第77話 強敵との激闘
「一気に攻めろ! キマイラは再生力が高いぞ!」
再生力、ゴライアスの時の嫌な記憶が嫌でも思い出される。
魔物は少なからず治癒能力が高いが、中にはゴライアスのように凄まじい速度で治癒する輩までいる。
キマイラもそういった再生力のスキルがあると踏むと、持久戦は不利だ。
ならばと、リュウイチは《猫神の加護》を引き出した。
薄ぼんやりとしたオーラがリュウイチに猫の手、猫の足、猫の耳、猫の尻尾を生やす。
こうなると見た目はムキムキラミアだが、身体能力は猫そのものだ。
「キシャー!」
猿が咆える、強大な炎が津波のようにリュウイチに迫った。
「不味いヒートウェイブじゃ!」
即座に状況判断の必要がある。
死を運ぶ熱が迫る中、逃げるなら真上に飛び上がればいい。
だがそれではキマイラは倒せない、倒すなら決断するべきだ。
白蛇の首から吊るされた蒼い三日月の振り子は、勇ましさを予言している。
「猫の瞬発力!」
決断は一瞬、リュウイチは正面から突っ込んだ。
光の翼を盾に《エナジープロテクト》を展開、死の熱からリュウイチを護り――突っ切った!
キマイラは虚を突かれ、反応できない。
リュウイチはすかさず宙返りし、猫キックを浴びせた。
キマイラは怯む、だが直ぐに今度は犬の顔が氷の魔法を放とうとしていた。
「猫パンチ!」
そこへすさかず今度は猫パンチ、犬の顔は面食らい氷の魔法の発動に失敗してしまう。
待ってましたと、そのまま今度はケートゥパンチが、犬の顔面を叩き潰す。
「ナイスじゃリュウイチ!」
師匠の声援も熱が入る。
このまま一気に押し込もうとするが、直後風の刃が背中を襲った。
「ぐあ!? な、なにが!?」
最悪だった。リュウイチは背中をやられ、背後の気配を魔力探知すると、【巨鳥】が風の魔法で襲ってきたのだ。
更にキマイラはリュウイチをライオンの前足で、上から押し倒す。
リュウイチはキマイラの踏みつけをモロに受けて、痛みに悶絶してしまう。
「グアアア⁉」
想定外過ぎる事態、リッチクイーンは手を出すか逡巡する。
キマイラ一匹なら今のリュウイチなら勝てた筈だ。格上だったが、師匠の思惑を大きく外れる嬉しい大健闘であった。
しかしそこにズオーまで加わるとなると、もう身に余る。
この二匹同時討伐となれば、最上級の冒険者一行でさえ、手こずるであろう。
キマイラは一般にAランク魔物と評される、正式には☆☆☆☆☆☆の魔物だ。
一方ズオーもBランク、☆☆☆☆☆の魔物。
空を飛び回り、風魔法を巧みに操る空の支配者だ。
無論リッチクイーンならば、瞬殺可能な二匹だ。
しかしリュウイチの実力はよくてBランク、実際の能力はCランクといったところだ。
実力に反して妙に強力なレアスキルでなんとかしているが、地力を求められる場面ではこのように脆い。
「ままならんか、今助けるぞリュウイチ!」
「まだ、だ……!」
リュウイチは痛みを堪え、キマイラを必死にリフトアップ。
キマイラは驚く、まだこれだけの力が残っていることに。
ならばとキマイラは再び《トライディザスター》を発動させる。
炎、氷、雷の理力が世界を蹂躙する、だがリュウイチはその時、《邪眼》を猿に掛けた。
その瞬間は暴走、猿は魅力され、三位一体の力が乱れたのだ。
暴走する魔法はキマイラさえも飲み込む、だがそれは同時にリュウイチも巻き込んでだ。
「リュウイチ無茶だー!」
悲痛な師匠の叫び、師匠を泣かせるほど落ちぶれたつもりはねぇ!
リュウイチは一瞬で、遥か上空へと物理法則を無視して飛び上がった。
光の翼の無茶苦茶な権能が、この不可能を可能にしたのだ。
結果的にキマイラは大ダメージ、リュウイチも無傷ではないが。
「はぁ、はぁ鳥野郎! こっちへこい!」
《邪眼》はズオーにも掛かり、ズオーは魅了されてリュウイチに迫った。
リュウイチはズオーの背中を掴むと、そのまま無理矢理急降下。
「必殺!《流星落》!!」
ズオーとキマイラが同時に激突。
地面は砕け、二匹の魔物はノックアウトされた。
「はぁ、はぁ……勝ちました師匠っ!」
師匠リッチクイーンは、ボロボロの弟子を見て涙すると、リュウイチを抱きしめた。
「ふえ!? し、師匠?」
「……この馬鹿弟子がぁ! 何故逃げなかった! 一歩間違えておれば死んでいたのだぞ!」
リッチクイーンはポロポロ泣きながら、この愚かな弟子に説教した。
一方でリュウイチは、ケロっとした顔。
「いや、本当にやばいなら師匠が助けてくれるだろうなーと思ったので」
その瞬間、ドゴシャアと攻撃力2541から繰り出される平手打ちがリュウイチを襲った。
錐揉み三回転で吹っ飛ぶリュウイチは血を吐いて、地面に倒れる。
師匠魔道士っぽい見た目に反して、キマイラの十倍近い攻撃力は今日一番の痛打であった。
「この阿呆ーっ! だから妾はお前の破滅を回避させる為に師匠やってんじゃぞー!」
「お、おおお……し、師匠……?」
「お前自ら命削りの策を取ってどうする!! 逃げることは臆病に非ず、蛮勇こそ正せ馬鹿弟子がー!」
師匠マーシーの悲痛な叫びは、痛いほど痛感させられる。
肉体の痛みならなんとか耐えられた、でも師匠の涙には耐えられない。
「ごめんなさい……師匠」
師匠の助けありきで、無謀を晒すなど馬鹿でしかなかった。
確かに早く強くなって欲しいとは願っている、それでも弟子が傷付く姿は一番堪えるのだ。
「……妾には何百人もの弟子がいた、だがその弟子たちも皆寿命だったり、病気だったり、戦争なんかで死んでいった。妾は不死者ゆえ見送ることしかできん、まだまだ若い者が命散らすなぞ、妾は認めんぞ」
冷酷で無慈悲な最初の印象とは裏腹に、この異次元の実力を持つリッチクイーンでさえ、死を畏れ哀しんだのか。
きっとそれは辛い記憶だったろう、だからこそ真剣に怒れるのだ。
リュウイチは恥じた、何度目かも忘れたがまた恥じた。
この不死者の思い出を穢すなんてあっちゃいけない。
だからこそ、師匠を安心させる強さを得たい――。
【レベル上限到達しました】
【新たな姿へとランクアップします】
その時まるで求めに応じるかのように白蛇の身体は強く輝いた。




