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第66話 災厄の魔女襲来

 モリブデン公国からやってきた冒険者一行は魔物街へと急いでいた。

 マフィア残党の調査を主にして、ゴブリン族とともに森を探索していたが、イーリス族のユズがやってきて、白蛇が呼んでいると伝えたのだ。


 「しっかしあの白蛇がなんの用だー?」


 赤毛の人族の青年ラインは走りながら愚痴る。

 後ろをえっほえっほと追いかけるハーフエルフのリテリルはむしろユズを思い浮かべた。


 「それにしてもあのイーリスの女性、美人だったなぁー」

 「あぁ胸もデカかった、お前と違って」


 ラインは嫌らしくリテリルの控えめな胸を見る。

 リテリルは胸を手で隠すと顔を真っ赤にした。


 「変態! 胸で判断するなんて最低よ!」

 「……愚かな、これだからお前らは」


 一番後ろ、周囲を警戒しながら走る寡黙な灰色狼の獣人グリードは溜息(ためいき)()く。

 煩悩に塗れたラインとリテリルに呆れたのだ。

 だがそれにムッとしたラインはビシッと指を指すと。


 「人妻に発情するテメェに言われたくはねぇ!」


 それを言われると、グリードは一気に慌てふためく。

 後から知ったことだが、彼が一目惚れしたコボルト族のククルは人妻なのだ。

 だが恋心というのは止められない、まして獣人は欲しいと思ったものには一途なのだ。


 「しかし俺はククルさんが……うううう!」


 苦悶に満ちて葛藤するグリード。

 このままだと、ククル襲いかねないとリテリルは危惧するが。


 「グリードさん、ククルさんに手を出しちゃ駄目ですよ?」

 「手!? だ、出さん! 俺はそこまでふしだらではないっ!」

 「おい街だ、見えて来たぞ……ん?」


 ラインは街を見つけると走る足を休める。

 ようやく安心できる距離、ここまでくれば野生の魔物に襲われることもない。

 奇妙な話しだが、冒険者を歓迎してくれる魔物もいれば、襲ってくる魔物もいるのは不思議に思えた。

 魔物も様々、思った以上のニンゲンは魔物を知らないのかも知れない。

 だからこそ、魔物街の入口を覆う(やみ)に最初気付けなかった。

 だが強烈な闇が蠢いているのに気づくと、ラインは剣を構え戦慄する。


 「な、なんだあれは!?」

 「グルルル、強烈な腐臭がする……」

 「アンデットなの!?」


 もはや冒険者一行に戯ける気配はない。

 ただ闇を睨み、どうするか思案する。

 そして闇は……。


 「ククク……なんとまぁ長閑なものよ」


 闇の中心には日光を一切(いっさい)遮る妙齢の女性が歩いていた。

 女性の肌は真っ白で青い血管が浮かび、妖艶な漆黒のドレスを纏っていた。

 表情は金の冠に隠れて見えず、ただ口元が怪しげに歪む。

 リッチクイーン、モーア大森林でも三指に数えられる最強の魔物の来訪であった。


 「な、なんだこの気配は!?」

 「邪魔をするな、退け」


 リッチクイーンが手を払うと、その周囲を囲むオーク族やゴブリン族は強引に地面に縫い付けられた。

 強力な重力魔法を前に、誰も動けないのだ。


 「皆大丈夫!?」


 そんな魔物を心配するハイエルフの少女が駆けつけてきた。

 周囲はハイエルフが手掛けた農地、少女はリッチクイーンを睨み付ける。


 「アンタがやったの!?」

 「ククク……ハイエルフとは美しいのぅ、まぁ(わらわ)には劣るが」


 圧倒的闇の気配にはハイエルフといえど、身動きできない。

 リッチクイーンは舌舐めずりして、ハイエルフの美しい肢体を舐め回すように診た。

 ゾクゾクと背筋が凍る、ハイエルフは身体を両腕で抱き、顔を青ざめさせた。


 「力の差が理解出来るなら、道を開けろ、それとも妾に愛されたいか?」

 「クッ!? 生憎(あいにく)私レズじゃないわ!」

 「そりゃ残念よ、女の喜びを教えてやってもよいのだが」


 ハイエルフは羞恥心に耳まで真っ赤にすると、あらん限りの暴言でリッチクイーンを罵倒した。


 「変態変態変態! 何考えてんのよ馬鹿! 俗物がっ!」

 「やっぱりエルフって変じゃのーまぁよい、妾の目的は――」


 その時、街の奥から光の翼を広げた白蛇が飛来する。

 リッチクイーンはそれを認めると、ニヤリと笑った。


 「な、何事だー!?」


 白蛇リュウイチが見たのは、見たことない闇に包まれた美女、そして這いつくばる市民たち。

 侵略か? いきなり急襲され困惑のまま兎に角駆けつけたが、死体色の美女(リッチクイーン)にガタガタ震えてしまう。

 リッチクイーンは「ククク」と微笑み、白蛇を品定めした。

 まるで楽しいオモチャが向こうから現れた、といった表情か。


 「そなたが白き翼の守り神……たしかリュウイチ、か?」

 「そ、そうだ俺がリュウイチだ! そっちこそ、これはなんだ!? 何をした!」


 リッチクイーンは周りを見る。

 情けなく這いつくばるオークにゴブリンを見て、彼女は肩を竦めた。


 「なにを憤っておる? 這いつくばる者(ワーム)がなんだ?」

 「ワームだって……こ、こいつ」


 まるで魔王だ、白蛇は必死に恐怖を(こら)え、リッチクイーンに【能力鑑定(ステータスオープン)】を使用する。

 念の為、あくまで彼我戦力差と具体的に知りたい為……しかし。


 【 名前 】 マーシー・クロウリー

 【 種族 】 リッチクイーン

 【 レベル 】 781/999

 【 ランク 】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 【 攻撃力 】 2541

 【 防御力 】 2018

 【 魔法力 】 5768

 【 魔防力 】 4982

 【 敏捷力 】 3733

 【 スキル 】 魔法の才 神秘の才 超魔法の知識 古代魔法の知識 不死女王 大森林の災厄 MP自動回復・大 HP自動回復・大 転生の法


 ……何度目か、見なけりゃ良かったと思ったのは。

 白蛇は彼女マーシーが、並大抵ではないと推測はしていた。

 そして当たっていた、けれどこんなのは聞いていない。

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(ほしじゅっこ)は規格外過ぎるぞ。

 その圧倒的ステータスは、ベヒーモスを遥かに超え、これが大森林の最上位の魔物なのだと思い知らされる。

 逃げなきゃ殺される、はっきり理解る実力差、実際逃げ出したくてたまらない。

 でも、それでも白蛇は逃げられない。

 這いつくばる市民をワーム呼ばわりしたリッチクイーンを許すわけにはいかない!


 「……と、取り消せよ、そいつらはワームじゃない!」


 白蛇は精一杯の強がりで叫んだ。

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