第83話 理想をこの手に
仕留められた雷龍には、誰もがその真偽を知りたく確認に来ていた。
コボルト族のオストは「これがドラゴンですか」と、間近で鑑定し、品定めする。
ゴブリンの聖女アイは、同じ雷属性の最上位存在に畏敬を感じてか、両手を合わせて拝んだ。
フレイアは初めて見るドラゴンになんとも言えない顔で呆気に取られ、テティスも只管困惑して苦笑いだった。
冒険者の戦士ラインは、マジモンのドラゴンに「マジか」と現実を直視出来ない始末。
ハーフエルフの魔法使いリテリルは「美味しいのかな?」とすっかり魔物街の価値観に慣れて来ている始末だ。
なんにせよ、誰もが驚愕せざるを得ない大物に、白蛇は皆の前でパンと光の翼を叩いた。
「えぇ皆さん、ベヒーモスが仕留めた雷龍ですが、これの扱いはこの俺が致します!」
ドラゴンの処理、記念として街に剥製を飾るなども考慮されたが、なんにせよドラゴンの資源価値は計り知れない。
ユズいわく、ドラゴンの鱗一枚でも金貨一枚に相当し、一匹全てを換金すれば、一国が傾くほどの価値だという。
ドラゴンとはそれ程危険な魔物であり、ましてこの雷龍、体長は優に二〇メートル超え、実寸で測った全長は実際のところニ三メートル。
これほど巨大なドラゴンは極めて珍しい。
未開拓のモーア大森林だからこそ、生息していた巨大個体とのことだ。
これらの価値を含め、雷龍の資源価値は現代日本でいえば、国家予算クラスとのこと。
あまりに膨大な価値の棚ぼたに正直リュウイチも怖くなった程だ。
とはいえ、食うにしろ飾るにしろ、放置して置く訳にもいかない。
「一先ず解体して、工場街へと運びます」
「リュウ様、食品加工場ではなくてですか?」
通常の食用魔物なら、先程のオーク職員の言うとおり、食品加工場へと運ばれる。
だがレギの見立てによると、この雷龍、鋼鉄では歯が立たないとのこと。
つまり鱗を剥ぐことさえ容易ではないのだ。
「雷龍はかなり専門的な解体道具が必要になりますので、レギ工場長に一任します」
「ん、やってみる」
リュウイチはレギにウインクして微笑む。
レギは勿論満面の笑みで返した。
「ニャーの爪でも切り裂けないのに、どうするニャー」
事実ベヒーモスは爪を鱗に引っ掛けるのが限界で、最も強力な牙を持って、雷龍を窒息死させた。
これの解体の難しさは誰もが理解出来よう。
「とりあえずベヒーモス、工場街まで運んでくれるか?」
「任せてニャー」
進化したベヒーモスは白い翼を広げ、雷龍の首を咥えて飛び上がった。
その光景に、観衆は「おおっ」「すげぇ」「ベヒーモスも大概だよな」等と声を上げていた。
リュウイチはベヒーモスと一緒に工場街へと飛ぶと、雷龍は野晒しで置かれた。
と言っても、雷龍を入れられる工場が無いので仕方ないが。
この世界に造船所レベルの工場など必要ないのだから。
「んで、どうやって解体するのレギさんや」
「この厚さの皮だと、鋼鉄では無理、多分ミスリルでも怪しい」
「ミスリルでもってマジかー、本当にドラゴンって怪獣そのものだなー」
ミスリルはこの大森林でも貴重ながら採取出来る鉱物資源であった。
現状ではあまり採掘量がないため、製品というか、レギがたまにミスリルの包丁なんかを製作している程度であった。
しかしミスリルナイフでも刃が通らないとなると、どうするつもりか?
「ん、だから秘蔵の一品でいく」
レギが言う秘蔵の一品とは。
それはレギが知る限り、ドワーフ王朝にのみ伝わる伝説の物であった。
「このアダマンタイト鋼鉄製ナイフでやってみる」
伝説の金属アダマンタイト。
モーアの大森林では採掘されず、ドワーフ王国でのみ採掘されるという金属である。
なんでそんな素材が魔物街にあるんですかと言うと、コボルト商会がしれっと輸入してました。
ドワーフ王国もまさか、アダマンタイトの精錬が出来る国なんてないと思っており、単なる美術品として取引されたそうで、それが巡り巡って精錬法を熟知していたレギの手に渡ったんだとか。
レギはそんなアダマンタイトを、王家秘伝の配合レシピで鋼鉄化。
レギの手には黒い刃紋のナイフが握りしめられていた。
(世の中って見えないところで繋がっているよなー、ドワーフ王国でしか産出しない貴重金属に、なんでかそれの精錬加工が出来る王女様がいるとか、世にも奇妙な物語だ)
レギは慎重な面持ちで、鱗に刃を突き立てると、ゆっくりと引く。
すると、ナイフは肉まで貫通し、鱗を切り裂いた。
レギはその手応えにガッツポーズ。
それを見た白蛇は直ぐに解体のプロを呼んだ。
普段魔物の解体に慣れた食品加工場に勤務するオークたちも、この大物の解体は目を丸くした。
レギは鱗を綺麗の剥ぎ取ると、後は加工のプロに任せた。
「ん、肉はそんなに硬くない、骨はちょっと厳しいかもだけど」
レギの言うとおり、雷龍といえど、鱗の下は柔らかいものだった。
工場の中まで運べるサイズに雷龍は解体されると、食肉として加工されることに。
内蔵や骨は保存し、今後検討する必要があるだろう。
なにせ肝一つでも、魔物街の実質資産価値と同等だとか。
ニンゲンの国に売れば、文字通り天文学的価値が付くとかいう。
なんでも肝は幻の回復薬【エリクサー】の素材になるとかなんとか、ともかく凄いのだ。
骨や牙なんて言わずもがな、冒険者にとっては超高級な剣や鎧になるらしい。
まさに垂涎の品、とはいえ誰が加工出来んだと白蛇は疑問に思ったが。
ともあれレギは必要な量の鱗を工房へ持ち帰ると、いよいよ理想の鋏の制作は最終段階へ至る。
リュウイチはレギの後ろでその作業を見守った。
(神様どうか、レギにお恵みを)
そう真剣に。
蛇神や猫神は、やや呆れていたが、鍛治神はきっと応えてくれる筈。
白蛇の首に下げられた蒼い三日月の振り子も、ひっそり揺れて、成否を占う。
果たしてレギは。
「ドラゴンの鱗は粉末にして溶かす」
「鉄に混ぜるのか」
「ん、レギの読みが正しければ、理想の完成になるはず」
そう今は信じて。




