四十九話 結局信じるモノの話しか共通の話なんてないし
図書館にいる一通りの信者の話を聞いてみた、ノレンの感想はこうだ。
「この陰キャ共め……少しは話しろよ……!」
そう、図書館にいた人間たちは、一様に人と話をすることを避けていた。それもそうだ。働きたくない、人生に絶望したような人間は、そもそも人に話しかけられたときに会話できるだけの力はあれど、自分から率先して人と会話するだけの元気なんてない。
鬱になった経験のないノレンは心の中の侮蔑を思わず口から零し、すぐにまた切り替える。まだ現教祖がこの建物に来るまで一週間はある。その間に確認できれば麗に恩を売れるし、建物の大きさにも限りがある。一人ずつ洗っていけば、そのうち見つかるだろう。その後は一般人男性の心など如何様にでもできる。
「あのぉ、私はお役に立てたでしょうかぁ……?」
「ん?ああ、まぁ、そうだな。役に、たった、かなぁ」
おずおずとノレンに感想を求める桐生院に、なんとも言えない顔をして答えるノレン。今後の扱いに困っていたのだ。敵対するにしても味方にするにしても不確定要素が多すぎる。よしんば今の教祖を倒したとして、この教団は再び桐生院のものとなるだけだ。
ここの人間はあんまり役に立ちそうもないし、かといってぞんざいに扱って味方にならなかった時、ちょっと面倒な人数はいる。宗教というのは時に損得の感情以外で動いてくる、こちらの動きを阻害するような動きを見せるようなら少しは教祖に恩を売っておくのも悪くない。
どうするかなぁとノレンが考えあぐねていた時に、桐生院は自信なさげに微笑む。
「気を遣わせてしまいましたねぇ……こういうのもあれなんですけど、極際さんが教祖になるまで結構小さな教団だったんですぅ。建物こそは立派だったんですけど、それだけのお飾りと言いますかぁ、私が頑張って一括ローンで買ったものなので、まだ借金とかいろいろあったんですよねぇ。それをいきなり制圧されて、最初の内こそ憤っていましたけど、今は借金の不安から解放されてちょっと肩の荷が下りた気さえあるんですぅ。ダメダメな教祖様ですよねぇ」
正直、ノレンとしてはどうでもいい話だった。なんなら極際みんとを捕まえた後のこの教団の価値は今よりも下がる上、仲良くしていたせいで自分の経歴に傷がつく可能性も高いので、ぞんざいに扱うリストに名を連ねる方へ天秤は傾いていた。しかし
「実は私、他の世界に行ったことがあるんです。その時に神の救いを見た気がして、この世界にも同じ救いがあれば平和になるんじゃないかなとこの宗教を立ち上げたんですけど、うまくいかないものですねぇ……えへへ」
続くこの言葉で、ノレンのこの教団、引いては桐生院に対する価値は飛躍的に上昇した。自分しか知らない転生者の情報、しかもこんなに簡単に恩を売れる立場にある。どんなに落ちぶれても転生者の力は侮れないし、何より他の転生者対策課が寒い思いをしている中自分はこんなに立派な拠点を用意できる。これを利用せずして何になるであろうか。
「安心しろよ、この教団は取り返してやる。オレが……いや、オレたちがな」
今後正一郎たちが秘策をもって突入してくることを鑑み、自分以外の存在も匂わせたノレン。呆気にとられる桐生院に、ノレンは改めて自己紹介をした。
「オレは宮城県警直属部隊、転生者対策課の押野ノレンだ。気軽にノレン様と呼んでくれてもいいんだぜ?」




