第88話 冒険者ギルド
「着いたーっ、冒険者ギルド!」
リテリルは久し振りの我が家でも見るかのように、感動を表した。
ラインが到着すると、冒険者ギルドから唐突に一人の女性が駆け寄ってくる。
「ラインさんっ! 本当によく生きて帰ってきてくれましたね!」
そう言って涙ぐむのは、冒険者ギルドで内勤に務める受付嬢であった。
宿場町に着いた時点でラインは早馬で任務達成の知らせを伝えていたが、冒険者ギルドでは、生還に疑問の声もあったらしい。
なにせ誰も生きて帰らないという魔の森への強行捜索、しかも本当の任務は殆どの人に知らされなかったのだから。
この受付嬢も、真相までは知らされていない一人だ。
「と、ともかくギルドマスターがお呼びです、奥へとどうぞ!」
どうやら受付嬢は、ラインの歓迎も担当していたらしい。
ラインは慣れたように建物の門を潜った。
その後ろをドワーフの少女とイーリスの女性が通ると、受付嬢は首を傾げた。
「あら? どうしてドワーフとイーリスが?」
「フフッ、訳ありですわ」
ユズは人差し指を口元に当てると、受付嬢にウインクする。
それだけで受付嬢はドキリとし、頬を高潮させた。
魔性の美貌、白蛇にはピンと来なかったが、何気に恐ろしい才能だと思えた。
こうやって平然とハニートラップを仕掛けてくるんだから、油断は出来ない。
なにせ【嘘の才】なんて持っているくらいだ、息を吸うように人を懐柔してみせる。
もしかしたら知らずに白蛇でさえ、籠絡されているのやも。
「ラインです、任務達成しました」
とある扉の前、ラインは軽く扉を叩く。
すると、直ぐに内側から扉は開き、中から壮年の男性が出てきた。
「成功したか! よくやった! お前って奴は!」
大喜び、ラインの倍は生きたであろう男は、涙目で、ラインの肩を叩く。
加減を知らないのかラインは痛みに堪え、ともかくレギを通した。
「ギルドマスター、この方がドワーフ王国の第三王女レギ様です」
「う、うむ……レギ王女、どうか中へ」
レギは無言で部屋へと入る。
部屋の中は貴賓室らしく、無骨な冒険者ギルドには似合わない調度品が並んでいた。
中央には上等な黒壇のテーブルに、ソファーがある。
テーブルの奥、そこにはギルドマスターよりも年季の入った髭面の男性が座っていた。
レギはその老人に気付くと、目を丸くした。
「公王様?」
「レギ王女、本当に、本当に申し訳ない! 我が領内で貴方を危険に晒すなど、本来ならば腹を切るべきであろうが!」
レギは直ぐに公王へと駆け寄る、その大きな手を掴み、必死に首を横に振った。
「私こそごめんなさい、大事な商品、全部失っちゃった」
「なにを言う! 商品など貴方の命に比べたら、なんの屁でもない! 直ぐにドワーフ王国に使者を出そう!」
正直実際にその目で見るまで、レギ王女の生還を公王は信じ切れなかった。
良く似た偽物を連れて来るんじゃないだろうか等と、本当に死にそうな思いで待ち、そして本物であると知った時、公王は自分も人の子であったと痛感する。
「それにしてもレギ王女よ、よくあの魔の森で生き延びられたな」
「ん、信じて貰えるか分からないけど、私は魔物に助けられたの」
「魔物にだと? そんな馬鹿な……」
信じられない、公王でさえ魔物とはそんな致命的な生き物という認識であった。
「横から失礼します、お久し振りですわ公王モリス様」
「む? 貴女はまさかユズか? どうしてここに?」
ユズは何度か仕事でモリブデンにも来た事がある。
実際にレギ王女がマフィアに誘拐されたと公王に知らせたのもユズであった。
イーリスの情報網は侮れない、公王でさえイーリスの情報を購入しているのだ。
「無論レギ様のお世話も兼ねて、けれど今は紹介したい方がいますの」
「紹介だと? 我にか?」
ユズは満面の笑みで頷く。
「レギ王女が生還出来た理由、それはモーアの大森林に突如成立した都市、魔物街の王です」
「魔物街だと? どういう意味だ?」
ユズは部屋に背嚢を背負ったまま入ったラインに目配せした。
公王とギルドマスターは、ラインに不自然な視線を送る。
「えー信じて欲しいんですが、マジです。俺もめっちゃ便宜を図ってもらい頭が上がらないんですわ、出てきてください白蛇様」
背嚢を床に下ろすと、背嚢から一匹の白蛇が飛び上がった。
事情を知らない公王とギルドマスターはギョッとする。
白蛇は光の翼を広げると、その赤い瞳で二人を見下ろした。
「な、なんでウイングスネークが!?」
「いやウイングスネークじゃない! 見たこともない種だ!」
一見すると、ウイングスネークに似ているが、実際はまるで異なる。
竜の鱗を持つ白蛇、魔物街の実質の王にして、守り神リュウイチはテーブルの上に降り立つと、丁寧に頭を下げた。
「どうも公王様、魔物街を治めるリュウイチってもんです」
「しゃ、喋ったぞ! この魔物喋った!」
公王は大慌て、やっぱりなぁとラインは頭を抱える。
ギルドマスターは慌ててラインの首を掴んだ。
「おい説明しろ、一から全部だ!」
「そりゃ構いませんが、信じられるかね?」
ラインは本当に嘘なく全て真実を二人に話す。
森で窮地に陥った時、オークのバルボや、ゴブリン兵たちに命を救われたこと。
祭りを開くほど豊かな魔物街、そこに住まうオーク、ゴブリン、コボルト、ハイエルフにハイドワーフ、そしてネレイドとイーリス。
その一見すれば混沌とした街を纏める神のこと。
極めつけは雷龍を狩ったベヒーモスさえ舎弟とすること、そして世界を終末に迎えられるんじゃないかってやばさのリッチクイーンのことも。
「……マジか、魔物街……マジなのか?」
「だから言ったじゃないですか、信じられるかって」
「あのねギルドマスター、魔物街の魔物って皆親切だし、ハーフエルフを差別しないんだよ!」
リテリルも魔物街で過ごした思い出を嬉しそうに語った。
獣人にハーフエルフ、ニンゲンの国では差別が当たり前の異種族でも、魔物の国では違って当たり前。
ややもやモリブデン公国よりも住みやすいとは、獣人グリードも頷くほどだ。
「レギね、この白蛇様に忠誠を誓っている、白蛇様は神様だから」
「神……とな? この白蛇が?」
「魔物街では白き翼の守り神……なんて言われているけど、レギは本当に神様なんじゃないかって思ってる」
公王は懐疑的だが、レギの態度から真剣に白蛇を見つめた。
白蛇は「フフン」と鼻鳴らすと、レギに絡みつく。
「レギは立派な魔物街の住民でもあるんだぜ」
「なんとレギ王女、そなたが?」
「ん、事実、レギは魔物街に亡命した身」
もし正確な身分を知られなかったら、魔物街に骨を埋めるつもりでさえあった。
しかし知られた以上もう魔物街にはいられない。
「この白蛇様は命の恩人でもある」
「むぅ……魔物がニンゲンを救うなど」
「まだ信用出来ない? 俺は悪い魔物じゃないよー」
とりあえず戯けてみせる。
敵意はない、それは白蛇、そしてレギ王女やユズ、そして冒険者も証明している。
公王は白蛇に向き直ると、姿勢を正し頭を下げた。
「レギ王女保護、そしてマフィアの壊滅、感謝しようリュウイチ殿」




