第78話 ランクアップ・フォース
通算四度目の進化。
ニンゲンと異なり魔物は自己を進化させ、より強大になる性質を持つ。
弱小の☆のスライムでさえ、果てしない進化の頂きへと辿り着けるのならば
|☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆《ほしじゅうに》の究極新超水魔になれる可能性があるのだ。
過去実際にゴブリンキングやオークキングが誕生し、強大な力を奮った例はあった。
ベヒーモスが龍王バハムートに至って例や、一匹の小魚に過ぎない弱小魔物がリヴァイアサンへと至り海の支配者になった例もある。
総じてそれは神への頂きを登る果てしない道、その殆どが寿命により道半ばで果てていく。
さて――神の眷属は本来ならランクを持たないのだが、例外として白蛇だけが神でありながらランクを持っている。
神特有の不老を持つリュウイチ、既に四度目ともなるランクアップにより、その力は増々強大化していく。
だが神の眷属としてはそれでもあまりに貧弱、しかし蛇神と猫神の二柱はそんなリュウイチにある種期待していた。
ランクを持つ神がいない以上、ランクアップし続けるリュウイチはもしかしたら自分たちに並ぶ可能性さえある。
何より退屈を嫌う神々が、これ以上にない可能性という獣に期待するのは当然なのだ。
そしてそれは次第に他の神々にまで波及していく。
「最近蛇神と猫神がずっとつるんでいるよな」
「なんでも新しい玩具に夢中とか」
「ハー、アイツらこの前も人神の子を権能で殺めちまった後だろ?」
リュウイチの巻き添え事故死は、神界でさえ知れ渡っていた。
最も広いようで狭いこの神界では、少しでも面白そうな話題は退屈に辟易な神々には格好の玩具だが。
神界の街並みでそんな噂話が聞こえて来ると、件の人神は表情を曇らせた。
「…………っ」
そんな人神の横には雷神と呼ばれる色黒マッチョな男神がいた。
「人神、一度失ったものは神とて取り戻せぬ、その摂理は受け入れよ」
「分かっているわ……分かっている」
人神は優しい神だ、リュウイチがもう人の子で無くなっても、まだ慈しんでいる。
今やあの子は蛇神の眷属、取り戻すことは叶わない。
せめて人神として、あの子になにか詫びをしたいという思いはあったが。
「そろそろニンゲンもランクアップだニャー」
凄く聞き覚えのある声、人神は道を振り返った。
そこには仲良く猫神と蛇神が神界スーパーマーケットで特売品の酒のツマミを持ち帰る途中であった。
隣にいた雷神は舌打ち、あの邪神紛いの二人のモラルの無さは神界でも評判なのだ。
けれど、人神からすれば無関係でもいられない。
だからこそ、あの二柱の下へと向かった。
「そこの二柱!」
蛇神はおろっと振り返る。
なんやなんやと猫神も訝しんだ。
§
【新たな形質を獲得しました】
そうアナウンスが脳内に流れると、リュウイチはゆっくり目を開いた。
目の前には呆然とする師匠のリッチクイーンがいた。
「……どんな感じ?」
「こんな感じじゃ」
師匠は魔法で水鏡を生み出すと、リュウイチは改めて進化した自分を見た。
その姿は正当な白蛇、しかし鱗がやや変化している。
これはどういう姿か……一見すると最初の形態に逆戻りしたように見えるが。
「……能力鑑定」
【 名前 】 リュウイチ
【 種族 】 蛇竜(白蛇の姿)
【 レベル 】 1/60
【 ランク 】 あペ
【 攻撃力 】 397
【 防御力 】 353
【 魔法力 】 421
【 魔防力 】 357
【 敏捷力 】 459
【 スキル 】 蛇神の加護 猫神の加護 能力鑑定 光の翼 身体変化 邪眼 丸呑み 天候操作 天辰剣 占星術の才
……なにこれ? もう一度白蛇はポカンとする。
とりあえず調べてみると。
【天候操作:その周囲の相を強制変化させ、天候さえ自由に支配する】
「相の変更?」
これまた難解な言葉が出てきやがりました。
物は試しか、リュウイチは早速この《天候操作》とやらを発動する……が何も起きない。
「あれー、何も起きないぞ?」
「察するに、なにか指定がいるのではないか、魔法ならどこに放つかとか、明確にする必要があるぞ」
一般的な魔法を習得していないリュウイチにはピンと来ないが、魔法には厳格なルールがあるらしい。
ゲームに例えれば、魔法を選択し、次に使いたい魔法、最後に範囲という感じだろう。
一つでも失敗すれば、キマイラの自爆みたいなことになるそうだ。
一方でこちらの《天候操作》はあくまで特殊能力だ、そう考えると自ずと使い方は。
「よし、だったら《天候操作》、雨になれ」
もう一度使用、すると空がゴロゴロ鳴り出し、一瞬で古代遺跡は土砂降りとなった。
「うおっ!? 早っ! 天気変わるの早っ!」
「これは……! 遺跡どころかこの地方全体で天候が雨になったのか!? いや違う……水と風の理力が急増したのか!?」
相を変化させるとは、師匠からすれば、その空間が持つ属性が変化したということだ。
言い換えれば、さっきまで大地の精霊がふんぞり返っていたのに、それを水の精霊と風の精霊が追い出した状態だ。
これにはリュウイチも苦笑い。
(まーたとんでもスキルだよ、これもどーせインチキみたいな性能なんだろうなー)
そもそもして、天候を変えるのは高度な魔法だ。
限定範囲を絞ればフレイアでも可能だが、こっちは原理が異なる。
相を変える、分かりづらいが、今ここは水の相と風の相らしい。
単純に運用すれば、どこでも晴れに出来るし、砂漠に雨だって降らせられる。
「えと《天候操作》、晴れに変えて」
今度は速やかに雲ひとつなく晴れやかに変わる。
火の相が水の相を追い出したからだ。
「んで、更に謎なのが、こいつか」
【天辰剣:空を断つ竜の剣】
「これも使わにゃよく分からんか、んじゃ《天辰剣》」
その瞬間、ズドンと地響きと共に雷が目の前に落ちる。
雷が着弾した場所はバチバチと帯電していた。
空を断つってこういうことか、ようするに落雷と。
「今のはなんじゃ? 《サンダー》に似ているが、魔力を感じんぞ?」
「自分でも分かりませーん、まぁ概ねサンダーですよね」
敢えて言えば、今回の進化、割と和龍要素のようだ。
蛇竜とはなにかと思えば、瑞神のようなものらしい。
蛇鱗ならぬ龍鱗は、それ自体が頑丈で魔法耐性も高い。
売ったら案外いい値段かもなー、なんて考えたりしているが。
「ともあれ、進化完了っ、強くなりましたよ師匠」
「うむり、しかし妾からすればまだまだじゃ、修行を続けるぞ!」
「はいっ!」
確かに蛇は今や竜に至った。
それでもリュウイチはいまだちっぽけな半神にすぎない。
それにしてもリュウイチが思うのは。
(増々人間から遠ざかるなーとほほ)




