺とは別口だな」
そう、とだけ麗は返して再び思考の海へ潜っていった。正一郎はため息を吐いたのち、その他何か手がかりがないかと転生者組に話を聞いてみることにした。
「なあ、魔物って言ってたよな。何でこんなファンタジー世界の生き物が攻め込んできてんだ?」
「うーん、どこから説明したものか……さっき倒したのはコボルトって言って、私たちが転生した世界では割とポピュラーな魔物で、魔王の魔力で生み出されるものなんだけど、それが出てきたってことは……」
ここでも魔王の復活が議題に上がるのか、と正一郎は天を仰いだ。復活するにしても転生先で復活してくれよとも思った。しかしこれに待ったをかけたのが太陽である。
「もしかしたら、召喚系の転生者が差し向けたものかもしれませんよ?だとすれば術者はまだ遠くへ行っていないはずです。僕、探しに行ってきます!」
全てを自己完結した太陽は、そのまま空を飛んで部屋から出て行った。正一郎は止めるの間に合わなかったけど、まぁ自主的にやってくれるならそれに越したことはないかと思いなおし、改めて麗と話し合うことにした。
「なぁ、教団の中に転生者って何人交じっていると思う?」
「不明、だけど何人か交じっている可能性は否定できない」
ほぼ麗と同じ考えに至っていた正一郎は、そうだよなぁと頭をガシガシ掻いた。
「こりゃ、事を構える前に本当にしっかり準備しないといけなくなったな」
正一郎はスマホの画面を開き、ノレンへ今しがた起こったことを簡潔に説明したのち、十分に注意するよう連絡を入れた。どうせあっちは暇しているだろうと思った正一郎だったが、返ってきたのは意外な答えであった。
『いうのが10分遅い。退避の為に逃走手段が欲しい。逃げる人数は二人』
緊急事態なのか、簡潔かつ少し急いで書いたような文面が届いたので、この場に再度襲撃があった際の事を考え由美と麗を残し、探索する太陽には帰って来次第聖網教へ飛ぶよう由美へ言伝を残して軽自動車に飛び乗った。




