第73話 ベヒーモスの挑戦 前編
強くなりたい、その願望は白蛇だけではない。
リッチクイーンの一番弟子ベヒーモスとて同じである。
「ニャーも早く進化したいニャ、その為には」
普段ベヒーモスは魔物街の林業や、周辺警備を――自主的に――している。
もっともどちらもベヒーモスからすれば、ついでと言ったところだが。
だがしかし魔物街周辺にはベヒーモスが苦戦するような魔物は生息していない。
このぬるま湯のような環境も嫌いじゃないが、リュウイチが師匠に連れ去られた以上、ベヒーモスにも内なる魂に火が着いたのだ。
目指すは大森林深層、伝説の暗黒竜の眠るとされる大樹の周辺。
ベヒーモスは飛翔しながら、ヒシヒシと伝わる強大な魔力の波動を感じ、少なからず畏怖する。
暗黒竜の封印洞窟から滲み出す暗黒竜の邪気とでも言おうか、その力は大地へ滲み出し、魔物に強い影響を与える。
その為か、中心に近づくにつれ、強大な力を持った魔物が出没するのだ。
ベヒーモスがさらなる進化するならば、必然と強力な魔物と戦うしかない。
何よりも、リッチクイーンに扱かれる尊敬するアニキに、見初められる強いベヒーモスであり続けたいから。
「ニャオオオオ!」
ベヒーモスは咆哮をあげる。
これだけで弱い魔物は遠ざかり、強い魔物だけがベヒーモスに寄ってくる。
そしてそれは戦いの合図であった。森林から緋色の飛竜が飛び出してくる。
ワイバーンの一種、【クリムゾンワイバーン】だ。
以前十把一絡げに倒したワイバーンの上位個体だ。
「キシャー!」
「ニャアッ!」
クリムゾンワイバーンは凄まじい飛翔速度でベヒーモスに飛びかかる。
ベヒーモスの胴体に組み付くと、火炎ブレスを放った。
ベヒーモスは炎に晒されても構わず、全身を鋼鉄の棘に変え、クリムゾンワイバーンを串刺しにした。
クリムゾンワイバーンは藻掻く、魔物ならではの高い生命力だ。
「これで終わりニャ! 《ライトニングフレア》!」
全身から放たれる電撃、これにはクリムゾンワイバーンもあえなく黒焦げにされてしまう。
ベヒーモスは全身を元の毛皮に戻すと、クリムゾンワイバーンは真っ逆さまに落ちていった。
レアな魔物は死体でも有用素材となり得るが、それを気に留めるほど今のベヒーモスに余裕はない。
それにクリムゾンワイバーンなど、この森では雑魚でしかない。
それこそベヒーモスのように強大な力を持つ魔物はうじゃうじゃといるのだ。
「このまま森の中へ行くニャア」
より強い魔物に出逢うため、全ては進化へと捧げる経験値を求めて。
急降下し、森の中へと降り立ったベヒーモスは次の敵の気配を探る。
ここは白蛇のアニキなら顔を真っ青にして秒で逃げていく超危険なエリア。
ベヒーモスの知りえない格上が存在するやもしれない。
そしてある意味それを求める。
格上を狩れなければ強くなったなんて言えない。
進化はきっとその先にあるのだから。
ズシン、大きな足音。
巨木を押し倒しながら、二足歩行の獣脚類がベヒーモスに迫ってくる。
【暴恐竜】、ベヒーモスの優に二倍はある巨体を揺らし、ベヒーモスに狙いを定めた。
「ガオオオオン!」
タイラントレックスが吠える。それだけで森が震え、ベヒーモスが戦慄する。
単純な膂力ならベヒーモス以上、油断すれば一瞬であの巨大な顎で噛み千切られる。
それでもベヒーモスは態勢を低くして、唸り声を上げた。
一触即発、先に飛び出したのはベヒーモスだ。
爪を尖らせ、疾風を纏う一撃、タイラントレックスの顔面を切り裂いた。
鮮血が舞う、だがタイラントレックスを仕留めきれない。
タイラントレックスは暴れ狂い、尻尾がベヒーモスを襲った。
ベヒーモスは瞬時に鋼鉄化し、それを受け止める……が、凄まじいパワーに鋼鉄化したベヒーモスでも吹き飛ばされた。
「チッ、なんてタフな魔物ニャ」
樹木をなぎ倒し、ベヒーモスは舌打ちする。
最もそれ以外はベヒーモス以下だ、敏捷性も魔力もベヒーモスの方が上、上回られているのは膂力くらいだろう。
タイラントレックス、そのパワーは凄まじいが、それだけである。
「とはいえ、速攻で仕留めるとニャると、こっちも手が欠けるニャア」
負けるつもりはない、けれど簡単には勝てない。
だがそうやって手を拱いている時、突然タイラントレックスの後ろから更に巨大な魔物がタイラントレックスを上から押し潰した。
藻掻くタイラントレックス、それを片手一本で抑えるのは黄色い鱗の竜。
「な……奴は【雷龍】!?」
巨大な体躯、身に纏う圧倒的なプレッシャー、魔物の王とも評される真打ち。
雷龍は強力な《雷龍の息吹》をタイラントレックスに浴びせると、タイラントレックスは絶命する。
ベヒーモスのライトニングフレアとは比較にもならない強大な一撃、ベヒーモスでさえも冷や汗が流れた。
明確な格上、龍の成熟個体だ。
雷龍はそのまま今度はベヒーモスを睨み付ける。
「コノ地ヲ荒ラシタノハ貴様カ」
「お前、言葉を操れるのかニャ」
「質問二答エヨ」
ドラゴンは高い知性を持つ。
まるで品定めするようにベヒーモスを見た。
ベヒーモスは全身の毛を逆立たせ構えた。
「そうニャ! ついでにお前も倒して経験値にさせてもらうニャア!」
「愚カナ、身ノ程知ラズガ」
果たしてベヒーモスはドラゴンを狩れるのか?
本当は愚者なのか。
ただ強くなりたい、今ベヒーモスの挑戦が始まる!




