第76話 リッチクイーンのクエスト、毒禁止!
修行二日目――。
政務を熟し、白蛇はリッチクイーンに再び古代遺跡に連行された。
相変わらず昼も夜もない、それでも白蛇はやる気を見せていた。
「おーし、今日も頑張るぞー!」
「やる気充分のようじゃな、そんなお主に今日は妾の``クエスト``を授けよう」
「く、クエストー?」
あからさまに警戒心を見せる白蛇、本当に嫌そうな顔をするもんだなー、と蛇顔の可能性に感心するが。
「リュウイチの戦い方を分析したところ、攻撃手段に毒を多用しておるな」
「そ、それがなに?」
「今日は毒禁止じゃ! 力技で戦うのじゃ!」
ドーンと、声高々宣言される。
リュウイチは愕然、そりゃないぜ。
「あのー、知っての通り俺、蛇なんですよ、毒蛇ってやつです」
「そりゃ知っとる」
「蛇が毒使うなは、そりゃあんまりじゃありません!?」
「甘えるなっ! そもそも毒を持たない蛇も多かろうが!」
そりゃボアとかパイソンは毒を持たないが、毒のない蛇は総じて巨体だ。
それに対して白蛇は細長い、膂力にはまるで自信がないのだ。
毒を多用するのも、地力が足りないから、蛇神の毒で倒せない敵なぞリッチクイーンくらいであろう。
「ええい言い訳無用じゃ! お主毒が無ければその程度か!」
「ぐぬぬー、どうすんだこれ?」
なんてクエスト撤回を希望しても、師匠はもはや梃子でも動くまい。
そして魔物の巣窟でそうやって騒いでいると、空から魔物が襲撃してきた。
白蛇は咄嗟に空を見上げる、熱量無し、ガーゴイルめいた石像の悪魔【ストーンビースト】が急降下してくる。
「あぶね!?」
ストーンビーストの爪攻撃を白蛇は咄嗟に回避、直後石畳が粉砕された。
「さぁ頑張れー、たかが石像の悪魔じゃ、軽く粉砕せよ!」
「だーもう!」
直ぐに安全圏に逃げて煽ってくる師匠に苛立ちながら、白蛇は身体変化ケートゥへと変身する。
「くらえ《ケートゥパンチ》!」
逞しい上半身から繰り出される巨木さえ一撃で粉砕する一撃、しかしストーンビーストはすかさず飛び上がった。
空を切る拳に白蛇は舌打ち、直ぐにストーンビーストを追って飛び上がる。
てかなんでストーンビースト飛べるんだよ、やっぱり魔力とかで飛んでいるのか?
ともあれ、ストーンビーストに追いついた白蛇は再びケートゥパンチ。
「とりゃぁ!」
ストーンビーストは顔面を粉砕。
あれ、一撃? なん油断していると首なしストーンビーストは両手を突き出し炎を吹き出した。
《ファイアボルト》の魔法だ、リュウイチは苦悶の表情に歪めた。
「気をつけよ! ストーンビーストはコアを破壊しない限り動くぞ!」
一見すると悪魔系の魔物だが、実際はゴーレムと同じ物質系の分類のストーンビースト。
ある意味リュウイチも初見殺し引っかかったといったところか。
ならば徹底的にやるしかあるまい、リュウイチはストーンビーストの腰を掴むと、天地逆さまに地上へと急降下した。
「どりゃーっ!」
そのまま地上スレスレで、ストーンビーストを石畳に投げつける。
ストーンビーストは凄まじい衝撃にバラバラに粉砕された。
今度こそストーンビーストの最期であった。
「やるではないか、先程の一撃さしずめ【流星落】と言ったところか」
ピコン、と脳内にもアナウンス。
どうやら先程の技、正式に必殺技として認定されたらしい。
【流星落:落下スピードと重量を加算した必殺技、相手が重たいほど威力が上がる】
なるほど、必殺技ってこうやって習得するんだねーと、今更ながら感心する。
まぁ使い所は投げられる程度の相手に限るし、ケートゥ形態専用ってところか。
「さて、ストーンビーストなど小物、大した経験値にもなるまい、次行くぞ次ー」
「うー」
なんだか見ているだけの師匠に不満顔になる。
そりゃまぁ師匠が相手だと、ここの魔物は皆秒殺だからそれこそ経験値にならないだろうけどさ。
念の為リュウイチは自分の現在のレベルを確認しておく。
【 名前 】 リュウイチ
【 種族 】 ケートゥ(白蛇の姿)
【 レベル 】 42/45
【 ランク 】 タ5
相変わらずランクはバグってて意味不明。
レベルは42と順当に成長している。
あと少しでランクアップだ。
「ランクアップ……次どんな姿になっちまうんだ?」
以前は中級進化態ということで、大きく見た目も変化した。
いきなり次で上級進化態はないと思うが、それはそれでランクアップは毎度のこと悩むのだ。
優柔不断なリュウイチには嬉しい反面、困ったもの。
ともあれ強くなるには堅実に経験値を貯めるしかないだろう。
「おーし、次だ次ー!」
リュウイチも気合を入れる。
そんな時、さらなる魔物が目の前から現れた。
それはライオンの胴、猿の顔と山羊の顔、そして犬の顔の三つ、蝙蝠のような翼、尻尾は蛇。
様々な動物が掛け合わされたその姿は。
「不味い【キマイラ】か!」
キマイラ、ゴブリンやスライムと並び、ファンタジー世界の鉄板魔物、だがあの師匠が不味いと言った。
キマイラは三つの頭で奇妙な咆哮を上げると、空気がピリピリとひりつく。
「くぅ……なんだこいつ?」
「キマイラは今のリュウイチにはちと荷が重いか……逃げるのも視野に入れよ」
あの師匠が撤退を選択肢だと言った。
つまりそれほど場違いな敵ということか。
それでもリュウイチはキマイラを睨むと、拳を打ち付けた。
「やるだけやります! かかってこいやキマイラ!」
「ガオオオオン!」
キマイラは三つの頭部から炎、氷、雷の魔力がデタラメに放たれた。
《トライディザスター》、魔法を三つ同時に繰り出せるキマイラ独自の魔法だ。
正に災害めいて目の前の全てを破壊し、その累は師匠にまで及ぶ。
「ふん、見境なしめ」
師匠は《マジックバリア》で難なく防ぐ。
一方リュウイチは光の翼を広げて一瞬でキマイラ背後を取った。
「隙ありだぜっ! ケートゥパ――」
しかしだ。ケートゥパンチを放とうとした刹那、キマイラの尻尾の蛇が奇声上げてリュウイチに噛みつこうとする。
慌ててリュウイチは後ろに飛び退く。
「……へ、蛇が襲ってきた?」
『困惑しているねー、言っておくけどキマイラの尾は蛇っぽいだけで、蛇じゃないからねー』
『そもそもキマイラはどの生物とも異なるから加護による威圧は通じんけどニャ』
少しでも蛇に安心していたリュウイチにはショックであった。
キマイラはそう見えているだけで、完全に別種の生き物、蛇は蛇じゃない、か。
「なろー、じゃあこういうのは効くのか? 《邪眼》」
リュウイチの目が怪しく輝くと、キマイラの尾は瞬く間に石化した。
だが意外なのは、尻尾しか石化しなかった。
つまりキマイラは複数の命で構成されているのかも知れない。
「ガオオオオン!」
キマイラは尻尾をやられて激怒、リュウイチに振り返ると猛突進してきた。
だが敢えてそれに応じよう。
リュウイチは両手でキマイラの突進を受け止める。
「ぐううう!? ま、まるで重機関車だ!」
それほどの体当たり、それでもリュウイチは踏みとどまった。
キマイラは苛立ち、猿の口から毒の息を放った。
毒の息を吸い込めば、瞬く間に猛毒に冒され死に至る。
だがリュウイチはそれを嘲笑う。
「こちとら毒蛇だぜ、毒なんか効くかー!」
実際には《蛇神の加護》の効果で、あらゆる毒、麻痺、石化が通じないが正解だが。
ともあれ存在としての格の違いを見せたリュウイチは今度こそ必殺をキマイラに浴びせた。
キマイラは後ろに下がり、たたらを踏む。
痛打だが、一撃必殺とはいかない。
キマイラも耐久力は一級品だ。




