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第55話 イーリスの外交手段

 ゆっくり街を練り歩く白蛇リュウイチ、その側をイーリスのユズは静かについて行く。


 「んんーっ、祭りも盛況でよろしいっ!」


 白蛇はご満悦、まるで猫のように尻尾を楽しげに揺らした。

 一見怪しげな白蛇だが、街では敬われている。

 見かけによらないとは、こういう存在なんだろうとユズは思う。


 「白蛇様はお祭りが好きなのですね」

 「まぁ……なんてーの? 昔はあんまり好きじゃなかったんだけどさ」

 「そうなのですね、では今は」


 まだ人間だった頃のリュウイチはあまり祭り、というより人混みのような物が好きではなかった。

 生粋のインドア派であり、あまり外に関心を持たなかった。

 それが事故で白蛇の半神に転生し、こうやって祭りの運営者側になると、意識ってのは変わるものだ。


 「今は好き! 祭りをちゃんと楽しんで貰えるって、嬉しいじゃん!」


 この変わりよう、白蛇は何度も頷いた。

 街では屋台が立ち並び、多種族が別け隔てなく楽しんでいる。

 やはり数はオークとゴブリンが二大派閥、ついでコボルトか。

 中には武装した魔物もおり、巡回警備している。

 ユズが驚いたのは、街の区画ごとに交番が設置され、警備員が常駐しているということだ。

 やはり発展途上の街らしく、住民の問題は多いようだ。

 しかし多民族社会の難しさに白蛇は果敢に挑んでいるのも分かる。

 自分たちは……イーリスは各氏族を纏められていない。

 改めて魔物街まで来たのは価値があった。


 「なにか食べてみる?」


 なにか、と問われたイーリスたちは困惑した。

 そんな時、一際大きな声が白蛇を呼んでいる。


 「リュウイチ様ー、焼き鳥食べてくんなー!」


 白蛇は声に振り返る。

 エプロン姿のオーク女性だ。

 最初期から村にいたその女性の手元には炭火で野鳥の焼き鳥が焼かれている。


 「いいねいいねぇ、あっ、でもイーリスって鳥は大丈夫か?」

 「お気になさらず、鷲は小さき鳥も捕食するものです」

 「それもそっかー」


 ユズは聡明に答えると白蛇は納得する。

 無頓着そうでマイノリティにも理解がある、なるほど慕われる訳だ。

 多民族とは、それぞれに風習や世俗がある、だからこそなにを守るべきか、それが法律となる。

 白蛇は規範となりえているのだろう。


 「おばちゃん焼き鳥人数分!」

 「あいよっ」


 料理上手のオークは次々と焼き鳥に甘いタレを重ねていく。

 炭火に(いぶ)された鶏肉からは脂が滴った。


 「はい、熱いから注意しな!」

 「ワッフー!」


 白蛇は子供のように燥いで器用にクチで焼き鳥を刺した串を咥えた。

 ユズはおずおずとタレの味が染み込んだ焼き鳥を受け取った。


 「あむっ、うーんこの味が一番だよなぁ!」


 白蛇は焼き鳥を丸呑みするように頬張ると、その味に満足した。

 どんな味か、ユズは小さなクチで齧りつく。


 「美味しいっ、甘く、でも甘過ぎず……焼き鳥がジューシーで!」

 「ユズ様が……」


 ユズは我に気付くと、口元を手で隠した。

 美味しいものに素直に喜んでしまう子供っぽさを照れ隠ししているのだ。

 白蛇なんかは、もう照れとか羞恥とか、どっかに放り捨ててしまっているが、ユズにはまだ体面がある証だろう。


 「皆も食べて食べて!」

 「あの……お代金は、こちらの通貨はまだ持ち合わせていないのですが」

 「俺が立て替えておくから心配するなって!」


 事実材料を仕入れたのは半分は白蛇と言える。

 今回材料に使われたのはフレイムコーチンだ。

 狩人たちが祭りのためにかき集めたフレイムコーチンはあっという間に消費されていった。

 イーリスの中でもとりわけ興味を持ったのはキリコであった。


 「あむっ、むむってこれは食べたことのない種類ですっ」


 キリコは焼き鳥に齧り付くと、その味や、特に食感に関心を引いた。


 「フレイムコーチンだよ」

 「フレイムコーチン……食べるのは初めてです、確かあまり飛ばない鳥獣種の魔物ですねっ」


 キリコは興奮したようにフレイムコーチンについて語った。

 それこそ白蛇もポカンとするほど。

 キリコは鳥獣種を個人的に研究する鳥獣学者であった。

 もちろんモーア大森林の鳥獣種にも詳しいが、直に食べたのは初めてであった。


 「本当はさー、セブンターキーを誰でも食べれるようにしたいんだけどさー」

 「セブンターキー! あの幻の魔物! モーア大森林固有種と知られるあの!?」


 当然キリコはセブンターキーも知っている。

 もはや白蛇に敬意も忘れ、興奮して詰め寄った。


 「え、えと……キミ鳥に興味あるの?」

 「キ、キリコです! そのセブンターキーもあるのですか!?」

 「ある……つーかぁ」


 キリコの圧に圧倒される白蛇、キリコの黒い瞳はキラキラ輝いていた。




          §




 「ふ、フオオオオオオオオ!?!?!? セ、セブンターキー!?」


 魔物街南部農業区を拡張し、仮設牧場に白蛇たちは訪れていた。

 殆ど野ざらしと変わらないが、(さく)に囲われた牧場に二羽のセブンターキーはいた。


 「しかも二羽も! どうして!?」

 「そのまぁ、上手く捕獲出来たっつうかー」


 もはやお祭りそっちのけで、キリコの熱意に圧倒されてしまった。

 セブンターキーは初めて見るイーリス族に警戒しつつ、距離を取る。

 牧場には溜池も設置されており、可能な限りセブンターキーの生息地の再現はされていた。


 「つまり畜産業の研究もしているのですね?」


 ユズはあくまで冷静に白蛇の事業を分析していた。

 畜産は人族が行っている産業である。

 西方諸国では牛を、南方では豚、北方では山羊がある。

 おおよそ魔物の分類されるオークやゴブリンでは発想しない筈。

 白蛇だからこそ、その優位性に気付けたのだろう。


 「と言ってもまだ基礎研究段階なんだけどな、なーんもわからんの!」


 セブンターキーの養殖はあのハイエルフのフレイアをしてお手上げであった。

 元より畜産の知識も無ければ経験値もない。

 今はただ試行錯誤であった。


 「あの……白蛇様! もしよろしければセブンターキー、アタシに任せてくれませんか!?」


 興奮するあまり、自分の立場も弁えずとんでもないことを言い出すキリコに他のイーリスは頭を抱えた。


 「おいキリコ、我々は外様(とざま)だぞ」

 「そうです、これはきっと魔物街の戦略事業……おいそれと部外者を入れるとは……」


 畜産業は、多くの国で保護の対象となっている。

 かつて百年ほど前までは、ある東方の国で羊が国宝として扱われたほどだ。

 畜産物の生きたまま国外へと運べば死罪となるほど、畜産は宝であり、国家の成長基盤である。

 イーリス族も畜産を試さなかった訳ではなかったが、そもそも峻厳なトロス山脈に生息出来る生き物など、少ない鳥獣種のいくつかと、カモシカ程度だ。

 イーリス族はそもそも外敵の少ない山間に身を寄せ、少ない食い扶持(ぶち)を高い飛行能力で輸送や諜報で糧を得てきた歴史がある。

 全方位外交とさえ揶揄(やゆ)されることがあるが、それもイーリスの生き方として定めなのだ。

 だからこそ魔物街の事業は憧れるし、理解も出来る。

 イーリスには絶対に不可能なのだ。


 「白蛇様、私からもお願いします」


 しかしユズはキリコの分を願い出た。

 周りよりも遥かに理知的で聡明、誰よりもイーリスが抱える問題を知るユズが、だ。


 「白蛇様、キリコをこの魔物街で働かせてもらえないでしょうか」

 「そりゃあ願ったり適ったりだけど、そんな遠慮する必要はないぜ?」


 ユズはやはり遠慮している。

 白蛇を敬うのは自然、でもそれを一番不自然に思っているのは白蛇なのだ。

 ユズは聖女アイが電撃をぶちかましたのに驚愕した。

 もしふざけて国王にそんなことすれば、普通は極刑、あるいは謀反人として処刑もありうるだろう。

 それが(ゆる)されている時点で、この街……いいえ国は普通じゃない。

 立憲君主制に近いが、一方で議会共和制を採用し、各種族に議員発言権が認められている。

 言うなれば民主政独裁政治……が正しいか。

 白蛇が愛されているからこそ、街は纏まり、平和な祭りを開けるのだろう。


 「キリコ君、やる気があるなら俺は全然良いよ! アッハッハ」


 白蛇からすれば、もうイーリスと積極的友好関係は出来上がっていると思っている。

 事実議会もほぼ承認するだろう。

 イーリス族が実は侵略を計画しているというならともかく、彼らはより相互の信頼を求めているのだから。


 「ユズ様……これは」


 魔物街出向を任されたイーリスたちは皆エリートであると言える。

 だが勝手がここまで違えば、彼らは困惑した。

 街に入ってからは圧倒されっぱなしで、なにがなんだか分らない。

 特にこの白蛇はただの楽天家か、それとも切れ者なのか。


 「クスッ、良い傾向です」


 ただユズはこれを切っ掛けと思う。

 ユズの想い、イーリス千年の繁栄、その足掛かりにこの白蛇はなる。

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