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第82話 一匹と一柱の進化

 最高の園芸用鉄鋏を製作する。

 そしてそれをレギン王に見せて、レギを認めさせる。

 それがレギの帰国する条件であった。

 工房へと帰ったレギと同行する白蛇、フレイアたちは別れると、レギの監視を白蛇に任せるのだった。


 「これ、失敗作たち」


 レギは山と積もった失敗作を白蛇の前に置いた。

 一切眠らず食事も取らず、そうやって誕生した失敗作たち、リュウイチは胡乱げに《能力鑑定(ステータスオープン)》してみると。


 【鉄鋏:最高ランクの切れ味と耐久性を両立した一品。レギ製】


 と出たな。


 「あのレギさんや、この鋏で、も、もう充分なんじゃー?」

 「ん、形が気に入らない」

 「造形まで拘るの!?」


 すでに鋏そのものは、世界最高ランク、いわゆるSSS級(アメイジンググレード)の鋏である。

 蛇神様の仰る通り、レギの才能はもはや人間国宝級である。

 ドワーフであることを差し引いても、これほどの才能はないだろう。

 やはり、天才とは分からない。

 あるいは、レギ自身、トラウマが極度に肥大化しているのか。


 「白蛇様お願いがある、脱皮した鱗でいいから、鱗頂戴!」

 「マジか!? 鱗って……えぇ」


 蛇とはいえ竜鱗、レギはその貴重素材がどうしても必要であった。

 竜なら大森林にも生息しているが、竜の討伐など白蛇には不可能である。

 事実ベヒーモスよりも強大な力を持つのが竜種だ。

 その鱗一枚、いかに命懸けか分かるというもの。

 レギは目に入れても痛くないほどの愛しい住民だが、流石のお願いには苦悩した。

 蛇ではあるが、今の所まだ脱皮はしていない。

 そもそも蛇竜に進化して間もないのだから、抜け落ちた鱗さえない。

 となると生剥(なまは)ぎとなるが、あまりの怖気に血が引く。


 「う、ううう、怖いなんてもんじゃねぇ……だがレギの為、ううん……ええい、俺も男だ! 俺の鱗剥ぎやがれ!」


 白蛇は覚悟を決めると、涙ながら蛇竜鱗をレギへと献上する決断をする。

 きっと死ぬほど痛いのだろう、いや痛みのあまりショック死もありうる。

 昔マフィア映画で人間の皮を剥ぐシーンで、ショック死する剥がれた人間に、ションベンを散らすほど怖かったのを思い出した。

 改めて剥製って残酷(ざんこく)だよなと、痛感する。


 「ん、それじゃあちょっと拝借……」


 レギは専用の器具で白蛇の鱗を剥ごうとした時、外で揺れるほどの喝采が上がった。

 二人はビクンと震えると、なんだなんだと工房を出た。

 新市街中央庁舎前広場に、ある一匹の白い巨大猫が大きな翼を広げて着陸していた。


 「あれベヒーモス? なんか姿が変わって……」


 リュウイチは広場へと飛んでいくと、ベヒーモスも白蛇に気付いた。


 「あっ、兄貴ー、これ見てニャー!」


 ベヒーモスは仕留めた獲物に手を起き、自慢げに笑っていた。

 ベヒーモスが足蹴にしていたのは、ベヒーモスよりも巨大な黄色い鱗の魔物だった。

 広場には物珍しさに観衆が集まっている。

 そうそれは……。


 「なんと雷龍(サンダードラゴン)ニャー!」

 「ななな……!」

 「どうニャ兄貴ー! 凄いだろニャ! ベヒーモスが仕留めたニャー、て兄貴?」


 これは天より垂らされた蜘蛛の糸であろうか。

 今リュウイチは宝くじ一等を当てる以上の幸運を得たのであろうか。

 何よりこれでリュウイチは生きたまま鱗を剥がれる必要性が無くなった。

 その嬉しさたるや。


 「神様仏様ベヒーモス様、一生感謝しまぁぁぁぁす!!!」

 「どうしたんだニャ、ていうか兄貴も進化したニャ?」

 「兄貴もって、やっぱりベヒーモスも……」


 念の為、ベヒーモスの《能力鑑定》をすると。


 【 種族 】 セラフィムベヒーモス

 【 レベル 】 1/150

 【 ランク 】 ☆☆☆☆☆☆☆☆

 【 攻撃力 】 705

 【 防御力 】 598

 【 魔法力 】 907

 【 魔防力 】 681

 【 敏捷力 】 1015

 【 スキル 】 猫の加護 魔法の才 身体変化 大魔法の知識 状態異常耐性・強 魔力自動回復 聖魔法 聖獣


 「うわーお」


 見事に進化してらっしゃる。

 今まで混沌系かと思ってましたが、新たに聖魔法を習得し、更に聖獣とのこと。

 思いっきり光属性的な進化してますね。

 これってつまり、師匠リッチクイーンの言っていた伝説の聖獣へと至ったってこと?


 「聖女を守護せし聖なる獣……まさかベヒーモスがそっちに進化するとは」

 「テヘヘ、この力で兄貴を護って見せるニャー」


 ベヒーモスにとっての力とは、いつしか自分の物ではなくなった証。

 セラフィムベヒーモスへと至ったのは、兄貴に対する敬愛であった。

 まだまだレベル1だが、ベヒーモスは聖獣への一歩を踏んだのだと、白蛇は感慨深く微笑(ほほえ)んだ。


 「てっきりベヒーモスなら、進化はドラゴン系かと思ってた」

 「ニャーも目標は竜王だったけれどニャ、今ではこの姿も誇らしいニャ」

 「そっかー、あ、因みに俺は厳しい修行の末、蛇竜に進化したぞ」

 「ドラゴンニャ!?」


 こっちはこっちで、蛇竜進化に驚く。

 お互いなんだか真逆の進化したみたいで可笑しかった。

 力を誰かのために使う為に進化したベヒーモスと、護るためにも先ず力を必要としたリュウイチ。

 この同時期に進化するというのは、運命であろうか。

 これにはきっと運命神も微笑んでくれたであろう。


 「それよりも! なぁベヒーモス、この雷龍の鱗をくれないか!」


 死活問題、剥製になりかけたリュウイチへの天からの贈り物としか思えない雷龍の死体。

 ベヒーモスは「勿論ニャ」と答える。

 遅れて広場へやってきたレギは、雷龍を見て目を丸くしていた。


 「白蛇様……これって」

 「ドラゴンだよっ、レギ……天啓だ、これで最高の作品を作ってみろ!」

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