第93話 王女と王子の関心
ドワーフ王国では国を挙げて、レギの歓迎会が催されていた。
地下宮殿は魔晶灯よって夜が昼だと錯覚するほど明るい、それだけでこの地が潤沢な魔石の産出量を物語っている。
大きな会場では、立ち食い形式でパーティーも催されていた。
主賓であるレギは、ひっきりなしにドワーフの有力者や、モリブデンのニンゲンに挨拶されていた。
内心、こういう硬い場はレギは好きではなく、早くも辟易しているようだ。
こういう時は、オーク族のお祭りが気安くていい。
フレイアがイマイチ乗り気じゃないのがネックだけど、と。
一方白蛇は会場の隅でとぐろを巻き、周囲を眺めた。
そんな白蛇に声を掛けたのは、すっかりお馴染みイーリスのユズだ。
「白蛇様、こんな端の方で縮こまらなくてもいいのでは?」
「苦手なんだよ、こういうの」
リュウイチは気の許せる仲間と居酒屋で大騒ぎするようなパーティーなら大歓迎だ。
でもここは言ってみればビジネスマンの社交場だ。
今でもレギに顔を覚えて欲しいって欲望が渦巻いている。
「レギはどうなるのかなー」
「順当に考えれば、再び王宮暮らしでしょうね」
王女なのだから、当然……なんだろう。
でもそれがなんとなくリュウイチは寂しいと思えた。
「フレイヤとかテティスとか、友達いっぱい出来たのにな」
「クスクス、まるでレギ様のもうひとりのお父様みたいですね」
ユズは顎に手を当てると、優しく微笑む。
もうひとりのお父様なんて言われると、ちょっと照れくさいな。
「あんまり笑うな、親心なんだよ、心配するのは」
そこへ背の高いドワーフの男女が二人に寄ってきた。
白蛇は面識ない、しかしユズは速やかに頭を下げた。
「これはこれは、ニール王子に、ファ王女、ご機嫌麗しゅう」
王子に王女? 確かに記憶では年の離れた兄弟がいるってレギは言っていたっけ。
「ふーん、本当に蛇だ、けど見たことない翼、それにこの鱗は一体……?」
王子は父親には似合わず人懐っこい顔をしたドワーフで、どうやらレギを保護した白蛇に興味があるらしい。
彼の視線は早速光の翼や竜鱗に釘付けだ。
一方、レギを七等身にしたような女性は。
「アンタが可愛いレギを保護してくれたんだって? 長女として感謝するよ」
こっちはこっちで、恰幅の良い王女様だ。
「ふむふむ、蛇というより竜だな、蛇竜なんて初めて見た、素材にしたらきっと最高級の鎧を作れるぞ」
さらっと背筋が凍りそうな事を言う王子に命の危険を感じると、王女はポカンと王子の頭を叩いた。
「こらニール、恩人の前で失礼だよ!」
「痛いっ! うぅ……でも蛇竜だよ? やっぱりモーアの大森林は独自の生態系しているよ、きっと触れたこともない素材が山程あるし!」
「……なんだぁ? 素材キチなのか?」
蛇竜はよっぽど珍しいらしく、王子はそれはもう興奮している。
ドワーフからすると、調べたくても調べられない大森林に興味があるようだが。
「自己紹介が先だね! アタシは第一王女のファさ、これでももう結婚済みでね!」
「デカルタ様はご一緒では?」
また知らない名前、ユズはデカルタなる人物を探すも、ファ王女は溜息吐いて。
「興味無いってさ、典型的な頑固職人だからねー、ウチの旦那は」
ドワーフ王国ではその多くが職人である。
なにせあの厳ついレギン王からして、二つ名が鍛冶王なくらいだ。
「ほら、ニールも自己紹介しなさい!」
「う、うん! ボクはニール、鍛冶は得意じゃないけど、設計なら任せて!」
ニール王子は鍛冶の腕は王族では一番下だが、目利きと設計が得意という。
事実ニールが設計した物は数多く、彼も一廉の天才であった。
「魔物街の白蛇リュウイチです」
リュウイチはなるべく人懐っこく返事をした。
するとファ王女は目をキラキラさせて、白蛇に抱きついた。
「あーん! 愛らしいじゃないか! ペットにしたいくらい!」
「ぺ、ペットじゃないし! なんて破廉恥な!」
「ね、姉ちゃんズルい! せめて一枚! 脱皮の皮でも良いから欲しい!」
なんて個性の強い兄弟なのか、白蛇を勝手にペットにしたがる王女にも、素材キチの王子にも辟易しながら、シュルリと王女から抜けだす。
そのまま手の届かない高さに浮遊すると、二人は残念そうに手を伸ばした。
「こんな個性的過ぎる兄弟じゃ、常識人のレギが苦労する訳だぜ」
「フフッ、お二人とも落ち着きになって、それでは白蛇様が怯えてしまいますわ」
状況を楽しんでそうなユズだが、優しく諭すと、二人はしょんぼりした。
白蛇はどこか腫れ物に触る感覚で、少し質問する。
「えと、ニール王子は大森林に興味があるの?」
「うんっ! 大森林ってさ、暗黒竜が封印され、独自の生態系があるでしょ、そこには魔物も土そのものも違う筈なんだよねっ!」
「ニールの目利きは確かだからね、良質な素材の目利きは助かるよ」
ファ王女は正統派な鍛冶職人って感じか。
年季からいってもレギの上位互換ってところだろう。
案外レギのコンプレックスの一人かもな。
「あの、お二人から見てレギはどうなの? 鍛冶の腕とか」
それを聞くと、特に姉の方が真剣な顔をした。
けれどその顔はどこか楽しそうで。
「まだ未熟……だけどあの子は才能あるよ」
「う、うん! レギはまだ修練が足りないだけ、ボクの用意した素材を一番活かしてくれたのはレギだから!」
未熟、けれどそれは単純な修練不足。
すでに応用や発想は天才的であり、場数を踏めばファ王女さえも越える、か。
それを聞ければ、白蛇はニンマリ笑う。
やっぱりレギのコンプレックスなんて錯覚だ。
レギにはただ、時間が足りないだけなんだ。
「……ねぇ王子、雷龍の鱗は見たことあるかい?」
「雷龍!? 幻のドラゴン種!」
予想以上に食いついた。
正直あの雷龍、肉は超巨大冷蔵庫である程度保存が聞くが、鱗に骨など持て余す部分が多い。
ユズ曰く、一国の国家予算に匹敵する価値があるとの事だが。
「良かったらさ、雷龍の鱗、プレゼントしようか?」
「ほ、本当っ!? 欲しいっ!」
「駄目っ! アンタ商才無さすぎ! 白蛇、いくらで売る?」
物欲しそうな顔で姉を見つめるが、姉はがめつく白蛇をギラギラした瞳で見定めた。
「えと、別に売ろうって訳じゃ……」
「アンタドワーフを舐めんじゃないよ、素材をぼったくるなんて、ドワーフが一番しちゃいけない行為だ!」
「ドワーフ族はお金にがめついと言われますが、同時にぼったくりを嫌うのです」
ユズの言うとおり、ファ王女はこれを商談と捉えている。
いや商談でなければならない、それは王族の矜持なのだ。
「ねぇ白蛇様、第二都市の件ですけれど」
「え? 今更なによユズ?」
「雷龍を競売に賭けませんか?」
競売、その言葉にファとニールは顔色を変える。
ユズは悪どく笑う、白蛇はなんだかなーと苦い顔だが。
「許可いただければ、私が全て手配致します……ただし」
「あーいいよ、そのお金で第二都市建設するから」
白蛇直々に許可が得られた、あのユズがガッツポーズする。
そんなに嬉しいのか、ユズの構想する魔物街第二都市構想。
けど、疑問もやっぱりある。
「どうしてそんなに第二都市を希望するんだ?」
「……信じて貰えるか分かりませんが、副首都の存在こそ、イーリスの、引いては魔物の国を存続させうるのです」
ユズの全てを知っている訳ではない。
けどユズが白蛇に不利益を与えたことは無かった。
ユズの真の目的はいったい……彼女の優しき瞳の奥で、一体なにを考えているのだろう……?




